お盆休みの「拾い食い」選手権、あるいは宴の後の代償
お盆休みの「拾い食い」選手権、あるいは宴の後の代償
### 1. 賑やかなバーベキューの裏で
八月の半ば。お盆休みの京都は、帰省した家族や友人たちとのバーベキュー(BBQ)で賑わいます。しかし、人間が楽しい時間を過ごしている時、動物病院の電話は鳴り止みません。
「先生、キャンプ場でゴールデンの『サン』が、焼き鳥の串を一本丸呑みしちゃったみたいなんです! 吐かせようとしたけど、途中で止まっているみたいで……」
運び込まれたサンの飼い主さんは、パニック状態で震えていました。サンは苦しそうに首を伸ばし、何度も空吐き(えづき)を繰り返しています。
### 2. 「串」と「芯」:夏の二大凶器
BBQの現場には、犬たちにとって魅力的かつ致命的な「罠」が散らばっています。
1. **竹串(焼き鳥の串など):** 最も危険なものの一つです。竹串は消化されず、胃や腸の壁を突き破って、腹膜炎を引き起こします。レントゲンに写りにくいため、診断が難しいのも厄介な点です。
2. **トウモロコシの芯:** 夏の誤食王です。甘い匂いに誘われて丸呑みしますが、胃の出口(幽門)や小腸にピタッとハマり、完全な腸閉塞を引き起こします。こうなると、救うには緊急の開腹手術しかありません。
3. **玉ねぎ入りのタレ:** 肉に付いたタレや、玉ねぎの欠片。これらに含まれる成分が赤血球を破壊し、深刻な「溶血性貧血」を引き起こします。
### 3. 「吐かせる」か「開ける」か
「サン君、喉の奥にまだ串の端が見えます。河野、すぐに鎮静をかけて内視鏡の準備だ!」
幸いにもサンの串はまだ胃の入り口付近にあり、内視鏡で無事に回収することができました。
「サン君、運が良かったね。これが腸まで流れていたら、お腹を大きく切らなきゃいけないところだったよ」
### 4. 事故を防ぐ「予防線」
「先生、気をつけていたつもりだったんですけど、一瞬の隙でした……」と肩を落とす飼い主さんに、僕は予防のアドバイスをしました。
* **ゴミ箱の徹底管理:** BBQのゴミは、犬の鼻が届かない高い場所か、蓋の閉まるコンテナへ。
* **「ノー」の徹底よりも「近づけない」:** 興奮した犬に「離せ!」と言っても、取られまいとして逆に飲み込んでしまうことがあります。最初から調理エリアには入れないのが鉄則です。
* **異変を見逃さない:** 食べた瞬間を見ていなくても、「何度も吐く」「水を飲んでも吐く」「元気がなく背中を丸めている」場合は、腸閉塞のサインです。
### 5. 祭りのあとの静寂
「先生、お疲れ様です。……今年も『トウモロコシの芯』、すでに三つ目ですね」
河野が、洗浄した内視鏡を片付けながら、今日回収した戦利品(?)を見て溜息をついた。
「そうだね。美味しい匂いは、彼らにとっては抗えない誘惑なんだ。楽しませてあげたい気持ちは分かるけど、一番のご馳走は『安全な環境』なんだよね」
窓の外では、五山の送り火を待つ京都の夜空に、遠くで花火の音が響いています。
明日の朝、また別の「うっかり」が運ばれてこないことを祈りながら、僕は緊急手術用の麻酔器をチェックしました。
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