「カエルの合唱」
1 梅雨の夜
六月のある夜。
病院の外はしとしとと雨が降り続き、昼間よりも少しひんやりとした空気が漂っていた。
窓を開けると、草の匂いに混じって湿った土の匂いがふわりと入ってくる。
「すごい音!」
女の子が思わず耳をふさいだ。
庭の方から、ゲコゲコ、クワクワ、コロコロ……といろいろな声が重なって聞こえてくる。
ベルは耳をぴんと立てて外を見つめ、チャイは首をかしげて「なに?だれ?」と不思議そうにしている。
モカは少し顔をしかめ、「やかましいったらないわ」と尻尾をぱたぱた。
リクは静かに耳を傾けて、「合唱だな」とぽつりと言った。
ユキは窓枠に飛び乗り、外を眺めながら「カエルたちのお祭りかな」と目を細めた。
2 夜の庭へ
「ちょっと見に行ってみようか」
美咲がランタンを手にすると、女の子は大はしゃぎで長靴を履いた。
ベルとチャイは待ちきれない様子で玄関に駆けていき、モカは「雨に濡れるのは嫌よ」と言いながらも結局ついてくる。
リクはのんびりと立ち上がり、ユキはするりと先に外へ出た。
庭は雨粒でしっとり濡れ、紫陽花の花が月明かりとランタンの光に照らされて光っていた。
その根元や草むらから、カエルたちの声がひっきりなしに響いてくる。
3 合唱団の正体
「いた!」
女の子が指さすと、小さなカエルが紫陽花の葉の上にちょこんと座っていた。
ベルとチャイが近づこうとすると、カエルはぴょんと跳ねて草むらに隠れる。
「まってー!」とチャイが追いかけるが、見失ってしまった。
モカは「簡単に見つかるわけないじゃない」と鼻を鳴らす。
リクは「声をよく聞けば、どこにいるか分かる」と耳を澄ました。
ユキは木の枝から下を覗き、「あそこにも、ほら」と次々と居場所を見つけた。
女の子は「ほんとだ!」と目を輝かせ、雨に濡れた葉をめくって小さなカエルたちを観察した。
4 夜のコンサート
カエルたちの鳴き声は、ますます大きくなっていった。
高い声、低い声、リズムのある声……まるでオーケストラのようだ。
「指揮者がいるのかな?」
女の子の言葉に、美咲は「みんなが順番に歌ってるのかもね」と笑った。
ベルは一緒に吠えようとしたが、美咲に「ワンは静かにね」と止められる。
チャイは楽しそうに跳ね、モカは「少しは情緒を感じなさい」とため息。
リクは目を閉じて耳を傾け、ユキはしっぽをリズムに合わせて揺らしていた。
夜の庭は、カエルたちの合唱でまるで小さなコンサート会場のようになっていた。
5 雨の匂いと静けさ
ふと、雨がやんだ。
カエルたちの声が一斉に小さくなり、庭はしんと静まり返る。
「終わっちゃった?」
女の子が少し寂しそうに言った。
けれど数秒後、またゲコゲコと歌声が再開され、さらに力強い合唱が広がった。
ベルとチャイは嬉しそうにしっぽを振り、モカも思わず笑みをこぼす。
リクは「これが本番だな」とつぶやき、ユキは「夜はまだこれからだ」と目を輝かせた。
雨上がりの匂いが漂い、月明かりに照らされた庭は、どこか神秘的に見えた。
6 眠りの前に
夜も更け、美咲が「そろそろ帰ろう」と声をかけた。
女の子は「また聴けるかな?」と名残惜しそうに振り返る。
ベルとチャイはすでにあくびをしていて、モカは「もう十分堪能したわ」と歩き出した。
リクは最後まで耳を傾け、ユキは高い枝から「また明日も鳴くさ」と優しく言った。
病院に戻ると、みんなでタオルにくるまって温まり、女の子は「おやすみなさい」と小さくつぶやいて眠りについた。
外ではまだ、カエルたちの合唱が続いていた。




