「ハロウィンの動物病院」
飾りつけの朝
10月も終わりに近づき、朝の風は冷たくなってきた。
出勤すると、病院の受付にかぼちゃ色の袋が置かれていた。
「先生、おはようございます! 見てください」
美咲が袋から取り出したのは、小さなオレンジのかぼちゃや紙のコウモリ、黒と紫のリボン。
「ハロウィン飾りを買ってきたんです」
二人で待合室を飾りつけると、いつもの白い壁にオレンジと黒の色が映えて、病院が一気ににぎやかになった。
受付の机には小さなかぼちゃランタン。窓辺にはコウモリのモビール。
ほんの少しの工夫なのに、空気がすっかりお祭りめいたものに変わった。
午前 ベルの魔女帽子
最初に来院したのはベルと女の子。
女の子は得意げに、ベルに小さな三角帽子をかぶせていた。
「魔女の帽子なんです!」
帽子には紫のリボンがついていて、ベルが首を振るたびにちょこんと揺れる。
診察台の上でもベルはおとなしく座り、まるでモデルのようにポーズをとった。
「よく似合ってるな。立派な魔女の使い魔だ」
私が言うと、女の子は嬉しそうに笑った。
待合室にいた人たちも「かわいい!」と声をあげ、写真を撮る人まで出てきた。
午前後半 リクのかぼちゃマント
続いて来たリクは、オレンジ色の布を背中にまとっていた。
加藤さんが手作りした簡単なマントらしい。
「本人はあまり気にしてないみたいですが……」
加藤さんが苦笑する。
診察を終えると、リクは待合室でマントをひらめかせて歩き回った。
子どもたちは「かぼちゃの王子様だ!」と歓声をあげる。
リクは得意げに胸を張り、堂々と歩いた。
マントのすそがひらひらと揺れ、まるでハロウィンパレードの先頭を歩いているようだった。
昼 チャイとモカのいたずら
昼頃、ご夫婦に連れられてチャイとモカがやってきた。
ご夫婦は猫用の首輪に、小さなコウモリのチャームをつけていた。
「これなら嫌がらずにつけられるんです」
ところが診察を待っている間に、モカが飾りのかぼちゃランタンに前足を伸ばし、転がしてしまった。
チャイもすかさず追いかけ、二匹でカラカラと転がし合う。
「いたずら好きのコウモリ猫だな」
私が笑うと、ご夫婦も「ほんとにトリック・オア・トリートですよ」と苦笑い。
待合室は笑い声に包まれ、動物たちもつられてしっぽを振った。
午後 ユキと黒いリボン
午後に来たユキ。
飼い主さんは黒いリボンを首に結んでいた。
「ハロウィンっぽくしてみました」
白い毛並みに黒いリボンがよく映え、ユキは静かに首を傾げる。
その姿はどこか物語に出てくる魔法使いの猫のようだった。
待合室の子どもが「ユキちゃん、魔法をかけて!」と声をかけると、ユキは「にゃあ」とひと声鳴いた。
まるで本当に応えているかのようで、子どもたちは大喜びだった。
夕方 小さなハロウィン会
夕方になると、診療が落ち着いた。
美咲が机の上にかぼちゃのお菓子を並べ、飼い主さんたちに少しずつ配る。
「お菓子をどうぞ。トリック・オア・トリートです!」
子どもたちは笑顔で受け取り、動物たちもおやつを分けてもらう。
ベルはクッキーを、リクはジャーキーを、チャイとモカはカリカリを、ユキは特別にチュールを。
病院の庭に夕日が沈み、窓辺のコウモリモビールが影を揺らす。
ハロウィンの雰囲気に包まれながら、にぎやかで温かな時間が流れていった。
夜 いたずらもご褒美
夜、片付けをしながら私は思った。
かぼちゃを転がしたモカも、帽子を嫌がらずにかぶったベルも、堂々と歩いたリクも、静かに魔法をかけたユキも――
みんなそれぞれの“仮装”で、病院を笑顔で満たしてくれた。
「いたずらも、ご褒美になるんだな」
私はかぼちゃランタンを手に取り、灯りを消した。
病院の中に残るのは、動物たちと人の笑顔の余韻だった。




