「風にそよぐ若葉」
1 桜のあと
桜並木の花びらがすっかり散った頃、病院の前の通りは新しい緑で彩られていた。
若葉が次々と芽吹き、木々はやわらかい薄緑のベールをまとったように見える。
「もう若葉の季節だね」
美咲が外に目を向けると、女の子は「さくらの次はみどりだ!」と声をあげた。
ベルは窓辺に鼻を押しつけて外の風を吸い込み、チャイは「はやくお散歩!」とばかりに足踏みしていた。
モカはその二匹をたしなめつつ、リクは落ち着いたまなざしで木々を眺める。
ユキは高いキャットタワーから外を見下ろし、まるで緑に包まれた景色をひとりじめしているかのようだった。
2 若葉の小道
午後、みんなで散歩に出かけることになった。
川沿いの並木道は、ほんの数週間前まで花びらで埋め尽くされていたのに、今は淡い緑に輝いている。
「きもちいいね!」
女の子が駆け出すと、ベルとチャイも一緒に走った。
風にそよぐ若葉の間から、やさしい光がこぼれて道を照らす。
モカは「こけないように!」と心配そうに小走りでついていき、リクは一定の距離を保ちながらついてきた。
ユキは塀の上を軽やかに歩き、時折枝に飛び移って若葉の隙間から顔を出した。
3 風の音
立ち止まって耳を澄ますと、風に揺れる葉がさわさわと心地よい音を奏でていた。
「ねぇ、木がしゃべってるみたい」
女の子の言葉に、美咲は「そうだね、風の声だよ」と微笑んだ。
ベルは耳をぴくぴくさせて風の音を追い、チャイは落ちてきた小さな葉をぱくりと口に入れて「にがい!」と驚いたような顔をする。
モカは「だから言ったでしょ」というように鳴き、リクは微かに口元をゆるめた。
ユキは枝の上でしっぽをふわりと揺らし、まるで風と一緒に遊んでいるようだった。
4 緑の木陰
道の途中のベンチで一休み。
若葉が作る木陰は柔らかく、風が吹くときらきらと影が揺れる。
おやつを分け合いながら、美咲は「桜のときより静かで落ち着くね」と言った。
女の子は「うん。みどりのトンネルもすき」とにっこり笑う。
ベルとチャイは木陰でじゃれ合い、モカはその横でのんびりと毛づくろい。
リクはベンチの足元に座り、静かにまわりの景色を見守る。
ユキは枝から枝へと移りながら、光と影をまとって遊んでいた。
5 川辺の新緑
川辺まで足をのばすと、水面にも若葉の緑が映りこんでいた。
桜の花びらが流れていった川は、今は緑のきらめきを運んでいる。
女の子は小石を投げ、水面に波紋を作った。
「まるで葉っぱがひかってるみたい」
その言葉に、美咲は「春の川は鏡みたいだからね」と答えた。
ベルは波紋に鼻を近づけ、チャイは水面を覗き込んでびしょぬれに。
モカは「もう!」と慌ててタオルを取りに走り、美咲は笑いながら拭いてあげる。
リクは落ち着いて川の流れを見つめ、ユキは石垣の上から水に映る自分の姿をじっと見ていた。
6 夕暮れの緑
夕陽が沈みかけると、若葉は金色に輝き、風にそよぐたびに光がきらめいた。
「きれいだね……」
女の子がつぶやくと、美咲も「春って、毎日ちょっとずつ変わるんだね」と頷いた。
ベルとチャイは遊び疲れて寄り添い、モカはその横で大きく伸びをする。
リクは真っ直ぐな姿勢で立ち、ユキは高い枝から静かにその光景を見守っていた。
新緑の風は心地よく、みんなの心をやわらかく包み込んでいた。




