7.試してみよう
暖炉の前での団欒のあと。
ジークが剣を置いて、勢いよく立ち上がった。
「よし! 話を聞いていたら、じっとしていられなくなった! ちょっと庭で試してみようぜ!」
「えっ、今から?」とアマーリエが目を瞬かせる。
しかしすぐに、興味深そうに唇に指をあてて考え込んだ。
「……でも確かに、水が“道を辿る”っていうのは面白いわね。流れの傾きや深さでどう変わるか、見てみたいわ」
「ほらな!」とジークは得意げに言う。
「父上、母上、少し外を借ります!」
父は笑い、ワインを置いてうなずいた。
「行ってこい。ただし風邪をひかせるなよ」
母は毛布でコリィを包みながら、「気をつけてね」と声をかけた。
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夜の庭。
ランタンを掲げ、ジークはスコップを担いで土をざくざくと掘る。
「ここからここへ、水を流すんだな!」
「ちょっと待って。あまり深すぎると流れが止まっちゃうのよ」とアマーリエが横から手直し。
「もっと緩やかな傾斜をつけて……そう、こうやって」
毛布にくるまれたコリィは、兄姉の作業を目を輝かせて見守っていた。
「うんうん、そうです! 道を作れば自然に流れるんです!」
ジークがバケツを持ってきて、ざばっと水を流す。
小さな溝に沿って水がちょろちょろと流れ、花壇の根元へとたどり着いた。
「おおっ!」
「ほんとに流れたわ!」
「すごい……たったこれだけで、ちゃんと水が届くのね!」
コリィは毛布にくるまりながら、満足そうに頷いた。
けれどすぐに落ち着いた声で言う。
「……ただ、このままでは長くはもたないんです」
ジーク「え?」
アマーリエ「どういうこと?」
コリィは指先で溝の縁をそっとなぞりながら説明した。
「本で読んだことがあります。江戸の町では、水路をそのまま土だけで作ると崩れてしまうので、必ず木で枠を組んだり、石で固めたりしていたそうです。そうすることで流れは安定し、維持もしやすくなると書かれていました」
兄はぽかんと口を開け、姉は感心して頷いた。
「三歳の子供が言うことじゃない……」
「でも理にかなっているわ。実際にやってみれば、きっと役に立つ」
窓越しに様子を見ていた父は、低く唸って頷いた。
「なるほど……遊び半分の実験かと思えば、確かに実用の芽がある。木枠や石組みなら、この領地でも十分に作れるだろう」
母はそっとコリィの髪を撫で、柔らかく微笑んだ。
「本当に……あなたのお話はいつもためになるのね」
コリィは少し頬を染め、照れたように目を伏せながらも、嬉しそうに口元をほころばせた。
「ありがとうございます。わたし…みんなの役に立てるのが、とても嬉しいです」
その言葉に、家族も使用人も心からの笑みを浮かべた。
――この子の知恵と笑顔が、必ず領地をより良くするだろう。