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動物病院日誌   作者: 匿名希望


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「秋の味覚と動物たち」

秋のはじまりの朝


10月のはじめ。空は高く澄み渡り、風は少し冷たさを帯びていた。

病院の庭にはどんぐりが落ち始め、栗のいがもころりと転がっている。


「先生、もうすっかり秋ですね」

美咲が受付に小さなかごを置いた。中には赤く色づいたリンゴと、まだ青みの残る梨が入っている。


「果物狩りに行ったんです。待合室に飾ろうと思って」


甘い香りが広がり、病院の空気まで秋めいて感じられた。

この日も、秋の味覚をめぐって、いくつかの楽しいエピソードが生まれることになる。


午前 ベルとリンゴ


最初に来院したのはベルと女の子。

女の子の家族は昨日リンゴ狩りに行ってきたらしい。


「ベルにもあげたいんだけど……」

女の子はリンゴを見せながら私に尋ねた。


「犬も少しなら食べられるよ。ただし種はダメだからね」

私は注意を添えながら答えた。


診察後、待合室でベルに小さなリンゴのかけらをあげると、シャクッといい音を立てて食べた。

女の子は嬉しそうに拍手し、ベルは誇らしげにしっぽを振っていた。


午前後半 リクと梨


続いて来院したリクと加藤さん。

「梨狩りに行ったんですけど、冷やしてる間にリクが鼻を突っ込んで……」

加藤さんは苦笑い。


「果汁が甘いからな。好きな子は多いんだ」

私は笑いながら診察した。


待合室で、冷やした梨を少しだけリクに与えると、口を大きく開けてしゃくしゃくと食べる。

子どもたちがその様子を見て「かわいい!」と歓声をあげ、リクは得意げに胸を張った。


昼 チャイとモカと栗の誘惑


昼前にやってきたのはチャイとモカをご夫婦が連れて。

紙袋の中には、いがをむいた栗がぎっしり詰まっていた。


「秋の味覚市で買ったんですけど……」

ご夫婦が言う間もなく、モカが袋に顔を突っ込もうとする。


「こらっ!」

奥さんが慌てて抱き上げると、チャイも負けじと「にゃあ」と鳴いた。


「残念だけど、栗は猫には向かないな」

私が説明すると、ご夫婦は「やっぱり」と笑って袋を抱え直した。


二匹は不満げに鼻を鳴らしたが、その仕草に待合室の人々から笑みがこぼれた。


午後 ユキとさつまいも


午後にやってきたユキ。

飼い主さんは手提げ袋を抱えていた。


「畑でさつまいも掘りをしてきたんです」

袋の中には土の香りのするさつまいもがごろごろと入っている。


診察のあと、ユキは袋に近づき、鼻をくんくん。

やがて「にゃあ」と一声鳴いて、袋に前足をかけた。


「焼き芋にしたら少しだけなら食べられるよ」

私が伝えると、飼い主さんは目を輝かせた。

「ユキと一緒に秋を味わえるんですね」


ユキは満足そうに袋の横に座り込み、待合室の人々の視線を集めていた。


夕方 秋の収穫の分かち合い


夕方、診療が落ち着いたころ。

飼い主たちが持ち寄った果物や野菜を机に並べ、小さな即席「秋の味覚コーナー」ができあがった。


リンゴや梨の甘い香り、栗のほっくりした匂い、さつまいもの土の香り。

動物たちはそれぞれに興味を示し、飼い主たちも笑顔でやり取りをする。


「秋っていいですね」

美咲がつぶやき、私は頷いた。

「収穫を分かち合う季節だからな」


夜 秋の香りとともに


診療を終え、机の上に残ったリンゴをひとつかじった。

甘酸っぱい香りが口いっぱいに広がる。


窓の外では秋の虫たちが鳴き、庭には落ち葉が舞っていた。


「動物たちも、飼い主さんたちも、秋を楽しんでるな」

私はそうつぶやきながら、静かな夜に包まれていった。

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