表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
動物病院日誌   作者: 匿名希望


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/138

「甲羅の来客」

梅雨入りの朝


6月に入り、空は灰色の雲に覆われていた。

窓に小さな雨粒が並び、時おり柔らかな風が木々を揺らす。

「先生、今日は予約表がちょっと変わってますよ」

受付でカルテを見ていた美咲が、くすっと笑う。


「変わってる?」

「はい、犬猫じゃなくて……カメって書いてあります」


私は思わず笑みを浮かべた。

「珍しいな。さて、今日はどんな一日になるかな」


午前 クサガメのカメ吉


最初にやって来たのは、中学生くらいの男の子と一緒のクサガメだった。

大きなケースに入れられ、甲羅に少し白い斑点が見える。


「カメ吉っていいます。最近、甲羅が白っぽくなってきて……」

男の子の声は心配そうだ。


診察台にケースを置き、甲羅を丁寧に確認する。

「うん、水質の影響で少し菌がついたんだろう。しっかり洗って、薬を使えば治るよ」


処置をすると、カメ吉はゆっくりと首を伸ばし、こちらをじっと見た。

「ありがとう、先生」

男の子がほっとした笑顔を見せると、カメ吉も何かを分かったように瞬きをした。


午前後半 インコとカメの待合室


その後、セキセイインコのピピが再び来院した。

体調はすっかり良くなっていたが、飼い主の男の子は念のため健診に連れてきたらしい。


待合室には、ケースに入ったカメ吉と鳥かごのピピ。

犬猫が多い日常とは少し違う、ユニークな並びだった。


「ピピ、カメさんだよ」

男の子が囁くと、ピピは「ピィ」と鳴き、カメ吉はのんびり瞬き。

小さな交流のような光景に、美咲は目を細めていた。


昼 イグアナのゲン


昼休み前、さらに驚きの来客があった。

若い女性が大きな布袋を抱えて現れ、中から姿を見せたのは――イグアナだった。


「ゲンっていうんです。最近ごはんをあまり食べなくて」


緑色の体に力強い爪、長いしっぽ。

待合室の誰もが思わず目を丸くする。


診察台に乗せると、ゲンは意外とおとなしく、私の手の動きをじっと追っていた。

食欲不振の原因は温度不足。飼育環境を整えるようアドバイスすると、女性は熱心にメモを取った。


「ゲン、ちゃんと食べようね」

女性が優しく声をかけると、ゲンは喉を小さく動かした。


午後 カメレオンのカラ


午後の診療では、さらに珍しい子がやって来た。

小学生の兄妹がキャリーケースを抱えて入ってきて、中にはカメレオンがいた。


「名前はカラ。最近あまり色が変わらなくて……」

兄が心配そうに話す。


カメレオンは枝にしがみつき、少し元気がなさそうだった。

診察すると栄養不足が原因とわかり、専用の餌やビタミンについて説明した。


「へぇ、カメレオンってこうやって舌を伸ばすんだ!」

妹が動画を見て目を輝かせると、カラがちょうど舌を伸ばして小さな虫を捕らえた。

その瞬間、待合室に笑い声が広がった。


夕方の待合室


夕方、病院の待合室には犬や猫に混ざって、カメ吉、ゲン、カラが並んでいた。

甲羅を持つカメ、無表情に見えるイグアナ、色を変えるカメレオン。


「なんだか動物園みたいですね」

美咲が笑うと、飼い主たちも「本当だ」と頷き合った。


犬や猫に比べれば珍しい存在かもしれない。

けれど、その小さな命を心から大切に思う気持ちは、どの飼い主も同じだった。


夜 静かな余韻


診療が終わり、片付けをしながら美咲が言った。

「今日は本当に珍しい日でしたね。カメにイグアナにカメレオン……」


「そうだな。どんな動物も、飼い主にとっては大切な家族だ」

私は窓の外の雨を眺めながら答える。


静かな夜の空気に、甲羅の重みや、鱗の手触りがまだ残っているような気がした。

今日は確かに、少し特別な一日だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ