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第92話 無銘の刀⑦ ☆スラリー エイミー


 【無銘の刀】の拠点に到着した俺たちは、急いで中に入って食堂へと歩を進める。


 俺たちが食堂に入ると、入ってすぐのテーブル席にエゼロスたちが顔を揃えていた。


 「皆、首を長くして待ってたぜ」


 エゼロスの言葉に、俺は静かに頷いた。


 「ロストさん、お久しぶりです」


 シズナが深々と頭を下げる。


 「ああ、久しぶりだな。お前らの活躍は聞いているぞ」


 「久しぶりぃ!! ワンちゃんも久しぶり!! あれ? 猫の獣人が増えてる……」

 

 猫ちゃんを目にしたソローミが目を細める。


 「猫ちゃんだ」


 「猫ちゃんよろしく!!」


 満面の笑みを浮かべるソローミが猫ちゃんの両手を握りしめる。


 「にゃにゃあ?」


 言葉が分からない猫ちゃんは戸惑っている。


 「仲良くしようと言ってるぞ」


 「よろしくにゃん」


 嬉しそうに微笑んだ猫ちゃんが手を握り返した。


 「ロストさん、彼女たちは【無銘の刀】に入った仲間で、彼女たちも転職の神殿に連れて行ってほしいんです」


 俺が紹介された女たちに目を向けると、可愛らしい感じの女たちが俺に微笑みかけていた。


 「……確かあんたらはマミと一緒にいなかったか?」


 「そうです。私たちはロストさんに【無銘の刀】を勧められて、いいところだと思ったので【無銘の刀】に入りました。私の名前はスラリーっていいます」


 黒髪のショートカットの女がにっこりと笑う。


 「私はエイミーです」


 深い緑髪のショートカットの女がペコリと頭を下げる。


 「別に構わないぞ」


 「ロスト、彼らが転職を切望している二部隊のリーダーたちだ」


 エゼロスに紹介された男女が、真剣な硬い表情で俺に向かって手を差し出した。


 「あんたには本当に感謝している」


 「正直、これ以上どうしたらいいのよって思ってたから、この幸運に感謝するわ」


 「気にするな。俺たちは日本を奪還するために集まった仲間なんだからな」


 差し出された手を握り返した俺は、視線を彼らの後ろに控える仲間たちに転じた。


 やはり、男女の違いはあるものの、理想的な三人組のパーティが、よそのパーティを取り込んだような編成だな。


 「ロスト、こっちの五人は俺が選んだ奴らだ」


 借金してでも転職したい奴らのことだよな。なるほど、皆ぎらついた目をしている。こういう連中には強くなってほしいと思うぜ。


 「そして最後になるが、こっちの10人があんたの軍に志願している連中だ。入隊させるかはあんたが判断してくれ」


 「あんたらは何で俺の下につきたいと思ったんだ?」


 そう問いかけた俺は、男たちの顔を一人ずつ見回した。


 「俺が代表して答えさせてもらうが、皆、状況的に詰んでると思っていたところに、あんたの強さをシズナさんたちに聞かされたからだ」


 スキンヘッドの屈強な体をした男が簡潔に言い放つ。


 「そうか。あんたらは俺のやり方に、何でなんだ? と思うこともあると思う。それでも俺の指示に従えるか?」


 「も、もちろんだ」


 スキンヘッドの男が即座に了承し、男たちも頷いている。


 「なら全員合格だ。あんたらも転職の神殿に連れて行くからついてくるといい」


 「あ、ありがてぇ!!」


 男たちは歓喜に沸いた。


 「……あとは拠点だが、昨日の今日なのでまだ決まってないんだ」


 エゼロスが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。


 「でしたら拠点は私が探しますわ。よろしいですよねマスター?」


 話に割り込んだマークⅢが俺に確認を求める。


 「任せる。じゃあ、転職組は外に出てくれ」


 俺たちが拠点の外に出ると、転職組が俺の前に集まる。


 「最初に言っておくがあんたらは戦う必要はない。だから走ることに専念してほしい」


 俺が開口一番そう告げると、転職組からざわめきが起こる。


 「そして、できるだけ移動速度を上げるために、後衛がいるなら前衛が後衛を抱えて走ってくれ。まずはここから東門まで移動する。そこから東の砦まで一気に進み、休憩してから、ノンストップでエルザフィールの街まで行く予定だ」


 「本当に私たちは戦わなくていいの?」


 六人パーティの女リーダーが訝しげに俺に尋ねる。


 「ああ。俺の仲間たちが先行して魔物を倒すからな。だからあんたらは後を追いかけるだけでいい。まぁ、念のために俺があんたらと行動を共にするつもりだ。他に質問はあるか?」


 納得したのか転職組は沈黙したままだ。


 「では移動を開始する」


 俺たちは東門に向かって一斉に駆けだしたのだった。


          ***


 俺たちは何の問題もなく、エルザフィールの街に到着した。


 後衛を前衛が抱えて走るという荒業も、戦うことを前提にしなければ容易かった。俺は後衛を抱えている者たちの速度に合わせて走ろうと考えていたが、レベルの低い【戦士】たちに合わせて走ることになったことが意外だった。


 マークⅢいわく、レベル1の【戦士】の素早さは60で、【剣士】の素早さは80、【武闘家】【盗賊】の素早さは100を超えるので当然だと言える。


 ちなみに、俺たちは先行するマークⅡたちを追いかけていたが、魔物の死体を食べているダークをたまに見かけるだけで、彼女らが戦う姿を一度も見ることもなくエルザフィールの街に到着した。


 なので、道中の転職組は「どんな速度で戦ってるんだ?」と口々に驚きの声を上げていたのだった。


 すぐに転職の神殿に向かった俺たちは、転職の神殿の中に入ってマークⅢが受付を済ませると、マークⅢの後に続いて俺たちは部屋の中に入る。


 六人パーティの二部隊には、マークⅢが部屋を別に手配しているのでここにはいない。


 マークⅢが水晶玉の操作方法や手順を説明すると、【無銘の刀】のメンバーから転職を試していく。


 結果はスラリーが【重戦士】に転職できたが、エイミーとエクスは転職できず、ポムが【怪盗】に転職できた。


 これで【無銘の刀】は上級職が四人になったので活動の幅が広がるだろう。


 続いて、借金してでも転職を試したい五人が転職を試し、内三人が【重戦士】への転職に成功したことにより、彼らは五人でパーティを組むことになったらしい。


 それにしても【重戦士】が続くな。やはり、元が【戦士】だと【重戦士】に就きやすいようだ。


 続いて俺の軍の【戦士】五人、【盗賊】五人が転職を試したが、誰一人転職できなかった。


 彼らは最初のパーティ以降は単独行動を余儀なくされていたようで、ろくに経験値を稼げていないらしい。


 まぁ、ネヤやラゼも初回は転職できなかったから次回に期待したいところだ。


 残っているのはうちの隊で、カミーラが緊張した面持ちで俺に話を切り出す。


 「転職を試す前に確認しておきたいんだけど、私はあなたの隊に入れてもらえるのかしら?」


 「合格だ」


 俺が即答すると、カミーラは拍子抜けしたような顔になる。


 俺が見ていたのは彼女の能力ではなく人柄だからな。その中でもワンちゃんや猫ちゃんに優しく接することができた時点でポイントは高く、合格だと判断していたが伝えるのを忘れていた。


 「これでワンちゃんと猫ちゃんと一緒にいられるわ」


 ワンちゃんたちに駆け寄ったカミーラが、ワンちゃんに抱きついて破顔する。


 ギルが転職を試したが無表情で戻ってくる。それを目の当たりにしたカミーラが、意を決したような顔で水晶玉の前まで移動して水晶玉に触れた。


 戻ってきたカミーラが暗い表情で俺に報告する。


 「……私もギルと一緒で転職できなかったわ」


 「えっ? 俺は転職できたっすよ【大怪盗】に」


 「はぁ!? マジかよ!?」


 これには俺も度肝を抜かれて思わず叫んでいた。


 「じゃ、じゃあ何で喜ばないのよ?」


 「だって【大怪盗】になっても地味じゃないっすか? なんか走ってるだけっていうか……だから本当は派手な【大魔導師】になりたかったんっすよ」


 ギルは表情を曇らせる。


 なんとなく分かる気がするぜ。俺が【盗賊】でほとんど戦うことなく走り回っているだけだったら、俺もそう思うかもしれないからな。


 「なんにせよ、ナイスだギル」


 「あ、あざっす」


 ギルは照れくさそうに笑っている。


 そして、マークⅢに連れられてワンちゃんが転職を試すが、ワンちゃんは肩を落として戻ってくる。


 「ダメだったわん……」


 「ワンちゃんの場合、一般的な最上級職に適性があったとしても【ワンワン】のほうが強いから気にするな」


 「……プリンがたべたいわん」


 ワンちゃんは懐から皿を取り出す。


 「お、おう……」


 ……そんなところに皿を入れていたら割れるだろ。ていうか、何で皿を持ってるんだ?


 俺は『無限プリン』を発動し、皿から溢れる限界ギリギリまでプリンを大きくすると、ワンちゃんはプリンが落ちないように慌てて口で受け止める。


 「わふぅ!!」


 ワンちゃんは尻尾を振りながら幸せそうにプリンを食べている。


 猫ちゃんがマークⅢに連れられて水晶玉の前に立ち、水晶玉に触れる。


 「な、長いわね……」


 猫ちゃんを見つめるカミーラはゴクリと喉を鳴らす。


 「猫ちゃんは文字が読めないから時間がかかるんだ」


 まぁ、ワンちゃんのときと同様に、転職できることは確定しているがな。


 気長に待っていると、ようやく猫ちゃんとマークⅢが戻ってくる。


 「猫ちゃんは下級職の【武闘家】にも転職可能でしたが、上級職の【ニャニャン】にしましたの」


 「【ニャニャン】ってそんな職業もあるのね……可愛い」


 【ニャニャン】ってことはワンちゃんの【ワンワン】っぽいな。


 「【ニャニャン】も『肉球パンチ』とかがあるのか?」


 「ありませんわ。『マッハパンチ』と『猫波』(にゃんぱー)が強いですの」


 『マッハパンチ』は何となく想像できるが『猫波』だと? なんだそりゃ!?


 以下はマークⅢが俺に説明した猫ちゃんのステータス



名前: 猫ちゃん

職業: 【ニャニャン】レベル: 1

HP: 900

MP: 700

SP: 800

攻撃力: 400

守備力: 200+アリゲーター革の前掛け

素早さ: 300

魔法: ヘイト, マジックリフレクト

特殊能力: マッハパンチ, 猫波, 回避

譲渡された特殊能力: 鉄壁



 「ヘイトの魔法は敵対心を増大させる魔法で、マジックリフレクトの魔法は魔法を反射できますの。『マッハパンチ』は繰り出される拳の速度が素早さの二倍の速度で放てますの。『猫波』はリング状の光線を放てる強力な特殊能力ですわ」


 マジックリフレクトの魔法はかなりいい。さらに使い勝手が良さそうなのが『マッハパンチ』だよな。素早さが上がる特殊能力はほとんど見かけないし、接戦になるような相手だったら『マッハパンチ』のごり押しでいけるんじゃないのか? 『猫波』は実際に威力を見てみないことにはなんとも言えないな。だが、遠距離攻撃ができる時点で有用な特殊能力であることは間違いないが。


 「まぁ、猫ちゃんも強くなりそうだ。よくやったぞ猫ちゃん」


 「よゆうにゃん」


 「じゃあ、出るか」


 俺たちが部屋から出ると、六人パーティの二部隊が待っていた。


 「俺たちのところは二人が上級職に転職できたよ」


 「うちも二人よ」


 「うちは最上級職が一人出た」


 「なっ!?」


 リーダーたちの顔が驚愕に染まる。


 「ていうか、あんたら組んだらどうなんだ。余計なお世話かもしれないが、上級職が四人いたら活動範囲がかなり広がるからな」


 顔を見合わせたリーダーたちには気まずそうな沈黙が続いたのだった。

スラリーのイメージ

挿絵(By みてみん)


エイミーのイメージ

挿絵(By みてみん)


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