5.お手玉
翌日。
いつもより少し暖かく朝の光が中庭を照らす中、コリィは小さな手を前にかざしていた。
昨夜、家族に「前の世界のこと」を話したばかり。
胸の奥が不思議と軽くなって、心から嬉しい気持ちでいっぱいだった。
「……えいっ」
ぽん。
小さな水の玉が生まれ、ふわりと宙に浮かぶ。
それを両手で受け止めて、またひょいと投げ上げる。
「ふふっ……お手玉みたい」
ころん、ころんと手を渡る水の玉。
光を透かしてきらきらと揺れ、まるで宝石のように輝いた。
「よーし、次は二つ…!」
額に小さな汗を浮かべながら、もう二個水の玉を作る。
両手で交互に放り投げ、慌てて受け止める。
「わぁっ……できた!えへへ、すごい〜!」
両手で三つの水玉をくるくると回しながら、コリィは子供らしく声をあげて笑った。
――その様子を、窓辺から家族と使用人がじっと見守っていた。
「三歳にして、ここまで魔力を制御できるなんて……」
「それよりも、見て…あんなに楽しそうに……」
「可愛らしすぎて、見ているだけで胸がいっぱいです……」
兄ジークは頬をかきながら、苦笑混じりに呟いた。
「やっぱり、昨日の話は本当なんだな……」
姉アマーリエは、目を細めてにっこりと微笑む。
「ええ。でも見て。昨日“幸せです”って言っていた通りの顔をしてる」
母エレオノーラは胸に手を当て、静かに囁いた。
「……この子の笑顔を守るのが、わたしたちの務めね」
父ラインハルトもゆっくりとうなずく。
「うむ。ヴォルクハイト家すべての者に、それを肝に銘じさせよう」
コリィはそんな視線に気づくこともなく、水の玉を高く放り上げてはにっこり。
「やったぁ!できたできた〜!」
その声に、家族も使用人も心を撃ち抜かれ――
屋敷はさらに「お嬢様尊い……!」の空気に包まれていった。