第115話 「夏の夜風」
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### 1 夕立のあと
昼間に降った夕立のおかげで、夜になった町はすこし涼しくなっていた。
動物病院の窓を開けると、しっとりと湿った風が流れ込み、蒸し暑さを和らげてくれる。
「気持ちいい風……」
女の子は縁側に腰を下ろして、頬に当たる夜風を楽しんだ。
ベルはその隣に座って大きく伸びをし、チャイは草むらから聞こえてくる虫の声に耳をぴくぴく。
モカは縁側に横たわりながらしっぽを揺らし、「やっと落ち着いたわね」と小さく呟く。
リクは静かに鼻先を夜風に向けて深呼吸し、ユキは屋根の上からみんなを見守るように座っていた。
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### 2 夜の音楽
あたりはすっかり暗く、街灯の明かりが点々と灯る。
遠くからは蛙の合唱、近くの草むらからはコオロギや鈴虫の音が響いてくる。
「なんだか歌みたい」
女の子がそう言うと、ベルは「ぼくも歌えるよ!」とわん、とひと声。
チャイは負けじと鳴き、モカは耳を押さえて「静けさの方がいいのに」と笑った。
リクは目を細めて、「自然の音は、心を落ち着ける」と低く言う。
ユキは夜空を見上げ、「星々も加わっているな」と小さく呟いた。
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### 3 星空の下
雲が流れていき、夜空には星が次々と姿を現した。
女の子は指を伸ばし、「あれが一番大きな星!」と得意げに見つける。
ベルとチャイは首をかしげて見上げ、モカは「私には全部同じに見えるけど」とあくびをする。
リクは「北の空を見ろ。あの並びは昔から道しるべだった」と語り、ユキはしなやかに屋根を歩きながら、「星はいつも静かに見守っている」と呟いた。
「みんなと一緒に見るから、もっときれいに見えるんだね」
女の子の言葉に、ベルは嬉しそうに尻尾を振った。
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### 4 夜風と団らん
縁側に用意した麦茶と冷たいスイカを、みんなで少しずつ分け合う。
女の子は甘い果汁を頬張り、ベルは種を器用に避けてぺろり。
チャイは手を突っ込みすぎて顔をびしょぬれにし、モカが「もう子どもなんだから」と世話を焼く。
リクは控えめにひと口味わい、「夏の恵みだな」と静かに感想を述べ、ユキは屋根から降りてきて小さくひと舐め。
「冷たいけど……悪くない」
その一言にみんなが笑った。
夜風が通り抜け、ランタンの灯りがやさしく揺れる。
そこには特別なことは何もないけれど、かけがえのないひとときが流れていた。
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### 5 眠りへ
やがて夜も更け、虫の声がさらに静かに響き始めた。
女の子は縁側でうとうとし、ベルとチャイは寄り添って眠りにつく。
モカはその上にしっぽをかけて毛づくろいしながら目を閉じ、リクは守るように近くで横になる。
ユキは屋根に戻り、涼しい夜風を受けながら月を見上げていた。
「この風が、明日もみんなを包んでくれますように」
その声は誰にも届かないほど小さかったが、きっと星空には届いていた。
こうして夏の夜は、やさしい風と共に静かに更けていった。
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