「夏の疲れとやさしいごはん」
残暑の朝
8月も後半に差し掛かり、真夏の強烈な暑さは少し和らいだものの、蒸し暑さが体にまとわりついていた。
「先生、なんだか私まで夏バテ気味です」
受付で美咲が笑いながら麦茶を飲んでいる。
「動物たちも同じだよ。今日も相談が増えそうだ」
私はカルテを準備しながら答えた。
その予感どおり、この日は「食欲がない」「元気がない」と来院する動物たちが続いた。
午前 ベルの夏バテ
最初にやってきたのはベルと女の子。
女の子は心配そうに言った。
「ベル、最近ごはんを残すんです」
診察すると体重は少し減っていたが、大きな異常はない。
「夏の暑さで疲れが出てるんだね。水分を多めにして、ごはんを少し冷やしてあげると食べやすいよ」
女の子は真剣に聞き、メモをとる。
「ベル、がんばろうね」
ベルはしっぽを振り、女の子の顔を見上げていた。
午前後半 リクと夏野菜
続いて来院したのはリク。
加藤さんは少し困った顔をしていた。
「リクがドッグフードを残すんですよ。でも、きゅうりを切ってあげると喜んで食べるんです」
「それは夏野菜で水分が多いからだな。ただ、あげすぎは注意だよ」
私は微笑みながら助言した。
診察が終わり、待合室でリクがきゅうりをぽりぽりかじる姿に、子どもたちが集まってきて「かわいい!」と声をあげた。
リクは誇らしげにしっぽを振っていた。
昼 チャイとモカのだらん
昼休み前、チャイとモカをご夫婦が連れてきた。
「この子たち、最近はごはんより床で伸びるほうが好きみたいで……」
ご夫婦は苦笑する。
診察台にのせると、二匹は目を細めてだらんと脱力していた。
熱はなく、健康状態に問題もない。
「夏のだるさですね。少し冷やしたウエットフードや、氷で遊ばせるのもいいですよ」
私がそう伝えると、ご夫婦は「なるほど」と顔を見合わせた。
帰り際、モカがキャリーの中で氷を転がして遊んでいる動画を見せてもらい、待合室は笑い声で和んだ。
午後 ユキと涼やかなおやつ
午後にはユキがやって来た。
飼い主さんは心配そうに言った。
「ユキ、ごはんを少しずつしか食べないんです」
診察すると健康状態に問題はなく、夏バテと判断できた。
「凍らせたヤギミルクや、スープ仕立てにしたフードがいいですよ」
と提案すると、飼い主さんは目を輝かせた。
「さすが先生、工夫があるんですね」
帰り際、ユキは待合室で用意した氷水を少しだけ舐め、涼しげに瞬きをした。
夕方 庭の風とひと休み
夕方になると、少しだけ涼しい風が吹いた。
病院の庭では、百日紅の花びらがひらひらと落ちている。
美咲が外に出て言った。
「先生、ここで麦茶を飲むと気持ちいいですね」
「動物たちも、少しずつ元気を取り戻すといいな」
私は空を仰ぎながら答える。
空はまだ夏の青さを残していたが、どこか秋の気配も感じられた。
夜 やさしい食卓
診療が終わり、片付けをしながら美咲が言った。
「先生、動物たちのごはんって、工夫ひとつで元気につながるんですね」
「そうだな。食べることは生きることだから」
私は答えながら、今日出会った動物たちを思い出した。
夏の疲れは人も動物も同じ。
それでも、少しの工夫とやさしさで乗り越えられる――
そんなことを感じた一日だった。




