29.温泉街構想
数日後。
井戸水を混ぜて温度を整えた湯船が山のふもとに作られた。男性用と女性用に分け、仕切りも簡易的にだが作った。
湯気が白く立ち上り、硫黄の香りがほのかに漂う。
「さぁ……入ってみましょう!」
コリィの声に促され、村人たちはおそるおそる湯へ足を浸した。
「……あったかい……!」
「冷えた体が……とろけるみたいだ……!」
子どもたちはきゃあきゃあと声をあげて泳ぎ、大人たちは肩まで浸かって目を閉じた。
「こんなの、生まれて初めてだ……」
「体の芯まで温まる……病も吹き飛ぶぞ!」
兵士たちも疲れを癒すようにため息をつき、職人たちは感極まって涙を浮かべる。
「戦も仕事も忘れるくらい……極楽だ……!」
「おいおい、仕事は忘れちゃいかんぞ」
「ははは!冗談でさぁ」
湯気の向こうで大きな笑い声たちと笑顔が重なり、温泉はたちまち領民たちの心をつかんでいった。
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数週間後
山のあちこちを調査した結果、領内でいくつもの温泉地が見つかった。
アマーリエが広げた地図には、赤い印がいくつも打たれている。
「……これほどあるなんて」
「湯屋どころか……“温泉街”が作れるな!」
ジークが声を張り上げ、兵士や職人も歓声を上げた。
父は笑みを浮かべ、力強く告げた。
「よし! ヴォルクハイト領は水と湯に恵まれた土地だ!
湯屋だけでなく、湯宿や市を開き、温泉街として人を迎えよう!」
「おおーっ!」
母は目を細め、コリィの手をぎゅっと握った。
「これも、あなたの発想のおかげね」
湯気の香りを感じながら、コリィは幸せそうに微笑んだ。
「……みんなで温泉に入って笑って……それが広がって、もっと賑やかになっていくなんて……うふふ、すごく楽しみです」
こうしてヴォルクハイト領は――
「温泉街」 という新たな未来へ向かって歩み出したのだった。




