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動物病院日誌   作者: 匿名希望


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「梅雨の庭の訪問者」

雨の庭


6月も後半。

「ひだまり動物クリニック」の庭は梅雨の雨を受けて、緑がしっとりと色濃くなっていた。

紫陽花の花が咲き誇り、雨粒をまとった葉がきらめいている。


「先生、庭にカエルがいましたよ」

朝、植え込みに水をやっていた美咲が笑いながら報告した。


私は窓越しに外をのぞく。

確かに、紫陽花の葉の上に小さなアマガエルが一匹、雨粒に負けじとちょこんと座っていた。


「かわいいですね。患者さんたちも喜びそうです」

美咲の声は弾んでいた。

それは、この日のちょっとした出来事の始まりだった。


午前 ベルとカエル


午前中、いつものようにベルと女の子がやってきた。

雨の日仕様のレインコート姿だ。


診察のあと、女の子が庭を指さして言った。

「ベル、カエルさんいるよ!」


見ると、さっきのアマガエルがまだ紫陽花の上にいた。

ベルは鼻をひくひくさせ、近づこうとする。


「ダメだよ、驚かせちゃ」

女の子が抱きとめると、ベルは少し残念そうに尻尾を振った。


待合室に戻ってからも、女の子はずっとカエルの話をしていた。

小さな庭の訪問者が、ひとつの楽しみになったようだった。


午前後半 リクとカタツムリ


加藤さんに連れられたリクが来院したのは、雨脚が強まった頃だった。

診察が終わり、加藤さんが帰ろうと玄関を出たとき――


「あら、リク、見てごらん」

足元の石段に、大きなカタツムリがゆっくり進んでいた。


リクは鼻を近づけ、じっと観察する。

カタツムリは驚いた様子もなく、のんびりと殻を背負って進んでいく。


「梅雨らしいですねぇ」

加藤さんが笑い、リクも満足そうにしっぽを揺らした。


昼 チャイとモカのにぎやかさ


昼休み前、チャイとモカが来院した。

診察を終え、待合室で少し待っていると――


窓際の紫陽花に止まったトンボを見つけ、二匹は同時に「カカッ」と鳴き声を上げた。

ご夫婦が慌てて抱き上げる。


「外が気になるんですよ、この子たちは」

「自然観察が好きなんでしょうね」


病院の庭は、猫たちにとっても小さな動物園のようだった。


午後 ユキと紫陽花


午後にはユキがやって来た。

真っ白な毛並みに雨のしずくが映えて、まるで絵のような姿だった。


診察を終えたあと、飼い主さんと一緒に少し庭を歩く。

ユキは紫陽花の前で立ち止まり、じっと花を見上げていた。


「この子、花を見るのが好きなんです」

飼い主さんが静かに言う。


雨に濡れた紫陽花と、凛としたユキの姿。

そこには言葉を超えた美しさがあった。


夕方 庭のにぎわい


夕方になると、雨は小降りになった。

待合室の窓から庭をのぞくと、アマガエルが二匹に増え、カタツムリが葉を伝って進んでいる。


診察を終えた飼い主さんや動物たちが、思わず足を止めて庭を眺める。

「かわいいね」「のんびりしてるね」

そんな声が自然と交わされていく。


犬や猫、小鳥や小動物――そして、庭に集まる小さな生き物たち。

その境界はゆるやかに溶け合い、病院全体がひとつのやさしい空気に包まれていた。


夜 雨上がりの余韻


診療が終わり、外に出ると、雨はやんでいた。

夜風が湿った土の匂いを運び、遠くでカエルの合唱が響いている。


「今日は庭が人気者でしたね」

美咲が笑う。

「動物病院って、犬や猫だけじゃなく、こうして自然ともつながってるんだな」

私も頷く。


雨に濡れた紫陽花の葉には、まだ小さなアマガエルが一匹、じっと座っていた。

その姿は、静かな夜の守り神のように見えた。

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