表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/23

7.試してみよう

暖炉の前での団欒のあと。

ジークが剣を置いて、勢いよく立ち上がった。


「よし! 話を聞いていたら、じっとしていられなくなった! ちょっと庭で試してみようぜ!」


「えっ、今から?」とアマーリエが目を瞬かせる。

しかしすぐに、興味深そうに唇に指をあてて考え込んだ。

「……でも確かに、水が“道を辿る”っていうのは面白いわね。流れの傾きや深さでどう変わるか、見てみたいわ」


「ほらな!」とジークは得意げに言う。

「父上、母上、少し外を借ります!」


父は笑い、ワインを置いてうなずいた。

「行ってこい。ただし風邪をひかせるなよ」

母は毛布でコリィを包みながら、「気をつけてね」と声をかけた。


ーーーー


夜の庭。

ランタンを掲げ、ジークはスコップを担いで土をざくざくと掘る。

「ここからここへ、水を流すんだな!」


「ちょっと待って。あまり深すぎると流れが止まっちゃうのよ」とアマーリエが横から手直し。

「もっと緩やかな傾斜をつけて……そう、こうやって」


毛布にくるまれたコリィは、兄姉の作業を目を輝かせて見守っていた。

「うんうん、そうです! 道を作れば自然に流れるんです!」


ジークがバケツを持ってきて、ざばっと水を流す。

小さな溝に沿って水がちょろちょろと流れ、花壇の根元へとたどり着いた。


「おおっ!」

「ほんとに流れたわ!」

「すごい……たったこれだけで、ちゃんと水が届くのね!」


コリィは毛布にくるまりながら、満足そうに頷いた。

けれどすぐに落ち着いた声で言う。


「……ただ、このままでは長くはもたないんです」


ジーク「え?」

アマーリエ「どういうこと?」


コリィは指先で溝の縁をそっとなぞりながら説明した。

「本で読んだことがあります。江戸の町では、水路をそのまま土だけで作ると崩れてしまうので、必ず木で枠を組んだり、石で固めたりしていたそうです。そうすることで流れは安定し、維持もしやすくなると書かれていました」


兄はぽかんと口を開け、姉は感心して頷いた。

「三歳の子供が言うことじゃない……」

「でも理にかなっているわ。実際にやってみれば、きっと役に立つ」


窓越しに様子を見ていた父は、低く唸って頷いた。

「なるほど……遊び半分の実験かと思えば、確かに実用の芽がある。木枠や石組みなら、この領地でも十分に作れるだろう」


母はそっとコリィの髪を撫で、柔らかく微笑んだ。

「本当に……あなたのお話はいつもためになるのね」


コリィは少し頬を染め、照れたように目を伏せながらも、嬉しそうに口元をほころばせた。

「ありがとうございます。わたし…みんなの役に立てるのが、とても嬉しいです」


その言葉に、家族も使用人も心からの笑みを浮かべた。

――この子の知恵と笑顔が、必ず領地をより良くするだろう。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ