6.水路
雪の夜。
屋敷の大広間には大きな暖炉の炎が揺れていた。
父は深い椅子に腰かけ、母は編み物をしている。
兄ジークは剣を磨き、姉アマーリエは読書をしていた。
そしてコリィは毛布にくるまれ、火のぬくもりに頬を赤らめていた。
「ねぇ、お父さま、お母さま」
コリィが口を開くと、みんなが手を止めて顔を向ける。
「わたし……前の世界のことを思い出してたんです。体が弱くてお外には行けなかったから歴史の本を読んだりしていて知ったことなんですけど、フランスっていう国ではね……おトイレが整ってなくて、窓から汚いものをそのまま捨ててたんですよ」
ジーク「なっ……!」
アマーリエ「そんな馬鹿な!」
母「まぁ……なんという…」
父(ワインを噴きそうになりながら)「ほ、本当なのか、それは!?」
コリィはちょっと照れ笑いをしながらも、楽しそうに続ける。
「ほんとなんです!だから道は汚れて病気も流行ったの。ネズミが菌を撒き散らして、ペストっていう病気でとってもたくさんの人が死んじゃったらしいの……でもね、江戸っていう町では違ったんですよ」
「エド……?」
「うん!江戸には上下水道があってね、きれいな水を上の方から引いてきてそれをみんなで分け合って使って、さらに汚れた水は流して捨ててたんです。だから道もきれいで、お風呂だって気持ちよく入れたんですよ!」
家族は目を丸くし、しばらく黙り込んだ。
やがて父が唸るように言った。
「……なるほど。確かに、雪解け水がたまり、衛生面の問題が出る。水路を作れば……」
アマーリエ「病気の流行も減るかもしれないわ。ネズミが病気を撒き散らしていたっていう話もありそうな話よね。」
ジーク「水路を掘るなら俺も手伝える!」
母は微笑みながら、コリィの頬に触れた。
「ふふ……やっぱり、あなたの話は面白いわね」
コリィはぱっと笑顔になり、両手を広げた。
「じゃあみんなでやってみましょう!」
暖炉の炎が揺れ、家族は顔を見合わせて頷いた。
こうして、領地を変える大きな計画が、暖かな団欒から静かに始まったのだった。