8.とっても便利
実験を終えたその夜。
父は暖炉の前に戻ると、しばらく考え込んでから口を開いた。
「……コルネリアの話は単なる戯れごとではないな。実際に領地のためになるやもしれぬ。明日にでも職人や兵士を呼び、試させてみよう」
ジーク「おおっ、本気ですか!」
アマーリエ「ふふ、楽しみになってきたわね」
父が子供の言葉を真剣に受け止めてくれたことが嬉しくて、コリィは毛布を抱きしめながらにっこり微笑んだ。
「ありがとうございます……。でも、ひとつ、もう少しお話してもいいですか?」
母「ええ、もちろんよ」
コリィは少し恥ずかしそうに笑い、両手を重ねて話し出した。
「水はただ流すだけじゃなく、“力”にもできるんです。本で読んだのですが、江戸では水の流れを使って木の車輪をぐるぐる回して、それで石を動かしたり、穀物をひいたりしていたそうです。人の手でやっていた仕事を、水に代わってもらうんです」
ジーク「水で……代わりに? そんなことが……」
アマーリエ「でも考えてみれば、確かに流れには力があるわ。粉挽きや作業の効率化に使えるかもしれない」
「外国のお話なので詳しくはわからないけど、風の強い場所では水だけじゃなくって風の力でぐるぐる回して力を得る、風車ってのもありました。」
父は腕を組み、深く頷いた。
「水や風を力として利用する……。面白い。試す価値は大いにある」
母はくすりと笑い、コリィの頬を撫でた。
「ほんとうに、あなたの話はどれもわくわくするわ」
コリィは頬を赤らめ、照れながらも嬉しそうに言った。
「わたし……前の世界では何もできなかったけれど、今はこうしてみんなの役に立てるのが嬉しいんです!」
その笑顔に、家族も使用人も胸を打たれる。
ーーお嬢様は可愛い!
――しかもただ可愛いだけではない!
――お嬢様の知恵は、領地の未来を照らす光だ!
ーーもはや天使かもしれない!
暖炉の炎がぱちぱちと音を立てる中、ヴォルクハイト家はひとつの決意を固めた。
翌朝、職人や兵士たちが呼び集められ、領地を変える最初の工事が始まることになるのだった。