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動物病院日誌   作者: じょんどぅ


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春の野原のフンワリした罠、あるいは草むらに潜む小さな足音

春の野原のフンワリした罠、あるいは草むらに潜む小さな足音


### 1. 緑萌える鴨川の土手と、首元の小さな動く影


四月の上旬。京都の鴨川の土手や公園には、鮮やかな緑の草が芽吹き、お散歩する人やペットたちの足取りも軽やかな日曜日の午後。

診察室の扉を慌ただしく開けて駆け込んできたのは、ミニチュアダックスフンドの「レディ」ちゃん(4歳・女の子)と、少し青ざめた表情の飼い主の藤原さんです。


「先生、大変なんです! 今日、近くの公園の芝生の上でレディを思い切り走らせて、さっきお家でブラッシングをしていたら、首輪のすぐ下あたりに何か黒くて硬い『できもの』みたいなものが動いているんです……! よーく見たら、小さな足がモゾモゾ動いていて、血を吸ってパンパンに膨らんでいるんです! これって、やっぱり……」


診察台の上で、レディちゃんはいつも通り元気に尻尾を振っていますが、ルーペでその膨らみを確認すると、それは春の草むらで待ち構えていた大人のマダニでした。


「藤原さん、よく気づいてくださいました。これは『春の草むらの本格的な目覚めによる、ノミ・マダニの寄生』**ですね。暖かい春がやってくると、冬の間にお休みしていた彼らが一斉に目を覚まし、草の先端で獲物が通りかかるのを待ち構える**『春のハンティングシーズン』が幕を開けるんです」


### 2. なぜ「春の草むら」はペットの脅威になるのか


多くの飼い主さんが「まだ春先だし、草も短いから大丈夫だろう」と油断しがちですが、自然界の生態系は私たちが思っている以上に素早く動き出します。


* **気温の上昇とともに活発化する生態系:** 気温が $15^\circ\text{C}$ を超えてくると、冬眠から目覚めたノミやマダニが一気に活動を活発化させます。特に公園の草むらや河川敷の土手は、彼らにと格好の繁殖・待機スポットとなります。

* **「無理に引っ張る」ことの致命的なリスク:** 前回(秋編)でもお話ししましたが、見つけたマダニを慌ててピンセットや素手で引き抜こうとすると、ダニの「口器(牙)」が皮膚の中にちぎれて残り、そこから激しい化膿や皮膚炎を引き起こします。

* **ペットから家族への感染リスク:** マダニが媒介するウイルス感染症は、ペットだけでなく、接触した人間にも健康被害をもたらす恐れがあるため、家族全員の健康を守る上でも徹底した予防が不可欠です。


### 3. 春のお散歩を安全に楽しむ「3つの鉄則」


「まさか、こんなに気持ちのいい春の公園でダニがもう活動しているなんて……。これからの季節、どうやってお散歩すればいいでしょうか」と反省する藤原さんに、僕は春の予防策をお伝えしました。


1. **お出かけ前の「定期的な予防薬の継続(スポット・経口タイプ)」:** 最も確実な防御は、春の訪れとともに(あるいは通年で)動物病院が推奨するノミ・マダニの駆除・予防薬をしっかりと投与し続けることです。お薬を飲んでおけば、草むらを歩いても寄生を強力にブロックできます。

2. **お散歩コースのチョイスと草むらへの配慮:** 管理されていない深い草むらや、野良猫などが通りそうな茂みの中には、できるだけペットを入れないようにしましょう。お散歩は、きれいに刈り込まれた芝生や遊歩道を選ぶのが賢明です。

3. **帰宅直後の「玄関前でのブラッシングとボディチェック」:** お出かけから帰ってきたら、お部屋に入る前に玄関先で全身の被毛をブラシでとかし、特に「耳の後首周り」「脇の下」「お腹や足の付け根」に虫がついていないかを優しくチェックする習慣をつけましょう。


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### 4. すっきりした首元と、春色の笑顔


レディちゃんについたマダニは、専用の医療用リムーバーを使い、口器を残さないよう安全にきれいに除去しました。消毒を行い、新しくノミ・マダニの予防薬を投与すると、レディちゃんはケロッとした顔で再び元気にしっぽを振りました。


「よかったね、レディ! これからはお出かけの前にしっかりお薬をつけて、帰ってきたらパパとママで全身チェックするからね!」

藤原さんは安心した笑顔でレディちゃんを優しくなでました。


### 5. 春の陽気に包まれる診察室の明かり


窓の外では、春の温かな日差しが鴨川の土手の緑を美しく照らし出し、心地よい風が窓辺のカーテンをそっと揺らしていました。

「先生、お疲れ様です。春のレジャーって本当に楽しいけれど、自然の中に飛び込むときは、小さな虫たちへの警戒もしっかりしなきゃいけないですね」

看護師の河野が、マダニ駆除の医療器具を片付けながら微笑んだ。


「本当にそうだね。緑豊かな春の風景の中にも、小さな命のドラマや試練が広がっている。だからこそ、私たちが正しい予防と知識を持って愛犬・愛猫を守ってあげることで、春の美しさを100%安心して楽しむことができるんだよね」


窓の外では、春の青空の下で咲き誇る花々が新しい季節の訪れを祝うように風に揺れ、街全体が温かな笑顔に包まれていました。

草むらの影に潜む、小さなハンターの脅威の中に。

確かな予防と、毎日の優しい触れ合いのチェックを。

どんなに季節が巡り、新しい風景が広がっていこうとも、大好きな家族みんなが笑顔で健やかに、春の小道を心から満喫できるように。

僕たちの動物病院の明かりは、今夜もすべての旅立つ家族の「安全な足元と健やかな日々」を、爽やかな風と共に守り続けます。

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