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第97話 軍の育成

 

 俺たちは南門から出て南下し、南の砦からさらに南下していく。


 ここまでくると散在していた冒険者たちもほとんどいなくなり、マークⅠはダークに騎乗して俺の傍をふわふわと飛んでいる。


 〈ひだりにムカデ、まえにアリ、みぎにオオカミがいるよ〉


 マークⅠたちが俺の肩にとまり、マークⅠが魔物の所在を思念で報せる。


 しばらく歩いて行くと、俺は魔物の群れを捉えて足を止めた。


 「左にセンチピード種、正面にアント種、右にウルフ種がいます。どうしますか?」


 斥候に出ていた盗賊組の見張り役が俺に報告する。


 「今後を踏まえて見張り役の手順を変える。最終的に俺たちがいなくてもある程度は戦える部隊にするためだ。あんたはこの状況、俺たちがいなかったとしたらどうする?」


 俺は見張り役の【盗賊】に問いかける。


 「撤退しますね」


 「理由は?」


 「俺たちだけってことは戦士組と盗賊組、要するに10人ってことでしょうから、どの群れにも勝てませんよ」


 いい判断だ。どの群れにも通常種が二匹以上いるからな。それに勝てたとしてもボロボロになる。


 「正解だ。今後、見張り役には俺に魔物の報告をした後に対処報告もしてもらう。つまり、見張り役には司令塔も兼ねてもらう。戦士組と盗賊組は見張り役の指示には絶対に従ってくれ」


 戦士組と盗賊組は静かに頷いた。


 「で、戦うとしたら何が問題だ?」


 「隊長たちが戦うなら何の問題もないですが、俺たちだけなら戦力が足りません。少なくとも戦士組があと二部隊は必要ですね」


 「ならその二部隊の代わりを彼女らにやってもらう。黒い鎧がマークⅡで人のほうがマークⅢだ。彼女らは最上級職並の強さだから何の問題もない」


 俺の説明を耳にした隊員たちからどよめきが起こる。


 そりゃあ、最上級職が二人もいるとなれば驚くのも無理はない。


 「分かりました。各群れの距離はかなり離れているので、どの群れを攻撃しても問題はないですが、まずは一番弱いアント種から倒そうと思います。三匹いる通常種を戦士組、マークⅡさん、マークⅢさんで一匹ずつ、残りの下位種二匹を盗賊組でということでどうでしょうか?」


 「異論はない」


 「その前に戦士組に大盾を渡しておきますの」


 マークⅢが鋼の大盾を戦士組に渡していく。


 「これがあれば囮役はだいぶ楽になりますぜ」


 クーガは満足げな表情を浮かべている。


 「では作戦通りにお願いします」


 「攻撃を仕掛けるタイミングはあなたたちに任せますわ」


 マークⅢの言葉に、クーガたちは頷いた。


 戦士組、盗賊組、マークⅡとマークⅢがアント種の群れに向かって歩き出す。


 戦士組がアント種の群れにある程度近づいたところで、囮役が石を投じる。石が命中したアントが囮役に突進するのと同時に、盗賊組とマークⅡたちも走り出す。


 猛進するアントの体当たりを囮役が大盾で受けると、囮役の後ろに控えていた戦士組の四人がアントを囲んで剣を振り下ろす。


 それでもアントは奇声を発しながら反撃するが、親の仇のように執拗に振り下ろされる四本の剣の前になす術なく沈黙した。


 俺が視線を盗賊組とマークⅡたちに向けると、すでに戦闘を終えて首を回収している状況だった。


 「マ、マジかよ!?」


 「し、信じられねぇ……」


 「……何で通常種に攻撃が通るんだよ?」


 戦士組の戦いを目の当たりにした新人たちが驚きの声を上げる。


 まぁ、そりゃそうだろう。通常種は下級職の前衛にとって最大の壁だからな。


 隊員たちが戻ってくると、新人たちの一人が戦士組に質問を投げかけた。


 「あんたら上級職なんだよな?」


 「いや、全員【戦士】だぜ」


 クーガはニヤニヤ笑っている。


 「じゃあ、何でアントを倒せるんだよ? アントは通常種の中でも特に硬いのに」


 「種はこの剣だ。雑に言えばこの剣は魔剣の類だからな」


 「……マジかよ。ただのガタン商会の鋼の剣にしか見えない」


 新人たちからざわめきが起こる。


 「まぁ、この剣があってもアントはキツイ。四人がかりでギリギリってとこだからな。そんなことより次いくぞ次」


 クーガが話を締めくくり、見張り役が話を切り出す。


 「次はウルフ種を狙います。二匹いる通常種は戦士組とマークⅡさんで、三匹いる下位種は二匹を盗賊組、残る一匹をマークⅢさんでどうですか?」


 完璧だ。問題はウルフが魔法を使うことだが、それは見張り役の領分ではない。


 「異論はない」


 「では指示通りに動いてください」


 「では、こういう作戦はどうですの?」


 マークⅢが戦士組と盗賊組に何やら説明していて、彼らはまとまったままでウルフ種の群れに向かって進んでいく。


 ウルフ種の群れとの距離が近づいたところで、いきなり、マークⅡとマークⅢが遠距離攻撃を放ち、鋭く尖ったとてつもなく巨大な鉄の塊と石の塊が高速で飛んでいく。


 そのあまりの速度に、ウルフが鉄の塊に、レッサー・ウルフが石の塊に体を消し飛ばされて、何もできずに絶命した。


 まさに瞬殺だな。これでマークⅡとマークⅢの仕事は終わった。


 仲間の残骸を見つめるウルフは一瞬呆けていたが、我に返って怒りの形相で反撃し、風の刃がマークⅡに襲いかかる。


 だが、マークⅡの前に身の丈を超えるほどの巨大な鋼の壁が出現し、風の刃は鋼の壁に遮られて霧散する。


 埒が明かないと考えたのか、ウルフは鋼の壁を目掛けて疾走し、それを二匹のレッサー・ウルフが追いかける。


 ウルフ種たちが鋼の壁の後ろに回り込もうとしたタイミングで、戦士組と盗賊組が鋼の壁の後ろから飛び出し、囮役がウルフに剣の突きを繰り出すが、ウルフは剣を回避した。


 しかし、レッサー・ウルフたちは盗賊組の四人に剣で斬り裂かれて瞬殺される。


 鋭い牙を剥き出しにしたウルフが囮役に噛みつこうとするが、鋼の大盾に阻まれた。次の瞬間、戦士組に囲まれたウルフは一瞬で肉片と化したのだった。


 まぁ、そんなもんだろう。通常種に勝てることは昨日の狩りで実証しているからな。


 隊員たちが帰還し、残る魔物はセンチピード種だけになる。


 「センチピード種とは戦わない。ダメージを与えられない上にコンフューズドの魔法を使うからな」


 「センチピード種だけですか?」


 見張り役が探るような眼差しを俺に向ける。


 「現時点ではマンティス種、スコーピオン種、アリゲーター種、飛行する魔物は無理だろうな」


 「分かりました」


 「俺たちはセンチピード種を倒してくる。猫ちゃん、マークⅢ、いくぞ」


 「にゃ!!」


 「分かりましたの」


 センチピード種に向かって歩き出した俺たちは、遠距離攻撃が届く地点まで進んで立ち止まる。


 通常種が三匹に下位種が三匹……さすがに猫ちゃんだけでは無理だよな。


 「マークⅢは猫ちゃんのフォローを頼む。猫ちゃんは『猫波』で攻撃だ」


 「分かり――」


 「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃあぁ――」


 マークⅢの返事の途中で、猫ちゃんが狂ったように『猫波』を乱れ撃ちした。


 凄まじい速さで飛んでいった無数のリング状の光線が、センチピード種の群れを貫き、センチピード種たちは一瞬で体をバラバラにされて崩れ落ち、全滅した。


 や、やべぇ……連射できると思っていたがこんなに連射できるのか……これは危険だ……危険すぎる。


 動揺を隠しきれない俺が視線を猫ちゃんに転ずると、猫ちゃんは目を回してふらふらしていた。


 「SP切れですわ」


 まぁ、そりゃそうなるだろうな。10発以上『猫波』を撃ったんだからな。


 「マークⅠ、猫ちゃんのSPを回復してくれ」


 〈うん〉


 猫ちゃんの体が金色の光に何度も包まれる。


 「にゃ!? にゃ?」


 復活した猫ちゃんは、自分の身に何が起こったのか分からないのか、不思議そうな顔をしている。


 「よくやった猫ちゃん。だが、『猫波』は俺かレシアの許可がなければ撃つな」


 「わかったにゃん」


 その返答に、猫ちゃんが仲間を誤射する可能性を懸念していた俺は安堵したのだった。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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