第137話「風鈴の音色」
夏のはじまりを告げるように、病院の軒先に先生が風鈴を吊るした。透明なガラス玉の中には、青い金魚の絵が描かれていて、揺れるたびに「ちりん」と涼やかな音を響かせる。
「わぁ……きれい!」
女の子は両手を胸の前で組み、嬉しそうに見上げた。わんこたちは首をかしげて風鈴の音を聞き、猫たちはその短冊をちょいちょいと前足で触ろうとして怒られている。
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午後になると、気温はぐんぐん上がり、病院の中もむっと暑くなった。先生は扇風機を出して風を送り、女の子はみんなのために冷たいお水を用意する。わんこたちはぺたんと床に寝そべり、猫たちは日陰に集まって丸くなった。
「ねぇせんせい、これ、つめたいのみたい!」
女の子が指さしたのは、かき氷機。スタッフのお姉さんが夏になるとよく持ってきてくれるのだ。
氷を削ると、シャリシャリという音と一緒に白い雪のような氷が器に積もる。いちごシロップをかけてひと口食べると、女の子の頬がほころんだ。
「つめたくて、おいしい!」
もちろん動物たちには甘いシロップは無し。でも、削った氷を少しだけおすそ分けすると、わんこたちは夢中で舌を出してぺろぺろ。猫は最初は冷たさに驚いたが、すぐに気に入ってちょこんと舐めた。
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夕方、日が傾き、少し風が出てきた。軒先の風鈴が涼しげに鳴り響く。
「ちりん、ちりん……」
女の子は縁側に腰かけ、風に吹かれてゆらめく短冊を見つめていた。先生が隣に座り、二人で並んで風鈴の音に耳を澄ませる。
「ねぇせんせい、かぜってめにみえないけど、ちゃんといるんだね」
「そうだな。風鈴は、風が通りすぎた証みたいなものかもしれないな」
その会話を聞くように、わんこが足元で眠り、猫たちが膝の上で喉を鳴らす。メェ子は庭の草をはみながら、ときどき風鈴を見上げている。
***
夜、病院の窓を開け放つと、風鈴の音が静かな闇に溶け込んでいった。外では虫の声が重なり、夏の夜らしい合奏が始まる。
女の子は布団に入る前、もう一度軒先に立ち止まって風鈴を見上げた。
「おやすみ。またあしたもいいおときかせてね」
風鈴は「ちりん」とひと声鳴き、まるで返事をするように揺れた。




