39.療養服
ヴォルクハイト邸の中庭に面した廊下を歩いていたコリィは、兵士の呻き声を耳にした。
振り返ると、腕に厚い包帯を巻いた若い兵士が、必死に袖に通そうとして顔をしかめている。
「ぐっ……! 動かすと傷が……」
「大丈夫ですか?」
駆け寄ったコリィの声に、兵士は慌てて片膝をついた。
「も、申し訳ありません、お嬢様……お見苦しいところを」
けれど、袖を通すたびに肩が震えているのを見て、コリィの胸に小夜だった頃の記憶がよぎった。
(……わたしも病気で体を動かせなかった時、服を着替えるのが本当に辛かった……)
小さな拳をぎゅっと握りしめ、コリィは顔を上げた。
「袖を通すから痛いですよね。
…通さなくていいように考えてみますね!」
兵士はきょとんとしたが、そばにいたアマーリエや仕立て屋が顔を上げた。
「通さなくて……?」
コリィは布切れを手に取り、さらさらと絵を描き出す。
「袖の筒をそのままにせず、前を開けて体に巻きつけるようにするんです。
包帯ごと腕を包んで、紐で結べば……動かせなくても楽に着られるのでは?」
アマーリエの目が輝いた。
「なるほど! 袖に腕を通すんじゃなくて、服のほうを“寄せる”のね!」
仕立て屋も感心して頷く。
「こりゃあ療養所にぴったりの服になりますね!」
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数日後。
出来上がった試作品のガウン式療養服を、同じ兵士が試すことになった。
彼は恐る恐る腕を通し……いや、巻きつけると――驚きで目を見開いた。
兵士「……驚きました。痛まずに着られただけじゃなく、世話をしてくれる仲間の手間も減ります。これなら療養所の皆も助かります!」
仲間の兵士「確かに……寝かせたままでも着替えられるぞ!」
「……痛くない……! まるで布が自分から包んでくれるみたいだ……!」
周囲の兵士たちも息を呑み、口々に囁いた。
母は目元を押さえ、父は深く頷いた。
「……コルネリアの優しさが形になったな」
コリィは頬を赤らめ、けれど胸を張って言った。
「えへへ……わたしも前の世界で困っていたから……思いついて良かったです」




