「春の川遊び」
1 百話目の朝
春の陽ざしが、病院の窓からやわらかく差し込んでいた。
今日は特別な一日だと、空気が告げているようだった。
「いいお天気だね。川に行ってみようか」
美咲が声をかけると、女の子は「やった!」と大きな声で答えた。
ベルはすぐに玄関へ走り出し、チャイは弾むように跳ね回る。
モカは「どうせびしょびしょになるんでしょ」とでも言いたげにため息をつく。
リクは落ち着いた足取りで支度をし、ユキは窓辺からするりと飛び降りて、みんなに合流した。
2 川までの道
道端にはタンポポが咲き、ちょうちょが舞っていた。
ベルは蝶を追いかけ、チャイも負けじと飛び跳ねる。
モカは危なっかしくて気が気でない。
リクは女の子と並んで歩き、時折川風を感じて鼻を動かす。
ユキは石垣の上を軽やかに進み、ときどき振り返ってみんなの様子を見ていた。
3 川辺に到着
川は春の雪解け水で少し増水していたが、流れは穏やかで澄んでいた。
水面には光がきらきらと反射し、小魚がすいすいと泳いでいる。
「わぁ……きれい!」
女の子が駆け寄り、しゃがんで覗き込む。
ベルはすぐに足をちゃぷちゃぷと浸け、チャイは思いきり飛び込んで水しぶきを上げた。
モカは「やっぱり……!」と鳴き、岸辺をうろうろ。
リクは静かに足を入れ、冷たい水の感触を確かめる。
ユキは岩の上に座り、濡れるのを嫌がる様子もなく流れを眺めていた。
4 水遊び
ベルとチャイは水をかけ合うように走り回り、女の子の長靴にも水が飛んだ。
「きゃっ!」と声をあげながらも、女の子は楽しそうに笑った。
モカは岸から離れず、「風邪ひくよ!」と心配そう。
リクは浅瀬を歩きながら魚の群れを観察していた。
ユキは突然水に飛び込み、すばやく泳いで対岸の石に飛び乗った。
「すごーい!」女の子が拍手すると、ユキは尾を揺らして得意げに見せた。
5 お弁当タイム
川辺の芝生にシートを広げて、お弁当を広げる。
おにぎりに卵焼き、そして春野菜のおかず。
ベルとチャイはおやつをもらって大満足。
モカは慎重に味わい、リクはゆっくりと噛みしめる。
ユキは少し離れて座りながらも、ちゃんと分け前をもらった。
川の音と鳥の声に包まれながらの昼食は、特別なひとときだった。
6 午後の川
食後、女の子は石を拾って水切りをした。
「えいっ!」
石は三回跳ねて沈む。
ベルとチャイは大喜びでその方向へ走り、モカは「取れないってば!」と鳴く。
リクは石の飛ぶ軌跡を静かに見守り、ユキは木陰でのんびり毛づくろいをしていた。
7 帰り道
夕方になると川面はオレンジ色に染まり、風も少し冷たくなった。
「そろそろ帰ろうか」
美咲の声に、みんなは少し名残惜しそうに振り返る。
ベルとチャイはまだ遊び足りない様子だったが、モカが先に歩き出した。
リクはその横を静かに歩き、ユキは最後まで川を見つめてから、しなやかに合流した。
8 病院に帰って
病院に戻ると、タオルで体を拭いてやる。
ベルとチャイは疲れてぐっすり眠り、モカは毛布にくるまって安心したように目を閉じる。
リクは静かに横たわり、ユキは窓辺で川の余韻を思い出すように外を見ていた。
女の子は「楽しかったね。また川で遊びたいな」と微笑み、美咲は「百回目のお話にぴったりの一日だったね」と応えた。
こうして、病院の日々はまたひとつ、春の思い出を刻んだのだった。




