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動物病院日誌   作者: じょんどぅ


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乾燥する室内の隠し罠、あるいは冬のウォーターボウル

乾燥する室内の隠し罠、あるいは冬のウォーターボウル


### 1. 暖房の効いた部屋と、動かない水飲み皿


一月の終わり。京都の街は連日の厳しい寒さが続き、お家の中ではエアコンや暖房器具が一日中フル稼働しています。

今日の午前、少し不安そうな表情で診察室に入ってきたのは、12歳の高齢犬「レオン」君(ゴールデン・レトリバー、男の子)と、飼い主の村上さんです。


「先生、最近レオンがなんだか元気なくて、お散歩のときもすぐにハアハア息が荒くなるんです。お食事はしっかり食べているんですが、お水の減りが以前より明らかに遅くて……。気になってお口の中を触ってみたら、なんだかいつもよりベタベタして乾いているような気がするんです」


診察台の上で、レオン君は少しぐったりとした様子で舌を出し、お水を欲しがるような仕草を見せます。皮膚の弾力を確かめる「ツジテスト(皮膚をつまんで戻るスピードを見る検査)」を行うと、皮膚が元の形に戻るまでに少し時間がかかりました。


「村上さん、すぐにお連れいただき正解です。これは『冬の室内乾燥と隠れ脱水(冬季脱水症)』ですね。夏だけでなく、実は冬もペットたちにとって危険な脱水の季節なんです」


### 2. なぜ「冬の室内」でペットたちは脱水するのか


多くの飼い主さんは「夏は汗をかくから水分が必要だけど、冬は涼しいからそんなに水分をとらなくても大丈夫」と思い込んでいます。しかし、冬の隠れ脱水には恐ろしいメカニズムが隠されています。


* **エアコンによる「不感蒸泄(ふかんじょうせつ)」の増加:** 先ほどお話しした通り、冬の暖房で湿度が低下した室内では、呼吸や皮膚の表面から知らず知らずのうちに多くの水分が蒸発していきます。体感温度は低くても、体の中の水分は夏場と同じかそれ以上に奪われているのです。

* **「冷たいお水」を本能的に避けるシニアの心理:** 冬場、ウォーターボウルに入れられた水道水はキンキンに冷え切っています。関節や内臓の冷えを嫌うシニアの子たちは、その冷たいお水を飲むのが億劫になり、一日の水分摂取量がガクッと減ってしまいます。

* **脱水が引き起こす「内臓への致命的な負担」:** 水分が不足すると血液がドロドロになり、老廃物をろ過する腎臓や心臓にものすごい負担がかかります。特にシニアのレオン君のような年齢では、腎不全や膀胱炎の大きな引き金になってしまいます。


### 3. 愛犬・愛猫を冬の脱水から守る「3つの水分補給作戦」


「夏なら気をつけるのに、冬にもそんな脱水の罠があったなんて……。レオンにごくごくお水を飲んでもらうには、どうすればいいでしょうか」と反省する村上さんに、僕は冬の水分補給を成功させるための3つの工夫をお伝えしました。


1. **お水を「人肌に温める(ぬるま湯作戦)」:** ウォーターボウルのお水を、冷たいままでなく「人肌程度(約 $35 \sim 38^\circ\text{C}$)」のぬるま湯に変えてあげましょう。温かいお水は香りが立ちやすく、飲むときの冷えもないため、シニアの子たちが喜んでゴクゴク飲んでくれるようになります。

2. **「スープ状のトッピング」や「水飲み場の増設」:** いつものドライフードに少量のぬるま湯や、犬用の無塩チキンスープをかけて「食べる水分補給」を取り入れます。また、お部屋のあちこちにウォーターボウルを置き、お散歩の前後や寝起きに自然と水に手が届く環境を作りましょう。

3. **ペット用「自動給水器(ファウンテン)」の活用:** 水がちょろちょろと動き続けるタイプの自動給水器は、流水が大好きな猫ちゃんや、新鮮な水を好むワンちゃんの興味をそそり、飲水量を自然に増やす強力なサポート役になります。


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### 4. 潤う喉と、元気な尻尾


レオン君には、皮下点滴ですみやかに水分と電解質を補給し、お家に帰ってからすぐに試せる「ぬるま湯スープ」のご提案をしました。処置が終わる頃には、レオン君の目の輝きが戻り、尻尾をパタパタと振って村上さんの顔をペロリと舐めました。


「わあ、レオンの表情がさっきまでと全然違いますね! お家に戻ったら、すぐに温かいお水を用意して、こまめに飲ませてあげます!」

村上さんはホッと安心した笑顔で、レオン君の大きな体を優しくなでました。


### 5. 冬の夜空に灯る診察室の明かり


窓の外では、京都の街の夜空に冷たく澄んだ三日月が浮かび、冬の乾いた風が街路樹の枝を揺らしていました。

「先生、お疲れ様です。冬の寒さって、外の冷たさだけじゃなく、お部屋の中の乾燥や隠れた水分不足まで連れてくるんですね」

看護師の河野が、温かいお湯を入れたポットを片付けながら静かに行き交う車を見つめた。


「本当にそうだね。目に見えにくいからこそ、私たちが先回りして、彼らの乾いた喉と体を潤してあげること。それが、この冬の乾燥を乗り切るための最高のエールなんだよね」


窓の向こうの冬景色の中、温かな家々の窓から漏れるオレンジ色の明かりが、凍てつく夜の道を優しく照らし出していましたが、その光はどれも、家族の潤いに満ちた穏やかな暮らしをしっかりと包み込んでいました。

暖房が効いた室内の隠し罠と、冷たい水に背を向けるシニアの小さな我慢の中に。

人肌に温めた確かな水分と、愛を込めた優しい工夫を。

どんなに冬の空気が乾燥し、身を切るような寒さが続こうとも、大好きな家族みんなが笑顔で、いつまでも潤いに満ちた健やかな日々を紡いでいけるように。

僕たちの動物病院の明かりは、今夜もすべての家族の「心と体の潤い」を、温かな風と共に守り続けます。

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