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第95話 黒衣の男 ☆クーガ クラウザー

 

 俺たちは森から出現する魔物を狩り続けていると昼になった。


 隊員たちが昼食を取っている間は俺とマークⅠで魔物に対処し、昼になって目覚めたダークは、魔物の死体を嬉しそうにバクバクと食べている。


 隊員たちの休憩が終わると、俺は魔物の対処はマークⅠたちに任せて、隊員たちを集合させた。


 「戦いには慣れただろうから戦術を変える。まず盗賊組だが四人での見張りを一人にして、戦闘一回ごとに交代していく感じだ。残る四人には弱い下位種を倒してもらう。やれそうか?」


 盗賊組は硬い表情で頷いた。


 「戦士組は通常種を倒すことを前提として動いてもらう。まず囮役を一人決めてそいつが魔物を攻撃する。魔物が向かってきたら囮役が攻撃を防いでいる間に、残りの四人で総攻撃するといった感じだ。囮役は戦闘一回ごとに交代だ」


 「通常種が二匹だったらどうするんですかい?」


 屈強な体つきのモヒカンが質問を投げかける。


 彼の名前はクーガだ。当初はスキンヘッドのガチムチがまとめ役のような存在だったが、現在は彼が戦士組をまとめているようだ。


 だが俺は、今の段階で誰かをリーダー的なポジションに据えるつもりはない。誰が転職できるか分からないし、誰が戦術的思考に優れているか分からないからだ。


 「これは通常種一匹に対して【戦士】五人で安定して勝てるのかという検証だ。可能なら二匹目はあんたらとは違う五人組が対処することになる」


 「おおっ!? そういうことかっ!!」


 クーガが感嘆の声を上げる。


 冒険者は個々の能力での勝負になるが、彼らは軍隊だ。つまり、俺は軍隊の強みである数で勝負することにした。


 これまでに数で勝負しようと考えた奴は大勢いるはずだが、コストが合わない上に下級職の前衛では通常種にダメージを与えられないという現実に、実行する意味がなかったのだろう。


 しかし、俺の場合はコストは見合わないかもしれないが、俺の強化した武器があれば普通程度の通常種なら確実に勝てることが分かった。あとは、人数の調整次第といったところだな。


 それから、俺たちはあらたな戦術を試してみたが、大きな問題は発生せずに日が落ち始める。


 問題点としては、開けた場所の中央に布陣しているので、この場所では見張り役の状況判断能力が育ちにくく、装備も見直す必要がありそうだという点ぐらいか。


 俺が逡巡していると叫び声を耳にして我に返る。


 「巨大なオークがこっちに来ます!!」


 こっちに目掛けて駆けてくる見張り役が声を張り上げる。


 声が聞こえた方角に俺が顔を向けると、そこには三メートルを超えるオークの姿があった。


 「な、なんだよあの大きさはっ!?」


 「もしかして上位種なのか?」


 「でかすぎるだろ!?」


 隊員たちは慌てふためいている。


 「あれがオークアヴェンジャーだ。上位種扱いになっているから討伐金は500万になる」


 しかし、アヴェンジャーが単体で現れるのは珍しいな。


 「あ、あれがエゼロスさんが言ってたアヴェンジャーなんだ」


 カミーラが息を呑む。


 「か、勝てるんですかい?」


 クーガが不安げに俺に尋ねた。


 「無論だ」


 「……さすがですな」


 クーガの顔に虚脱したような安堵の色が浮かぶ。


 そうは言ってみたものの勝てる保証はないんだよな。まぁ、負けることはほぼ無いと思うが、奴の特性上、高レベル個体だと俺を上回る強さになっていても不思議じゃないからな。


 アヴェンジャーは俺たちに向かって近づいてくるが、時折後ろを気にして振り返っている。だが、森から黒尽くめの金髪の男が姿を見せると、アヴェンジャーの顔が瞬時に恐怖に歪む。


 何者なんだあの男は? 装備は鎧にマント、腰に剣を帯びている。


 逃げ切れないと思ったのか、アヴェンジャーは足を止めて身を翻し、身構えた。


 嘲笑うような笑みを浮かべる男がアヴェンジャーの間合いに入ると、アヴェンジャーは力任せに戦斧を振り下ろす。


 その刹那、男は事もなげに戦斧を避けながら、瞬く間にアヴェンジャーに肉薄して右の拳をアヴェンジャーの腹に叩き込んだ。


 弾け飛んだアヴェンジャーは空中で腹が破裂し、体が上下に分かれて地面を転がった。


 「な、なんて戦いなんだ……」


 「俺には攻防が全く見えなかった……」


 「ていうか、なんでアヴェンジャーの腹が爆発したんだよ?」


 隊員たちは動揺を隠しきれないようだ。


 「あれはおそらく『発勁』だろうな。打撃に加えて内部が破裂する特殊能力だ」


 ラゼが『発勁』を使うとあんな感じに内部から破裂していたからな。


 「そ、そんなもんを人体に使われたらたまったもんじゃないですぜ……」


 「同感だ」


 「あいつは現地人ですかね?」


 「だろうな」


 俺が男の動向を注視していると、森のほうから大声が聞こえてくる。


 「待って下さいよクラウザー様!! 速すぎですよ!!」


 森から駆けてきた男五人が黒尽くめの男と合流した。


 クラウザーだと!? ……いや、クラウザーという名前は現地人でもありそうな名前だ。それにクラウザーは単独行動らしいからな。


 『言語』の腕輪の欠点は、相手が何語で話しているのか分からないことなんだよな。


 「うおっ!? アヴェンジャー倒したんですね」


 「すげぇ……体が千切れてる。化け物だと恐れられてるアヴェンジャーも、クラウザー様にかかればただの雑魚だな」


 あまりにも無様な亡骸を晒しているアヴェンジャーを目の当たりにし、男たちは圧倒されているようだった。


 「クククッ、こっちにも俺の目に留まる魔物はいないようだ」


 腕を組んでいる黒尽くめの男が見下すような冷笑を浮かべる。


 「あいつら日本人だったのか……マジかよ」


 クーガはただならぬ表情を浮かべている。


 なんだと? あいつら日本語で話しているのか。ということは、あいつがクラウザーで間違いなさそうだな。


 「クラウザー様、アヴェンジャーの頭です」


 男たちの一人がアヴェンジャーの上半身から首を切断し、頭をクラウザーに差し出した。


 「いらぬ。そいつはすでに何匹も食っているからな」


 ……マジかよ? 魔物を食うって噂は本当だったのか。


 「やったぜ!! 換金したら500万になる!!」


 「これまでに狩った首も合わせると酒も女も買い放題だな」


 男たちは大はしゃぎだ。


 「それでこのまま西に進みますかクラウザー様?」


 「……それしかないだろう」


 「強い魔物がいればいいんですけどね」


 クラウザーが歩を進めると男たちも追従し、クラウザーたちは森の奥へと消えて行ったのだった。


 「あのクラウザーって奴は何者なんですかね?」


 深刻そうな表情のクーガが俺に尋ねる。


 「あんたは強い奴らのことをどのくらい知っているんだ?」


 その言葉に、隊員たちの視線が俺に集中する。


 「い、いや、詳しくは知らないですが【暗黒剣士】のガーラと【聖騎士】のソフィが双璧だったが、ソフィがルガー隊に入ってルガー隊が最強になったって話ぐらいですぜ。だけど、ソフィがルガー隊に入ったんなら何でソフィ隊じゃないんだって思いますがね。ルガーは上級職の【重戦士】らしいですから」


 クーガの見解に、皆もうんうんと頷いている。


 「俺も詳しいほうじゃないんだが、ソフィとルガーには面識があるんだ」


 「噂の二人と面識があるなんて、やっぱりロストさんってすごいんですね」


 カミーラは尊敬の眼差しを俺に向けている。


 「で、あんたらの疑問だが、ソフィは人を育てる能力が皆無らしい。だから俺が会った時点で彼女は一人だった。それでルガー隊が最強だと言われているのはもう一つ理由がある。ガーラとソフィより強い【風使い】のヒュリルがルガー隊に入ったからなんだが、彼女も人を育てられないからルガー隊に入ったんだろうな」


 「か、【風使い】ってのはそんなに強い職業なんですかい?」


 「ああ。使い系の最上級職の中でも自然系は最強らしいからな。一般的な最上級職では戦いにもならないだろう」


 「マ、マジかよ……なるほど、それでルガー隊が最強だと言われてるのか」


 クーガは合点がいったような顔をした。


 「で、ガーラとソフィが最強だと言われてた時期に、頭角を現しだした四人の日本人がいるって噂になっていたんだ。その内の一人がさっき言った【風使い】のヒュリルで、クラウザーもその一人だ。なんでもクラウザーは魔物を食うらしいぞ」


 「魔物を食うってどんな職業なんですかい?」


 「それは俺も知りたいぐらいだ」


 「それで残りの二人に隊長、あんたも入ってるんですかい?」


 クーガの言葉に、隊員たちが期待の眼差しで俺を見る。


 「いや、俺ではない」


 その返答に、隊員たちはがっくりと肩を落とした。


 「だが、ルガーが言うには俺は五人目らしい」


 「……えっ!?」


 俯いていた隊員たちは一転して歓喜に顔を輝かせた。


 そして、完全に日が暮れると、約束通りにマークⅢが俺たちと合流する。


 マークⅢが台車を収納すると、俺たちは戦士の村に帰還したのだった。

クーガのイメージ

挿絵(By みてみん)


クラウザーのイメージ

挿絵(By みてみん)


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