第93話 リインフォースの魔法の検証結果 ☆マークⅢ
転職を終えた俺たちは戦士の村に帰還した。
その場で解散となったが、俺がマークⅢに俺の軍の拠点を探すように指示を出すと、彼女は猛スピードで俺の視界から消えた。
俺たちは不動産屋へと移動し、契約はマークⅢに丸投げなので不動産屋の前で待つことにした。
しばらくするとマークⅢが契約を済ませて戻ってきたので、俺たちはマークⅢが契約を交わした物件へと足を運ぶ。
物件は【無銘の刀】と同様に古びた宿で、【無銘の刀】よりもかなり離れた場所にあった。つまり、南門からさらに遠い場所にあるのだが、その分値段は安いようだ。
正直、その程度の金をケチる必要性を感じなかったが、マークⅢに任せているので俺は何も言わなかった。
俺たちは拠点の中に入って一通り目を通すと、武具屋へと出かける。
猫ちゃんとギル、カミーラと俺の軍の装備を整えるためだ。
ワンちゃんが自身と同じハイ・ラット革の服とスカートを猫ちゃんに手渡すと、猫ちゃんは気に入ったようだ。
猫ちゃんが前衛に出るようならもっと性能の良い防具を買ってもいいが、おそらく猫ちゃんはレシアの傍から離れないと思うので今は必要ないだろう。
ギルとカミーラにはガダン商会の鋼の剣、鎧、ブーツを購入した。
俺の軍の隊員たちには武器は購入せず、ガダン商会の鋼の鎧とブーツ、【戦士】たちには盾も購入したが、彼らの防具には自身で分かるように印をつけさせてから、マークⅢに回収させた。
彼らの武器を購入しなかったことと、防具をマークⅢに回収させたのは言うまでもなく、俺がリインフォースの魔法で強化するつもりだからだ。
そして、マークⅡが柄の長い巨大な斧のような、HQのミスリルハルバードを購入した。値段は一億円だ。
マークⅡいわく、アヴェンジャーの戦斧でダメージを与えられないときの保険として欲しいとのことなので、俺は快諾した。
マークⅢは、大剣であるHQのミスリルグレートソードを購入する。値段は一億円で、さらにミスリルアーマーとミスリルブーツも欲しいと言ってきたので、俺が「金は大丈夫なのか?」と確認すると問題ないようなので許可した。
マークⅢはすぐに更衣室に駆け込んだ。マークⅢが更衣室から出てくると彼女は全身鎧を着るのをやめて、素顔を晒してミスリルアーマーとミスリルブーツを身に着けていた。
よほど女の姿になりたかったんだろうな。
その後、俺はマークⅢに高品質のガダン商会の鋼の剣を買い漁るように指示を出す。
だが、この店には100本ほどしかなかったので、あと400本ぐらいは欲しかった俺は、マークⅢに他店を回って買い集めてこいと指示を出し、俺たちは拠点に帰還した。
マークⅢが剣を買い集めて戻ってきたところで、俺たちはリインフォースの魔法の検証をすることにした。
500本の剣を全て強化した結果は、硬度が3倍の剣が2本、耐久値が3倍の剣が3本、それ以外はどちらかが2倍か2.5倍の剣ばかりで、魔導具らしき剣は1本も作ることができなかった。
この結果に対して、マークⅢは気になる点が二つあると表情を曇らせた。
一つ目は素材だ。骨騎士の剣の素材は骨だが、骨を魔法で加工したのが骨騎士の剣らしい。
つまり、魔法で加工された素材でないと魔導具にならないという仮説だ。他に思い当たる魔法で加工された素材といえば魔法金属のミスリルぐらいだろう。
二つ目は魔法のクリティカルの発生率についてだ。無論、それは技量が関係しているので個人差はあるが、数万から数十万回に一回ぐらいの確率ではないかということで、俺の場合、クリティカルが最初のほうに出ただけのことではないかということがマークⅢの見解だ。
上記のことを踏まえた上で、俺はこれ以上の検証を行わないことにした。
最低でも数万本ものガダン商会の鋼の剣が必要で、金がかかりすぎるからだ。
それから俺は、俺たちが所有するミスリル製品に強化を施したが、その結果に驚いた。
強化される倍率が1.5倍に下がったからだ。
マークⅢいわく、ミスリルソードの攻撃力は300で、HQのミスリルソードの攻撃力は450らしい。
さすがミスリルだというほかないが、それだけに強化倍率が低くなるのもある意味頷ける。
翌朝、俺はマークⅡとマークⅢ、ワンちゃんとギルに金を稼いできてくれと指示を出す。マークⅡたちにギルを加えているのは彼が【大怪盗】であり、俺たちと共に行動しても力を持て余すだろうと判断したからだ。
まぁ、ギルならマークⅡたちから様々なことを学んでくれるだろう。
マークⅡたちが狩りに出ると、俺は残ったメンバーに出撃準備を促して俺も鋼の装備に戻した。
ミスリルが目立ちすぎるからだ。無論、ミスリルランスだけは万が一に備えて持って行くが。
俺は残ったメンバーを連れて狩りに出る。
俺たちは西門から西に進んでいくと、センチピード種の群れに遭遇する。
数は下位種が一匹、通常種が三匹だ。
センチピード種は強い上に厄介なので放置されがちだ。
「マークⅠ、小さい方を倒せ」
〈やったぁ!!〉
俺の肩からダークに騎乗したマークⅠたちが飛び立つと同時に、俺が一瞬で通常種たちに肉薄し、長剣でバラバラに斬り裂いた。
俺が振り返ると隊員たちは唖然としていた。
「首を回収しろ」
俺の言葉に、弾かれたように隊員たちが動き出す。
〈マスター、クビはどうするの?〉
下位種の首を持つマークⅠが尋ねる。
しまった……忘れてたぜ。マークⅢはいないんだった。
「台車を買いに戻るぞ」
俺たちは戦士の村に戻って武具屋で台車を20台購入し、再び西門から西に進む。
台車は鎖で連結できるタイプを買ったので、台車を4台ずつ繋げて5人の【戦士】たちが台車を引いている。
最初は人数分の台車を買おうと思ったが、それだと台車が一杯になる頻度が上がって何度も戻ることになりそうだと思ったので、とりあえず切りのいい数の20台にした。この数でも効率が悪くなるのなら買い足せばいいだけだ。
俺たちが森の中へと踏み入ってしばらく進むと、前方からアント種が姿を現す。数は通常種が三匹だ。
そういえば、ラードたちとネヤたちが初めて組んで狩りに出たとき、一戦目がサハギンで二戦目がこいつらだった。
ミコですらアントに対して効果的なダメージを与えられずに、苦戦していた相手でもある。
だがそれは当然の結果だろう。アントの守備力はレベル1で150ほどで、下級職の【戦士】たちの攻撃力は100ほど、ガダン商会の鉄の剣(高品質)の攻撃力は30で、鋼でも60だ。
なので【魔法使い】が必要になるわけだが、隊員たちには俺が強化した硬度が2.5倍のガダン商会の鋼の剣を持たせてあるので、【戦士】たちならアントに勝てるだろう。
前衛の【戦士】たちの攻撃力は少なくとも100はあり、俺が強化した剣の攻撃力は150で、合わせると攻撃力は250になるからな。
しかし、俺はマークⅠにアントたちを倒すように指示を出した。
虫系は生命力が高すぎるので面倒だからだ。レベルの低い彼らには弱い魔物と戦わせて着実にレベルを上げたいと俺は考えている。その為に西に向かっているのだからな。
マークⅠたちが倒したアントたちの首を台車に積み込むと、俺たちは再び西へと進んでラードたちの小屋があった開けた土地を目指す。
このペースで進むと野営をすることになるのでペースを上げたいが、俺が台車を20台も購入したのでそれも難しい状況だ。いっそのこと台車を放置して進むか? だが、それをすると魔物の首や素材も捨てて行くことになる。
俺が逡巡していると、前方からラット種が現れる。数は下位種が一匹、通常種が二匹だ。
〈たおしていいよね?〉
「いや、ダメだ」
〈えぇ~~~っ!?〉
「右と左に魔物はいないのか?」
〈ひだりにアリ、みぎにブタがいるよ〉
アント種と黒オーク種か。
「なら好きなほうを倒してきていいぞ」
〈やったぁ!! ブタをたおしてくる!!〉
「キュキュ!!」
マークⅠたちは嬉しそうに右の方向へと飛んでいった。
「カミーラが下位種、【戦士】全員で通常種を倒せ」
真っ先にカミーラが突進し、それにつられたように【戦士】たちも動き出す。
さて、どうなる? ラット種の通常種は体がでかいだけで、ステータスの値は下位種とさほど変わらないから楽勝なはずだけどな。
カミーラが一刀の下にレッサー・ラットの首を刎ね飛ばし、【戦士】たちの先頭を走る二人が一撃でラットたちの胴体を両断した。
「この剣すごすぎる……私がレッサー・ラットを一撃で倒せるなんてあり得ないのに」
「確かにな……」
「俺たちでもラットを一撃では倒せないからな」
カミーラや【戦士】たちは驚きを隠しきれない様子だ。
こいつら意外に躊躇がないな。カミーラはともかくとして【戦士】たちは戦闘経験が乏しいから、少しは手こずると思っていたが……これなら通常種のウルフやスネークとも戦えるかもしれないな。
マークⅠたちが台車の中に、オーク種たちの首を投下して通り過ぎていく。
〈アリもたおしてくる〉
「先に進んでるぞ」
〈うん〉
カミーラたちがラット種たちの首を台車に積み込むと、俺たちは先に進み出す。
前方から現れる魔物たちは隊員たちが倒し、左右に潜んでいる魔物たちはマークⅠたちが倒して進んでいると日が暮れてくる。
ていうか、ここまで【盗賊】たちは一度も戦っておらず、歩いているだけだった。
そもそも、彼らは紙装甲なので一般的な魔物の下位種と戦わせると危険なので、雑魚であるレッサー・コボルト狙いで村から西側に向かっている訳だ。
レッサー・コボルトが多く生息している場所は、現在向かっているラードたちの小屋から先が一番近い。具体的には四カ所あった小屋を基点とするとその内側になる。
このままでは野営することになるので、俺は強硬手段に出る。
【盗賊】たちと猫ちゃんを台車に乗せて眠りにつかせて、強行軍で夜間も進むことにした。
まぁ、ポーション類は20本ずつ購入しているので、最悪、ファテーグポーションを飲めば問題ないからな。
前衛の【戦士】たちは盾を台車に入れた代わりに松明を持つ。
俺は慣れているので問題はない。だが、彼らは初めての夜戦なので苦戦しているが、マークⅠが『気配探知』を持っているので、不意打ちをくらうことはなく、夜間の進軍が可能になっている。
俺たちは負傷者を出しながらも進軍し続け、真夜中にラードたちの小屋があった開けた土地に到着した。
俺はカミーラと【戦士】たちに眠るように指示を出し、【盗賊】たちを起こしてマークⅠたちと共にレッサー・コボルト狩りに行くように指示を出した。
見張りの役の俺はやることがないので、巨木を斬り倒して薪を作り、焚火を始める。
俺は森から侵入してくる魔物たちを狩りながら、地面に横たわる朽ちた木や途中で折れている木々などを強引に引き抜いては焚火の燃料にしていく。
気がつくと俺が集めた木材は小屋数件分に達していて、凄まじい勢いで燃え盛っている。
「くくっ、なんか炎っていいよな……」
炎を見つめる俺が満足げな笑みを浮かべていると、俺の隣にはいつの間にかマークⅢが立っていたのだった。