11.思いついたんですけど
わいわいと応用案で盛り上がる中、コリィは小さな手を膝に置いてそっと声をあげた。
「……あの、ちょっと思ったんですけど!」
一同がコリィに視線を向ける。
コリィは少し照れながらも、楽しそうに続けた。
「水車の動きを“足”に変えることもできると思うんです。……ペダル、っていうんですけど。足で踏むと上下に動いたり回ったりして、その力で布を織ったり、糸を縫ったりする機械に繋げられるんです。糸を縫う機械をミシンって言うんですけど…」
「布を……!?」とアマーリエがずいと身を乗り出す。
「もしそれが本当なら、機織りの速度は何倍にもなるわ!」
使用人の女性たちも顔を輝かせた。
「糸車を足で……! 両手が空けば、もっと緻密な模様の布が織れるかも!」
「ミシン……って仰いましたか? 糸を縫う機械……?そんな夢のような道具が……!」
母エレオノーラは目を丸くしたあと、柔らかく笑んだ。
「まぁ……女たちにとって、それはどれほど助かることかしら。家事や仕立ての手間が大きく減るわね」
ジークは頭をかきながら苦笑した。
「さっきまで粉や木材の話をしてたのに……まさか糸まで出てくるとはな」
父は顎に手を当て、深く頷いた。
「……なるほど。水や風だけではなく、己の足の力を効率的に伝える仕組みか。
領地の職人に、ぜひ試させてみるべきだろう」
アマーリエはしばらく考え込み、それから本をぱたんと閉じた。
「……面白いわ。実際に形にしてみましょう。コルネリア、あなたの言う“ペダル”とやらの仕組みをもう少し詳しく教えてくれる?」
「はい!」
コリィは目を輝かせ、両手で足踏みの動きを真似してみせる。
「こうやって足で踏んで……それを棒でつなげて、回転に変えるんです。回転した力を、糸車や織機に伝えるんです」
アマーリエは真剣な表情で羊皮紙を広げ、さらさらと鉛筆を走らせた。
「なるほど……踏み板の動きを軸に伝えて……ここを歯車にすれば、もっと滑らかに回るはずよ」
コリィは隣で嬉しそうに覗き込み、指を差す。
「そうです! その部分をもう少し長くすると……もっと安定すると思います!」
「ふふ、いい意見ね。じゃあこうしましょう」
姉妹が向かい合いながら、楽しそうに図面を書き進めていく。
兄ジークはその様子を見て、ぽかんと口を開いた。
「……なあ父上。あの二人、もう完全に職人顔負けだぞ」
父は笑い、グラスを傾けた。
「うむ。我が家の娘たちの才覚は誇るべきものだな」
やがて完成した設計図を見た職人たちは、驚きで目を見開いた。
「……これは……! 仕組みがわかりやすい……! これなら実際に作れる!」
「お嬢様とアマーリエ様が描かれたのですか!?」
アマーリエは微笑み、コリィは少し照れながら頷いた。
すると職人のひとりが、拳を胸に当てて力強く言った。
「三日……いえ、二日お待ちください! 必ずや、この通りに作ってみせます!」
「おおっ!」と兵士たちが声をあげ、屋敷の空気はさらに熱を帯びる。
母はそんな皆を見渡して、優しく言った。
「……本当に素敵ね。みんなが同じ夢を見ている」
その夜、ヴォルクハイト家には笑顔と希望の灯りが満ちていた。




