「梅雨のはじまり」
1 しとしとの朝
六月に入ると、病院の窓をたたく音が増えた。
朝から静かに雨が降り続き、庭の紫陽花の葉には水滴がつややかに光っている。
「梅雨が始まったね」
美咲が窓を見ながら言うと、女の子は「ずっと雨なの?」と首をかしげた。
ベルはしっぽを振りながら窓の外をじっと見つめ、チャイは少し不満そうに「お散歩は?」と顔を上げる。
モカは「雨の日は休むのが一番」と丸くなり、リクは静かに雨音に耳を澄ませていた。
ユキは窓枠に座り、雨粒が落ちるのをじっと目で追っていた。
2 合羽と長靴
「せっかくだから、少しだけ散歩に行ってみようか」
美咲がそう言うと、女の子は大喜びで黄色い合羽を羽織った。
長靴を履いて足踏みをすると、床がコツコツと鳴る。
ベルとチャイには小さなレインコートが用意され、ふたりとも少し窮屈そうに身じろぎした。
モカは「濡れるのはごめんよ」と不満げに尻尾を振る。
リクは落ち着いてレインコートを着こなし、ユキは「私は自分で濡れないようにする」と軽やかに身をひねった。
3 雨の道
外に出ると、空気は少しひんやりしていて、雨の匂いが立ちのぼっていた。
道には水たまりができ、そこに空や電線が映り込んでいる。
女の子が「ちゃぷちゃぷ!」と水たまりを踏むと、ベルとチャイも真似をして跳ねた。
しぶきがあがり、楽しそうな笑い声が広がる。
モカは「まったく……」と顔をしかめたが、足元の小さなカエルを見つけて目を丸くした。
リクは静かに歩きながら、葉っぱから落ちるしずくを見上げていた。
ユキは塀の上を歩き、雨を避けながらも楽しげにしっぽを揺らした。
4 紫陽花の道
しばらく歩くと、道の脇に紫陽花の花が咲いていた。
青や紫、白に色づいた花が、雨に濡れていっそう鮮やかに見える。
「きれい……」
女の子が足を止めると、ベルは花の香りを嗅ぎ、チャイは花びらを鼻先にくっつけてくしゃみをした。
モカは「雨の日は花が映えるのね」と感心し、リクは「静かな美しさだ」とつぶやいた。
ユキは花の間から顔を出し、びしょぬれになりながらも楽しそうに笑っていた。
5 雨宿り
雨が少し強くなってきたので、みんなで公園の東屋に入った。
屋根を打つ雨の音が、太鼓のように響いている。
女の子は「ここはあったかいね」と言いながらベルに寄り添い、チャイは濡れた体をぶるぶると震わせた。
モカは毛づくろいをしながら「やっぱり外に出るのは大変ね」とつぶやく。
リクは雨音に耳を澄まし、ユキは柱の上で尻尾を揺らしていた。
「でも、こうしてみんなで雨を聞くのも悪くないね」
美咲が言うと、女の子も「うん!」と頷いた。
6 帰り道
雨は少し弱まり、また小降りになった。
水たまりには紫陽花の花や木の葉が浮かび、川のように道を流れていく。
女の子は流れる葉っぱを追いかけ、ベルとチャイも競うように走った。
モカは呆れながらも一緒に駆け出し、リクはのんびりと歩き続けた。
ユキは最後まで濡れることなく、器用に塀を伝って帰ってきた。
病院に戻るころには、みんな少しずつ疲れていて、でも心は晴れていた。
7 雨の日のごほうび
帰ると美咲が温かいタオルでみんなを拭いてくれた。
女の子には温かいココア、動物たちにはそれぞれの好物が並べられた。
「雨の日も楽しいね」
女の子が言うと、ベルとチャイは尻尾を振り、モカも珍しくにっこりした。
リクは静かに目を閉じ、ユキは窓の外の雨を眺めながら「また明日も降るかな」とつぶやいた。
雨の日ならではの、穏やかであたたかな時間が流れていた。




