37.新しい味
料理長は腕を組み、真剣な顔で呟いた。
「……ただソースをかけるだけでは芸がない。いっそ“生地そのもの”にカカオを混ぜ込んでみてはどうだろう」
「チョコプリン……!」
コリィの瞳が輝いた。
アマーリエも頷き、計算を始める。
「卵とミルク、砂糖にカカオを加えて蒸せば……いけるかもしれないわ」
試しに蒸し上げてみると、黒褐色のプリンがぷるぷると揺れた。
スプーンを入れると、なめらかな食感にほんのり苦みと甘さが広がる。
「……っ! これよ……チョコプリン!」
コリィは感動の声を上げ、涙ぐみながら微笑んだ。
ーーー
だが、料理長はさらに燃えていた。
「しかし……コリィ様がおっしゃっているムース…ゼラチンというものがなければ作れんのだろうか?」
コリィは首を傾げ、思い出したように言った。
「そういえば、前の世界では……卵白を泡立てて“メレンゲ”にして、それを混ぜ込んだ“チョコレートムース”がありました!」
「メレンゲ……?」
アマーリエが目を細め、メレンゲがどう言うものかを聞いてすぐに泡立て器を設計する。
ジークは「腕が疲れるな!」と笑いながら卵白を泡立て、真っ白な角を立たせてみせた。
それをカカオとミルクのクリームに混ぜ込むと――
ふわふわと軽やかな、空気を含んだ菓子が出来上がった。
家族が一口食べてみて思わず目を見開く。
「軽い……けれど濃厚!」
「口の中で溶けて消える……!」
コリィは両手でスプーンを握りしめ、幸せそうに笑った。
「これが……チョコレートムース……! 前の世界でも憧れてたの……まさか今食べられるなんて……」
母は涙ぐみ、父は重々しく頷いた。
「……我が家は本当に、素晴らしい子を授かった」
湯気と甘い香りに包まれた食堂で、異世界式チョコスイーツの誕生を、家族全員で祝った。




