「夏祭り」
1 夏の夕暮れ
八月に入ったある日。
まだ日が沈む前なのに、町の通りからは太鼓の音と人々の笑い声が聞こえてきた。
「今日、夏祭りなんだって!」
女の子は目を輝かせ、ベルとチャイはしっぽを振りながら外を見た。
モカは「人がいっぱいでしょ? 静かな方が好きなのに」と小さくぼやき、リクは「でも、こういうにぎわいも年に一度だからな」と首を上げた。
ユキは窓辺で耳をぴくりと動かし、「屋根の上から眺めるのも悪くない」とつぶやいた。
美咲はにっこり笑って「みんなで行ってみようか」と声をかけた。
こうして、動物病院のみんなは夏祭りに出かけることになった。
2 夜店のにおい
夕暮れの商店街は、提灯の明かりで赤やオレンジに染まっていた。
焼きそば、たこ焼き、かき氷。漂うにおいにベルとチャイは大興奮。
「わぁ、おいしそう!」
女の子も鼻をくすぐられ、ベルが思わず屋台へ近づこうとするのを美咲が止めた。
モカは「油のにおいはちょっと……」と顔をそむけつつも、金魚すくいの水槽に目を奪われていた。
リクは綿菓子を持つ子どもたちを見て、「雲みたいだな」と静かに笑う。
ユキは高い看板の上から、祭りの全体を眺め、太鼓の音に耳を澄ませていた。
3 盆踊り
広場の中央では、櫓の上で太鼓が鳴り響き、人々が輪になって踊っていた。
女の子は「踊ってみたい!」と声をあげ、ベルとチャイも一緒に跳ねまわった。
モカは人の足に踏まれないように端っこに避難しながら、「あの手の動き、ちょっと面白いわね」と観察する。
リクは輪の外から静かに見守り、「人も犬も猫も、楽しみ方はいろいろだな」とつぶやいた。
ユキは櫓の梁に軽やかに飛び乗り、上から人々の笑顔を見下ろしていた。
4 射的とりんご飴
屋台の列を進むと、射的の台が並んでいた。
女の子が挑戦すると、ベルとチャイが「がんばれ!」と声をあげるようにしっぽを振った。
最初の一発は外れたが、二回目で見事に景品の鈴を落とした。
「やった!」
その音にチャイはびっくりして跳ね、ベルは大喜び。
次に立ち寄ったりんご飴の屋台では、女の子が「きれい!」と手に取り、ベルが鼻を近づけてぺろりとしそうになる。
「だめ!」と止められて、しょんぼりするベルをチャイがなぐさめた。
モカは金魚すくいをじっと見つめ、「あの子たち、ちゃんと幸せになれるかしら」とつぶやく。
リクは「大事にしてくれる人がいるといいな」と静かに答えた。
5 花火の夜
空がすっかり暗くなると、祭りのクライマックス――花火が始まった。
ドーン!
夜空に大輪の光が広がり、女の子は「きれい!」と歓声をあげた。
ベルは最初びっくりして吠えたが、すぐにチャイと寄り添いながら空を見上げた。
モカは耳を伏せて少し怖そうにしていたが、美咲に抱かれて落ち着いた。
リクは堂々と夜空を見つめ、「夏の音だな」と呟いた。
ユキは屋根の上で星と花火を見比べ、「どちらも悪くない」と目を細めた。
次々と打ち上がる花火に、祭りの夜は輝き続けた。
6 帰り道
帰り道、女の子は「楽しかったね」と笑顔を見せた。
ベルとチャイは疲れて歩幅が小さくなり、モカは「やっぱり静かな病院がいい」とほっとしていた。
リクは「でも、こういうにぎわいも悪くない」と微笑み、ユキは屋根伝いに最後まで見送っていた。
病院に戻ると、夏の夜の静けさが広がっていた。
女の子は布団に入るとすぐに眠り、ベルとチャイもその隣でぐっすり。
モカは窓辺で涼しい風に身をゆだね、リクはゆったりと横になった。
ユキは屋根の上で、遠くにまだ聞こえる太鼓の音を耳にしながら目を閉じた。
夏祭りの夜は、にぎやかさと静けさの両方を残して終わっていった。




