「新生活と新しい家族」
四月半ばの朝
四月の風は少し強いが、日差しは柔らかく、街路樹の桜はすでに若葉を広げていた。
「ひだまり動物クリニック」にも、春らしい新しい患者さんが増えてきている。
「先生、今日は新生活でペットを飼い始めた人の予約が多いですよ」
カルテを見ながら美咲が言った。
「春は“新しい出会い”の季節だからな」
私は診察室のライトを点けながら頷いた。
午前 大学生と子猫ミント
最初に来院したのは、大学に入学したばかりの青年。
キャリーの中には、小さな灰色の子猫がちょこんと座っていた。名前は「ミント」。
「一人暮らしを始めて、寂しくて……でもこの子が来てからすごく楽しくて」
少し照れくさそうに青年は話す。
診察台に置かれたミントは、まだ少し緊張している。
体重や心音を確認しながら、私は青年に言った。
「子猫のうちは食事とトイレの管理が大切だ。無理せず一緒に生活のリズムを作っていこう」
青年は真剣に頷き、最後にミントの頭をそっとなでた。
その姿に、新しい生活の不安と希望がにじんでいた。
午前後半 新社会人と子犬レオ
続いてやって来たのは、スーツ姿の女性とゴールデンレトリバーの子犬。名前は「レオ」。
「就職して実家を出たんですけど、ずっと犬を飼うのが夢で……」
女性は少し息を弾ませながら語った。
レオは診察台の上でしっぽをぶんぶん振り、診察室を明るくするような存在感を放っている。
「大きくなる犬だから、しっかり散歩の時間を作れるかが大事だね」
私の言葉に、女性は「仕事との両立、がんばります」と力強く答えた。
帰り際、レオは美咲の手をぺろりと舐め、元気いっぱいに駆け出していった。
午後 常連たちの来院
午後には、常連の姿も見えた。
リクは加藤さんと一緒に健診に来て、落ち着いた表情で診察台に立つ。
ベルと女の子は「学校でお花見したんだ!」と楽しげに話し、チャイとモカはキャリーの中でにぎやかに鳴いている。
ユキは窓際の席で静かに待ち、春の光を浴びて白い毛を輝かせていた。
新しい命たちと、長く病院に通う命たち――その光景が待合室に重なり、春の豊かさを感じさせた。
夕方 ひとり暮らしの青年の再訪
夕方、午前中に来た青年が再び病院を訪れた。
「すみません……ミントがごはんを食べなくて」
不安そうにキャリーを抱えている。
診察すると、体調に問題はなく、少し環境に慣れていないだけのようだった。
「最初の数日は緊張する子も多い。安心できる場所を作ってあげれば大丈夫」
そう伝えると、青年は肩の力を抜いたように深く息をついた。
帰り際、ミントが青年の腕に顔をうずめる姿を見て、私は思わず微笑んだ。
きっと二人の生活は、少しずつ色づいていくだろう。
夜 春の出会いを思う
その日の診察を終えて、美咲がつぶやいた。
「新しい生活を始める人たちにとって、ペットは本当に支えになるんですね」
「そうだな。動物にとっても、新しい家族と出会えるのは幸せなことだ」
私は窓の外を見やった。
街の明かりの中で、若葉が風に揺れている。
新しい生活、新しい命。
その両方を見守るのが、この病院の役割なのだと改めて感じていた。




