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動物病院日誌   作者: じょんどぅ


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春を待つ心の、小さなともしび

春を待つ心の、小さなともしび


### 1. 氷が解け、鴨川の風が少しだけ緩む朝


二月の最後の土曜日。

京都の街を厳しく包み込んでいた底冷えの空気も、日中の柔らかな日差しによって、ほんの少しだけ角が取れて丸みを帯びてきたように感じられます。

朝、動物病院のガラス戸を開けると、吹き抜ける風の中に、ほんのりとですが土の匂いと、どこか遠くで咲き始めた梅の香りが混じっているのに気づきました。長かった厳しい冬が、ゆっくりと次の季節へとバトンを渡そうとしています。


午前中の診察が一段落した頃、待合室のドアが開き、元気よく飛び込んできたのは、柴犬の「小太郎」君でした。


「先生、こんにちは! 寒さが一番厳しかった先月は、コタツから一歩も出てこなくて心配しましたけど、教えてもらった『ぬるま湯大作戦』のおかげで、この冬は一度もおしっこが詰まることなく、元気に乗り越えられました!」


そう言って、小太郎君のリードを握る佐藤さんは、満面の笑みを浮かべていました。小太郎君の肉球を触らせてもらうと、乾燥に負けることなく、弾力のある健やかな「ぷにぷに」をしっかりと保っています。


「佐藤さん、本当に良かったですね。毎日こまめにお水の温度を気にしてあげた、その優しい手仕事が、小太郎君の体を内側からしっかり守ってくれたんですよ」


去っていく小太郎君の軽やかな足取りを見送りながら、僕は、この過酷な冬の診察室で一緒に寒さと闘い、命のぬくもりを繋いできた小さな家族たちの顔を、一人ずつ愛おしく思い出していました。


### 2. 紡いできた、冬の診察室の記憶


今年の冬も、言葉を持たない彼らの体を守るため、診察室では飼い主さんたちと手を取り合い、様々な工夫を凝らしてきました。


* 【第291話:コタツの魔力と冬の隠れ脱水】では、小太郎君の皮膚の赤みから「低温やけど」の盲点に気づき、寒さゆえに水分摂取を我慢してしまう動物たちのために、お家の水飲み場を「ぬるま湯」に変える、潤いの工夫の大切さを学びました。

* 【第292話:凍える朝のチョコレートの誘惑】では、メルちゃんの緊急処置を通して、クリスマスや年末年始の華やかなイベントの裏に潜む「誤食・中毒」の恐怖を共有し、テーブルの上を過信しない絶対の安全バリアの重要性を確認しました。

* 【第293話:雪の日の肉球と冬のひび割れ】では、小春ちゃんの痛々しい足の裏から、冷たい路面と乾燥の過酷さを知り、お散歩後の「ゴシゴシ洗い」を卒業して、天然成分のクリームで優しく包むフットケアを実践しました。

* 【第294話:白い息と固まる関節】では、大型シニア犬のリキ君の強張りから、床から30cmの極寒地帯の厳しさを浮き彫りにし、お家を温泉宿のように温める「ホットタオル」と「トリプル断熱寝床」の優しい魔法を施しました。

* 【第295話:冬の夜の小さな湯たんぽ】では、真夜中に搬送された高齢猫のチビちゃんの「低体温症」という命の危機を、時間をかけた優しい温熱管理で救い上げ、夜間の冷え込みからシニアを守る「布の砦」の作り方をお約束しました。


どの物語も、もし飼い主さんが「いつもより少し元気がないな」「体が冷たいな」という小さなサインを見落としていたら、全く違う結末になっていたかもしれません。彼らの命を繋いだのは、他ならぬ、毎日を共にする家族の「愛の目線」だったのです。


### 3. 寒さを耐え抜き、いのち芽吹く次の季節へ


「先生、お疲れ様です。小太郎ちゃん、本当におしっこがキラキラ(結晶)にならなくて良かったですね。冬の診察室って、いつも以上に緊張感がありますけど、こうして笑顔で春を迎えられると本当にホッとします」

看護師の河野が、役割を終えつつあるストーブの周りを掃除しながら、しみじみと言った。


「そうだね。冬という季節は、動物たちの体から容赦なく水分と熱を奪っていく、1年で最も過酷な試練の時期だからね。でも、それを乗り越えたからこそ、これから迎える春の温かさが、より一層愛おしく感じられるんだと思うよ」


動物たちにとって、冬を乗り切るということは、ただじっと耐えることではありません。飼い主さんが作ってくれた温かい寝床、用意してくれたぬるま湯、優しくマッサージしてくれたホットタオルの温もり――その一つひとつの「手のひらの医療」を体に蓄えながら、次の季節へ進むためのエネルギーをじっくりと育む時間だったのです。


### 4. 閉幕、そして新しい命が躍動する春へ


夜の七時。

診察室の明かりを落とし、ふと夜空を見上げると、冬の間あれほど冷たく鋭く尖っていた星々の光が、どこか潤いを帯びて優しく瞬いているように見えました。

吐き出す息も、もうすぐ白さを失い、透明な春の空気に溶けていくことでしょう。


明日からは三月。暦の上でも、僕たちの診察室にとっても、いよいよ待ちに待った「春編」の幕開けです。

春は、新しい命が芽吹く喜びの季節であると同時に、狂犬病予防注射やフィラリア予防、新生活の環境変化によるストレスなど、ワンちゃん・猫ちゃんたちにとっては、また新しいケアが必要になる季節でもあります。


季節がどれほど巡ろうとも、この診察室の灯火は、あなたと小さな家族が並んで歩むその足元を、いつでも温かく、変わらぬ優しさで照らし続けます。



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