17.堆肥に
数日後。
村はずれの小川の近くに、ため池を掘る工事が始まった。
「ここで下水を集めます!」
コリィの声に応じて、兵士や職人、村人が一斉に土を掘り返す。
周囲には木枠が組まれ、底には石が敷き詰められていく。
ジークは額の汗を拭いながら笑った。
「よし! これで池の形はできたな!」
「次は撹拌だね」アマーリエが図面を掲げる。
水路の一部から引いた流れを、小さな水車に通す。
その軸はため池の中に延びていて、木の羽根板をゆっくりとかき回していた。
「お嬢様のご発案どおり、自然に水が混ざっていく……!」
職人が目を見張る。
そこに村人が、生活排水を桶ごと流し込んだ。
濁った水がため池に広がり、水車の羽根がゆっくりとそれをかき混ぜる。
「……どうなるんだ?」
みんなが固唾を呑んで見守る。
やがて。
濁りが薄れ、底に泥やかすが沈み始めた。
「……沈んでる!」
「上の水が、澄んできたぞ!」
ジークが棒で底を突き、泥をすくい上げた。
「こいつを畑に撒けば肥料になるんだな!」
村人の一人が笑いながら言う。
「こりゃあただの汚れじゃねぇ! 宝だ!」
歓声が一斉に上がった。
だがため池の底からすくい上げた汚泥を見て、村人たちは顔をしかめた。
「うぅ……でもこれを本当にそのまま畑に撒くのか?」
「においもすごいし、病気になっちまうんじゃ……」
コリィは首を横に振り、真剣な表情で説明した。
「はい。そのままでは危険です。本来なら水を切って乾かして、藁や落ち葉を混ぜて、何ヶ月も発酵させないと……。そうしないと安全な肥料にはなりません」
「何ヶ月も……」と村人たちが落胆した時、コリィは少し照れながらもにっこり笑った。
「……でも、この世界には魔法がありますから!」
その言葉に、皆が目を見開いた。
アマーリエがぱっと顔を上げ、図面にさらさらと描き加える。
「なるほど……火と風の魔法で乾燥を早めればいいのね。そして土の魔法で撹拌を促せば、発酵も加速できるわ!」
ジークが拳を打ち鳴らす。
「おおっ! それなら一気にできるじゃないか!」
職人たちも頷いた。
「確かに! 乾燥小屋を作る必要もない!」
「魔法と合わせれば、手間がぐっと減る!」
その場で試すことになった。
兵士が火と風の魔法で汚泥に熱風を当てると、じゅわっと水分が蒸発していく。
次にアマーリエが土の魔法で撹拌を加えると、独特のにおいが和らぎ、表面がさらさらとした土に近い状態になった。
「……! 匂いが弱まってる!」
「これは……肥料だ!」
ジークが思わず声を張り上げる。
「これならすぐ畑に使えるぞ!」
コリィは両手を胸に当て、嬉しそうに笑った。
「えへへ……魔法を使えば、時間がかかることも少しは楽になるんです」
母はそんな娘を抱き寄せて微笑んだ。
「やっぱり……あなたの発想は誰も思いつかないものね」
父も力強く頷く。
「よし! これからは下水をため池に集め、魔法で処理し、畑に肥料として戻す。――ヴォルクハイト領の循環は、ここから始まる!」
歓声が雪空に響き渡り、村人たちの心は温かな希望で満たされていった。




