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動物病院日誌   作者: 匿名希望


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「落ち葉のおみやげ」

秋色の朝


10月の半ば。朝の空気はすっかり冷え、吐く息がうっすら白い。

病院へ向かう道沿いの木々は赤や黄色に色づき、落ち葉が風に舞っていた。


「先生、おはようございます」

美咲がいつもより大きな袋を抱えて出勤してきた。


「それは?」

「公園で拾った落ち葉なんです。待合室に飾ったら秋らしいかなと思って」


赤や黄、茶色の葉が混じり合った袋の中は、小さな宝箱のように見えた。

待合室のテーブルに飾ると、一気に秋色の空間が広がった。


午前 ベルの落ち葉ブーケ


午前中にやってきたのはベルと女の子。

女の子は手に、色とりどりの落ち葉を束ねたブーケを持っていた。


「ベルが拾ってきたんです。道の途中で気に入った葉っぱを全部くわえて……」


診察台の上でもベルはしっぽを振り、口にくわえた1枚の葉を誇らしげに見せた。

女の子はそれを「はい、先生に!」と差し出してくれる。


「ありがとう。病院に飾らせてもらうよ」

私は笑顔で受け取り、待合室の花瓶に挿した。

秋の彩りがまたひとつ増え、病院が少し華やいだ。


午前後半 リクとどんぐりポケット


続いて来院したリク。

加藤さんは困った顔をしていた。


「散歩中にどんぐりを見つけて、口いっぱいにくわえて離さないんです」


診察の間もリクは机の上に前足をかけ、リードを引っ張ってバッグの中を覗こうとする。

どうやらそこに“お宝”が隠してあるらしい。


加藤さんがバッグを開けると、中にはコロコロと光沢のあるどんぐりが10粒ほど。

「これじゃポケット代わりですよ」

美咲が笑い、待合室からも笑い声が広がった。


診察後、どんぐりは小皿に盛られて待合室の飾りに加わった。

リクは名残惜しそうに眺めていたが、しっぽは満足そうに揺れていた。


昼 チャイとモカの落ち葉遊び


昼頃、ご夫婦に連れられてチャイとモカがやってきた。

ご夫婦は腕に落ち葉を数枚抱えていた。


「二匹が落ち葉の山に突っ込んで、毛にいっぱいつけちゃって……」


確かにチャイもモカも、毛のあちこちに葉っぱをくっつけている。

モカは気にすることなく歩き回り、葉っぱを床にパラパラと落とした。


「落ち葉まみれのまま病院に入るのも珍しいな」

私が笑うと、ご夫婦も「掃除が大変でしたよ」と苦笑い。


美咲が拾った落ち葉と一緒に集めると、病院の飾りはさらににぎやかになった。

まるで待合室そのものが小さな秋の森のようだった。


午後 ユキと木の実の首飾り


午後に来たのはユキ。

飼い主さんの手には、赤い木の実を糸に通した簡単な首飾りがあった。


「散歩中に拾った実をつないでみたんです。ユキには似合わないかもしれませんけど」


そう言って首にかけると、白い毛並みに赤い実がよく映えた。

ユキは嫌がることもなく、静かに首を振り、鈴のように実を揺らした。


待合室にいた子どもたちが「かわいい!」と声をあげ、ユキは得意げに座り込んだ。

その姿はまるで秋祭りの主役のようだった。


夕方 病院の秋の展示


夕方になると、診療がひと段落した。

机の上には落ち葉のブーケ、皿に盛られたどんぐり、散らばった紅葉、そしてユキの首飾り。


「なんだか展示会みたいですね」

美咲が言う。


「動物たちが持ってきた“おみやげ展”だな」

私が答えると、二人で笑った。


病院に来るたびに季節が少しずつ形になっていく――そんな不思議な積み重ねを感じた。


夜 落ち葉の余韻


夜。片付けの前に、机の上の落ち葉を一枚手に取った。

赤から黄色へとグラデーションになった葉脈が、ランプの光に透けて見える。


「動物たちにとっては、ただのおもちゃかもしれないけど」

私は思わずつぶやいた。


でも、そのおかげでこうして季節を感じ、笑顔を分かち合えた。

落ち葉の一枚一枚が、小さな思い出になっていく。

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