9.工事に着手
翌朝。
ヴォルクハイト邸の前に、職人や兵士たちが呼び集められた。
父が説明を終えると、ざわつきが広がる。
「お嬢様の……発案、ですか?」
「まだ三歳にして……そんな知恵を……」
驚きと戸惑いが混じるが、同時に目には誇らしさが宿っていた。
「さすが我らがヴォルクハイト家のお嬢様……!」
ジークが土を指さし、声を張る。
「よし! 俺たちも一緒にやるぞ! 水路を掘るんだ!」
アマーリエも冷静に指示を飛ばす。
「ここは勾配をつけて……あとは木枠で補強する必要があるわ」
職人たちが「なるほど」「やってみましょう」と頷き、兵士たちも鍬やスコップを手に加わる。
屋敷の庭先は、一気に活気に包まれた。
――その一角で。
机の上に広げられた羊皮紙に、コリィが小さな手でさらさらと線を引いていた。
「これは……車輪を縦にして水に当てる形です。
水流が当たればぐるぐると回って、粉を挽く石を動かすことができます」
職人たちは息を呑んだ。
「こんな幼子が……設計図を……」
「だが、理にかなっている……!」
コリィは少し頬を赤らめ、でも誇らしげに微笑んだ。
「そして……風が強い場所では、水ではなく風で回すこともできるんです。風車です」
兵士のひとりが思わず声を上げる。
「風までも力に変えるだと……!?」
父は深く頷き、皆を見渡した。
「まずは水車を作り、実際に試す。並行して、風車の小型試作を行おう。
――領地を変える第一歩だ」
家族も職人も兵士も、一斉に声を合わせる。
「お嬢様のために!」
その声にコリィは照れて笑いながらも、胸の奥で静かに思った。
「……小夜だったわたしが、今はこうして……みんなの役に立てているんだ」
そして雪の降る空の下、ヴォルクハイト領の未来を変える工事が始まった。