第114話 「夕立」
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### 1 蒸し暑い午後
八月半ば。
昼を過ぎると、病院の待合室にもむっとした熱気がこもり、扇風機がうなりを上げていた。
「今日は特に暑いね……」
女の子は額に汗をにじませて、うちわでぱたぱた。
ベルは床にお腹をべったりつけ、チャイは水飲み場の前に陣取ってぺちゃぺちゃと水を舐める。
モカはカウンターの上で毛を逆立てながら「動くと余計に暑い」とぶつぶつ。
リクはゆったりと息を整えて横になり、ユキは窓辺でしきりに耳を動かしていた。
「空の色、ちょっと変だよ?」
女の子が外を見上げると、西の空に灰色の雲が広がり始めていた。
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### 2 降りだす雨
ゴロゴロ……と雷の音が遠くから響いてきた。
「来るぞ」リクが立ち上がった次の瞬間、大粒の雨が屋根を打ち、あっという間に夕立が始まった。
「わぁ! すごい!」
女の子は窓に張りつき、外の景色に目を輝かせる。
ベルは雷の音にびくっとしながらも、女の子のそばに寄り添う。
チャイは窓ガラスを叩く雨粒を追いかけて跳ね回り、モカは「こんなに降ったら帰れないじゃない」としっぽを巻いた。
ユキは高い棚の上に跳び乗り、目を細めて「でも、これで涼しくなる」と呟いた。
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### 3 雨の音
しばらくすると、病院の中は雨音で包まれた。
屋根や窓を打つ水の音がリズムを刻み、まるで自然の音楽のようだった。
女の子は床に座り、「トントンって太鼓みたい」と笑った。
ベルとチャイはその隣で転がり合い、モカは「私は子守唄にしか聞こえない」とあくび。
リクは雨の流れをじっと見て、「川のようだ」と呟いた。
ユキは高いところから水の筋を追い、静かに瞳を光らせていた。
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### 4 雨上がり
やがて雷は遠ざかり、雨も次第に弱まった。
窓を開けると、ひんやりした風が吹き込み、さっきまでの蒸し暑さが嘘のように消えていた。
外に出ると、草や木々が雨に濡れて輝き、あたり一面に土と緑の匂いが広がった。
「わぁ、気持ちいい!」
女の子が両手を広げると、ベルとチャイも一緒に駆け回る。
モカは水たまりを避けながら歩き、「足が濡れるのはいや」と言いつつも鼻をひくひく。
リクは深呼吸をして「これが雨上がりの匂いだ」と満足そうに頷いた。
ユキは濡れた塀にひょいと飛び乗り、空を指さすように「見ろ、虹だ」と声をあげた。
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### 5 虹の下で
大きな虹が空にかかっていた。
女の子は「きれい……!」と見上げ、ベルとチャイは虹の下を走り回った。
モカは尻尾を揺らし、「悪くない景色ね」と微笑む。
リクは「自然がくれる贈り物だな」と静かに言い、ユキは虹の端を追いかけるように高いところから飛び移った。
雨のあとに広がる空は、どこまでも澄んでいて、みんなの心をすっきりとさせてくれた。
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### 6 一日の終わり
病院に戻ると、夕立の名残で涼しい風が窓から入ってきた。
女の子は布団に横になり、「虹の夢見られるかな」と目を閉じる。
ベルとチャイは寄り添って眠り、モカは窓辺で体を丸めた。
リクは穏やかな息をつき、ユキは屋根の上で夜空を見上げていた。
夕立の涼しさと虹の輝きに包まれた夏の一日は、静かに幕を下ろした。
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