32.いちご
アマーリエが温室の設計図を描き終えると、コリィは胸を弾ませて言った。
「育てたいのは……いちごです!」
「いちご……?」
ジークが首をかしげる。
コリィは両手を広げて説明した。
「調べたらこの世界にもあるみたいなので、ぜひ食べてみたくって。赤い実で、甘くて少し酸っぱくて……とっても可愛い果物なんです。
そのまま食べても美味しいですし、お菓子にしたら絶品なんですよ」
「ふふ……あなたらしいわね」
母は微笑み、アマーリエは真剣に頷いた。
「冬に赤い実……確かに特別感があるわ。温室で試してみましょう」
数週間後。
雪に覆われたヴォルクハイト領の片隅に、湯気を吐く温室が建った。
床下に通した温泉の熱で室内はぽかぽか、油紙の天窓からは光が差し込む。汚水処理からできた肥料を使い苗はぐんぐん成長していった。
やがて小さな白い花が咲き、赤い実が膨らんでいった。
「……できた!」
真っ赤ないちごを摘み取ったコリィは、両手で大切そうに抱え、家族に見せた。
「これが……いちごです!」
アマーリエが息を呑み、母は目を潤ませた。
ジークはごくりと喉を鳴らす。
「食べていいのか!?」
「どうぞ!」
コリィの声に、家族が一斉にかぶりつく。
「……あまい……!」
「酸味が心地よい……」
「こんな果物、生まれて初めてだ!」
コリィはにこにこと笑い、口元に赤い果汁を残したまま言った。
「えへへ……冬にこんな果物が食べられるなんて、夢みたいでしょ?」
家族みんな心の底から笑顔を見せた。
「これが上手くいったのでいろんな野菜や果物で試してみてもいいかもしれないですね!」
コリィの言葉に父は真剣に頷いた。




