26.お披露目
数週間後――。
雪の降る領地に、立派な木造の湯屋が完成した。
高い天井には蒸気を逃がす窓、石で組まれた浴槽には井戸から引いた水が注がれ、巨大な湯釜で温められている。
排水は下水路へと繋がり、衛生面も万全だ。
領民たちは湯屋の前に集まり、わくわくとした顔で中を覗き込んでいた。
「……これが、湯屋……!」
「本当に、村の者が誰でも入っていいのか!?」
父が堂々と前に進み出て、声を張り上げた。
「この湯屋は、ヴォルクハイト領の民すべてのためのものだ!
安全な水を豊富に得た今、清らかに体を洗い、健やかに暮らすことこそ領民のつとめなり!」
「おおーーっ!」
最初に湯屋へ入ったのは子どもたちだった。
桶で湯をかぶり、きゃあきゃあと笑いながら湯船に飛び込む。
「……あったかい! 雪の冷たさが消えていく!」
「気持ちいい〜〜!」
次いで兵士たちが体を沈め、疲れを癒すように目を閉じる。
「はぁぁ……こりゃあ効くな……」
「こんなの、夢みたいだ……」
やがて大人たちも入っていき、誰もが頬を赤らめ、笑顔を浮かべた。
中には涙をこぼす者もいる。
「毎日こんなに清潔に……。子どもを安心して育てられる……」
「病に怯えずにすむ……」
湯気に包まれた湯屋は、笑顔と感謝の声でいっぱいになった。
外でその光景を見守るコリィは、頬を赤らめながら嬉しそうに微笑む。
「……江戸の町みたいに、みんながお風呂に入ってる……。わたし…また…夢が叶っちゃった」
母はそんな娘を抱き寄せ、優しく囁いた。
「あなたの夢は、もう領地のみんなの夢になっているのよ」
父も誇らしげに頷いた。
「この湯屋は、ヴォルクハイト領の誇りだ」
コリィは胸の奥からこみあげる幸せに、思わずぽつりと言った。
「……生きてて、よかった」
湯気の向こうで響く笑い声は、冬空にまで温かく広がっていった。




