第135話「ひなまつりの午後」
病院の待合室に、先生が小さな雛壇を飾ってくれた。七段飾りほど立派なものではないけれど、お内裏様とお雛様、三人官女まで並んでいて、思わず女の子は「わぁ〜!」と声を上げた。
「せんせい、かわいいね!」
「毎年この季節になると出すんだ。みんなに春が近いことを知らせてくれるんだよ」
わんこたちは雛壇の前にちょこんと座り、首をかしげながらじっと見つめている。猫たちは興味津々で人形に近づこうとするが、女の子に「だめだよ〜」と軽く抱き上げられた。
***
午後になると、女の子とスタッフのお姉さんで「ひなあられ」と「ちらし寿司」を用意した。
「これ、みんなで食べようね!」
女の子が嬉しそうに声をかけると、わんこや猫たちはそわそわと足元に集まってくる。もちろん人間用の味付けだから、そのままはあげられない。でも先生が動物たち用に、塩分を控えたおやつをこっそり用意していた。
メェ子には人参と大根の特製サラダ。わんこたちにはササミの蒸し身。猫たちにはかつおぶしをぱらりとかけたごはん。
「みんなもひなまつりだね!」
女の子が笑うと、動物たちは嬉しそうに食べ始める。
***
食後はおひなさまを囲んで、ちょっとした撮影会が始まった。
「はい、わんこチームはこっちに並んで〜」
「猫ちゃんは……あんまり近づくと人形倒しちゃうから、ここでね」
わんこたちは素直に座り、猫たちは少し不満そうに尻尾を振る。でもそのおかげで、写真はきちんとまとまった。
女の子も雛壇の横に座って、先生と一緒に記念写真を撮った。
「来年もまた、いっしょに撮ろうね」
「うん!」
***
夕方、病院の窓から夕日が差し込み、人形の顔がオレンジ色に照らされた。
女の子はひとりでお内裏様とお雛様に向かって小さくお辞儀をした。
「ありがとう。また来年も元気で会えますように」
わんこが足元に寄り添い、猫が背中をちょんと押した。
その温もりに包まれながら、女の子は春がもうすぐそこまで来ていることを感じていた。




