第96話 無銘の刀⑧
翌朝、拠点のベッドで眠っていた俺は目を覚ます。
この部屋にはベッドが五台あるのだが、俺の傍らにはマークⅡとマークⅢが眠っていて、俺の腹の上にはマークⅠとダークが寝息を立てている。
何で他のベッドで寝ないんだよ?
俺はそう思いながら隣のベッドに目をやると、ワンちゃん、猫ちゃん、カミーラが一台のベッドの上で幸せそうに眠っていた。
……仲がいいのは良いことだ。
俺は腹の上のマークⅠたちをマークⅡの腹の上に移動させると、身支度を整える。
「どこに行きますの?」
目覚めていたのかマークⅢが聞いてくる。
「【無銘の刀】に行ってから南の砦辺りで狩りをする予定だ。お前たちは今日は休んでもいいぞ」
こいつらも働き詰めだからな。
「いえ、一緒に行きますわ」
「ならガダン商会の鋼の大盾を50ほど買っておいてくれ。俺が戻ってきたら狩りに出る」
「分かりましたの」
俺が食堂に移動すると、クーガたちが朝食を取っていた。
「隊長、おはようございます」
「おはよう」
俺は中央のテーブル席に移動する。
このテーブルの上には干し肉などの食材や、ポーションなどの回復薬が大量に置かれている。
俺は干し肉を三つ取って口に運ぶ。
「今日はどうするんですかい?」
「南の砦辺りで狩りをする予定だから出撃準備を整えておいてくれ。俺は【無銘の刀】に顔を出してくる」
「なら俺もお供しますぜ」
俺たちは【無銘の刀】の拠点である古宿に移動して中に入る。
俺たちが食堂の中に入ると、朝なのにもかかわらず、人でごった返している状況だった。
一番奥のテーブル席に腰掛けるエゼロスたちを見つけた俺は、そのテーブル席へと歩き出す。
「おお、ロストじゃないか。よく来てくれた」
よく来てくれただと? 用はないはずだが何かあるのか? まぁいい、先に俺の用件を済ますとするか。
「俺たちの拠点の場所を知らせておこうと思ってな。ここから北の通り沿いにある古宿だ。まぁ、そっちが俺たちの拠点に来ることはないと思うが一応な」
「……早いな」
エゼロスの口角が上がる。
「で、シズナたちはこんなに人だかりができるほど人気なのか?」
「いや、昨日からだ。つまり、あんたのおかげだ。二人も上級職が増えたんだからな」
「それはあの二人に資質があっただけで、俺は転職の神殿に連れて行っただけだ」
「まぁ、あんたならそう言うだろうな」
「一応言っておくが、クーガも含めて俺の軍になった隊員10名は、誰も転職できなかった」
クーガを一瞥したエゼロスは決まりの悪い顔をする。
「……で、うちに上級職が二人増えたことにより、昨日からはうちのメンバーに加えて、これまでの倍の10人ぐらいを狩りに連れて行っている状況なんだ。だが、あまりにも人気で問い合わせが減らないから、予約制にすることにした。しかし、それに触発されたのか、あんたの軍に入りたい連中が痺れを切らしてる。次の入隊はいつかってな?」
はぁ? 一昨日10人入ったばかりで、まだ戦術すら確立していない段階なんだぞ。まぁ、5人ぐらいだったら俺が指示を出せばなんとかなるとは思うが……
「何人ぐらい希望者はいるんだ?」
「30人ほどだ」
「……」
はぁあ!? 多すぎるだろ!? 面倒見切れん数だ。
「10人受け入れたばかりだから無理なのは承知で言っている。だが今でこそ、その数だが、どんどん増えていくだろうな」
マ、マジかよ。軍を立ち上げてまだ二日しか経っていないんだぞ……
俺は絶句する以外になかった。
「隊長、入隊はさせるかどうかはおいといて、面談ていうか、うちがどんなところか説明するだけでもいいじゃないですかね?」
「……入隊希望者はすぐ集められるのか?」
「集められると思うぞ。あんたの軍に対する質問を受けたのはさっきだからな」
ハゴンが紙を俺に手渡し、俺はそれに目を通す。
その紙には名前と性別、職業がずらりとリスト化されていた。
「なら説明希望者は拠点の外に来るように伝えてくれ」
「分かった」
頷いたハゴンが離席し、俺たちは宿の外に出る。
俺たちが宿の前で待っていると、説明希望者たちはすぐに集まった。
マジかよ……29人もいるのか。それに今回は女性が9人もいる。
「まず大前提として納得できなくても俺の指示には従ってもらう。不服ならこの場を去ってくれ」
そんな俺の言葉に、誰一人としてその場から動く者はいなかった。
「ではクーガ、現場を知る者として何か話してくれ」
「俺はずっとポーションなんかの回復薬や装備のことなんかを気にして戦ってきた。要するに金がねぇってことだ。お前らもそうじゃないか?」
その言葉に、説明希望者たちは深く頷いている。
「だが、ロスト軍に入ればそんなことを気にする必要もない。ただ目の前の魔物をぶち殺す。それだけ気にしてたらいいってことだ。それができるのがロスト軍だ」
クーガがそう締めくくると、どよめいた説明希望者たちが騒ぎ出す。
「いつから入隊できるんだ!?」
「早く入隊させてくれよ!!」
「そもそも俺たちは魔物をぶっ殺すためにこっちに来たんだからな!!」
「そうだそうだ!!」
騒ぎの勢いは激しくなる一方で、収拾は困難だと考えた俺は、彼らの入隊を許可した。
そして、俺たちは彼らを連れて拠点へと移動した。
「出撃するから皆を呼んできてくれ」
クーガが頷いて宿へと歩いていく。
「ここが俺たちの拠点だ。食堂で休んでもいいし、狩りを見学したいなら食堂に私物を置いてから、ここに集まってくれ」
俺は隊員たちに指示を出し、自室に移動して中に入る。
マークⅡたちやワンちゃんたちはすでに身支度を整えてベッドに腰掛けていて、マークⅢも帰還していた。
「購入したガダン商会の鋼の大盾はどうしますの?」
「強化するから全部出してくれ。マークⅡ、自分にマジカルライズを使ってから、俺にマジカルライズをかけてくれ」
「分かりましたの」
〈分かりました〉
マークⅢが時空の裂け目から鋼の大盾を次々に取り出し、床に並べる。マークⅡが淡い光で包まれると、俺の体も光り輝いた。
「リインフォース リインフォース リインフォース……」
俺は順番に鋼の大盾に触れて、リインフォースの魔法を唱えていく。
結果、魔導具は出ず、硬度が強化された大盾が24、耐久値が強化された大盾が26となった。
高品質の鋼の大盾は、守備力の値が80らしい。つまり、俺の魔法で硬度が2.5倍に強化された鋼の大盾の守備力は200になる。
「マークⅢ、五人の【戦士】に硬度が上がった大盾を渡してくれ」
「分かりましたの。あと耐久値が強化された武具は使い道がないので、買値の二倍で売却してもよろしいですの?」
耐久値が上がった鋼の剣は100本ぐらいあるはずだが、確かに使い道はない……
「そういう金の話はお前の判断に任せる」
「分かりましたわ」
マークⅢは嬉しそうに微笑んだ。
「狩りに出かけるぞ」
俺たちが個室から出て宿の外に出ると、すでにクーガたちが集結していた。
リストに載っていた職業は【戦士】と【盗賊】がほとんどで、数名の【剣士】がいただけだったな。
「前衛組と盗賊組に分かれてから、五人一組になってくれ」
「……あの私たちは四人しかいないんですけど」
四人組は全員が女で、そのうちの一人が気まずそうに俺に尋ねた。
前衛職が19人で【盗賊】が10人だから、前衛職のいずれかの組が4人になるのは当然だ。
「新人が入るまで我慢してくれ。では出発する」
こうして、俺たちは狩りへと赴くのだった。
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