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動物病院日誌   作者: 匿名希望


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「あったかスタイル」

冷え込みの朝


十一月も終わりに近づき、朝の空気は冬そのものになった。

病院の玄関ガラスがうっすら曇り、外に出ると吐く息が白く広がる。


「先生、今日は寒いですね」

マフラーに顔を埋めた美咲が言った。


「もうすぐ十二月だもんな。動物たちも寒さに敏感になってる頃だ」


この時期になると、風邪を引く子や体を冷やして調子を崩す子も多い。

そして同時に、飼い主がそれぞれ工夫して「冬支度」をしてくる姿が目立つ季節でもある。


午前 ベルの赤いセーター


最初に来たのはベルと女の子。

ベルは鮮やかな赤いセーターを着ていて、背中には小さな白い雪の結晶の刺繍があった。


「かわいいな。クリスマス先取りか?」

私が声をかけると、女の子は得意げに言った。

「おばあちゃんが編んでくれたんです!」


診察台の上でもベルはご機嫌で、尻尾を大きく振っている。

「セーター着てると温かいみたいで、朝のお散歩も元気なんです」


心音も問題なし。

ベルは終始にこにこ顔で、待合室に戻ると「見て見て!」とばかりに周りを歩き回った。


午前後半 リクのダウン風コート


続いてやって来たリク。

加藤さんが抱えていたのは、ふわふわの青いコートを着たリクだった。

フードには小さな耳がついていて、ちょっとしたクマの着ぐるみのようだ。


「この子、寒がりなんですよ。去年の冬はブルブル震えてしまって……」

加藤さんが説明する。


診察台に乗ったリクは、コートの中でぬくぬくしているのか、目を細めて気持ちよさそうだ。

体重を測ると少し減っていて、私は笑った。

「ダイエットの効果、出てますね」

「本当ですか?よかった」加藤さんは安堵の顔。


「でも、この格好じゃ雪が降っても平気そうだな」

そう言うと、美咲が「冬山にも行けちゃいそうですね」と冗談を言い、待合室に笑い声が広がった。


昼 チャイとモカの毛布


昼近くに現れたのは、ご夫婦とキャリーに入ったチャイとモカ。

キャリーの中を見ると、二匹はおそろいのフリース毛布にくるまれていた。


「朝は冷えるから、こうして出てきたんですよ」

ご夫婦が言うと、毛布の中からチャイの耳だけがひょっこり。

その隣でモカは毛布にすっぽり顔をうずめ、ぬくぬくと眠っていた。


診察台に乗せても、毛布ごと動かすとまるで小さな包みのよう。

美咲は「赤ちゃんみたいですね」と目を細めた。


待合室に戻ると、子どもたちが「かわいい!お布団に入ってるみたい!」と大騒ぎ。

チャイは誇らしげに毛布から顔を出し、モカは眠たそうに瞬きをしていた。


午後 ユキの白いマフラー


午後に来たユキは、首に柔らかい白いマフラーを巻いていた。

真っ白な毛と溶け合い、まるで雪の妖精のような姿だ。


「ユキは寒さに強い方なんですけど、飼い主さんが編んでくれて」

そう説明する飼い主さんの声も、どこか嬉しそう。


診察中、ユキは静かにマフラーをつけたまま座り、まるでモデルのように凛としていた。

外に出ると、夕方の光にマフラーが輝き、通りを歩く人たちの視線を集めていた。


夕方 待合室は冬のファッションショー


夕方、病院の待合室にはそれぞれの「冬支度」をした動物たちが揃った。

赤いセーターのベル、青いコートのリク、毛布に包まれたチャイとモカ、白いマフラーのユキ。


「なんだかファッションショーみたいですね」

美咲が笑うと、飼い主たちも照れくさそうに微笑んだ。


「でも、こうして工夫してもらえるのは幸せなことですよね」

私が言うと、皆がうなずいた。


待合室に集まった温かさは、冷え込みを忘れるほど心地よいものだった。


夜 温もりの余韻


診療が終わり、外に出ると冷たい風が吹き抜けた。

私は思わず首をすくめたが、今日見た動物たちのあったかスタイルを思い出すと、胸の奥はじんわり温かかった。


「先生、私たちもマフラーくらい新しく買いません?」

美咲がそう言い、二人で笑った。


人も動物も、それぞれの工夫で冬を迎える。

その姿が並ぶたび、病院はただの診察の場ではなく、季節を楽しむ場所になっていくのだと感じた。

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