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第90話 リインフォースの魔法

 

 俺たちは戦士の村から西へと駆けていた。


 俺が先行して魔物を倒しているが、魔物の死体は放置して進んでいる。マークⅢがいないので首や素材を回収してもすぐに持てなくなるからだ。


 ギルが「もったいない」とぼやいていたが、俺が徐々に移動速度を上げるとぼやく余裕もなくなり、今は必死の形相で俺を追いかけている状況だ。


 とはいえ、俺一人のほうが早いことは言うまでもなく、日が完全に暮れる前になんとか目的地に到着することができた。だが、到着した途端に、ギルとカミーラが立っていられずに地面に突っ伏した。


 開けた土地の中央にはテントが張られていて、テントから少し離れた東西南北の場所には巨木を斬り倒して作ったと思われる焚火が豪快に燃え盛っている。


 ここには猫ちゃんたちの姿はなく、森の奥へと狩りに行っているのか、マークⅢしかいない。


 「マークⅢ、猫ちゃんはどんな感じだ?」


 「レベル7まで上がりましたの」


 「そうか、いい感じだな」


 だが、【村人】のレベルが上がっても、戦闘職に転職したらまたレベル1からやり直しだから、ほどほどでいいだろう。無論、転職できたらの話だが。


 「ギルとカミーラは仲間ですの?」


 こいつ、アナリシスの魔法でギルたちを視やがったな。まぁ、ギルたちにはマークⅢの紹介は必要だからあんまり意味はないが。


 「ギルはエゼロスの推薦でうちに入ったが、カミーラはテスト中だ」


 「でしたら猫ちゃんを休ませますの。代わりにギルにファテーグポーションを飲ませて、レッサー・コボルトと戦わせますわ」


 「任せる。ついでに自己紹介もしといてくれ」


 「分かりましたの」


 俺は『守護』で猫ちゃんを護っていたが、『守護』をギルに切り替える。『守護』は一人しか護れないからだ。


 俺が焚火を眺めていると、マークⅢとギルが俺に向かって歩いてくるが、カミーラは倒れたままだ。


 「あんなハイペースで飛ばしながら、魔物まで倒してるのに息一つ切れてないってやばすぎっすよ」


 「まぁ、しばらく休んでおけ」


 「ういっす」


 ギルは俺の隣に座り込んで焚火を眺めている。


 「マークⅢ、捨ててもいいような同じ武器を10本出してくれ」


 「分かりましたの」


 マークⅢが静かに空間へ手を差し入れて、槍を地面に並べていく。


 レッサー・コボルトの槍か……リインフォースの魔法を試してみるには丁度いいだろう。


 「リインフォース」


 俺が槍を掴んだ状態でリインフォースの魔法を唱えると、俺の掌から青い光が発せられてすぐに消失した。


 はぁ? もう終わったのか? 呆気なさすぎて手応えも何もなかったが成功しているのか?


 「すごいですわ!! 硬度が1.5倍になっていますの」


 「硬度?」


 硬さが上がっただけだろ? 防具ならいいが、武器ならあんまり意味はないんじゃないのか?


 「武器の場合の硬度は、武器自体の攻撃力が1.5倍になっていますの」


 「マジかよ!?」


 1.5倍はでかいだろ。


 俺は慌てて残り九本の槍にもリインフォースの魔法を試す。


 「興味深い結果になりましたの」


 「どうなったんだ?」


 「結果にバラつきがありますの」


 バラつきだと? 俺の腕が悪いのか? しかし、何の手応えもないからな。


 「硬度が1.5倍の槍が4本、耐久値が1.5倍の槍が5本、硬度と耐久値が1.5倍の槍が1本出来上がりましたわ。おそらく、普通はこうなりませんの」


 「……普通はどうなるんだ?」


 「強化した性能が偏りますの」


 「硬度だったら硬度だけってことだよな?」


 「そうですわ。ですがマスターは強化した性能が偏らず、稀に二つの性能が強化されているので異常ですの」


 「まぁ、そういう異常だったら大歓迎だ」


 「ていうか、おかしいっすよね。リーダーはどう考えても前衛職なのに、なんで【付与魔法師】みたいなことできるんすか?」


 「マスターは『二重職』を持っていますの。だから二つの職業に就けるのですわ」


 マークⅢが自分のことのように自慢げに話す。


 「マ、マジっすか……リーダーやべぇ」


 「マークⅢ、性能が二つ強化された槍をギルに渡してくれ」


 俺にはどの槍が性能が二つ強化されているのか分からないからな。俺も解析系の魔法か特殊能力が欲しいぜ。


 「分かりましたの」


 マークⅢが槍をギルに手渡した。


 「あざっす」


 「では次は鎧や適当な物を出してくれ」


 「分かりましたの」


 俺はマークⅢが地面に置いていく鎧や物を手に取って、リインフォースの魔法を唱えていく。


 「素材が木でも石でも革でも鉄でも、硬度か耐久値が1.5倍になることは変わらないようですわ。あとは防具の場合の硬度は防具自体の守備力が1.5倍になりますの」


 「武器や防具でもない石ころはどういう扱いなんだ?」


 マークⅢが『アイテム収納』から石を取り出し、並べ始めた時にはさすがだと思ったぜ。俺に検証させるために前もって集めていたんだろうからな。


 「どちらにもなるみたいですの」


 結局のところ、どっちになったとしても、二分の一の確率で耐久値が強化されるのは変わらない。だから、俺の手持ちの武具で言えば、性能が高いミスリル製品は硬度が強化されるのが理想だろうな。


 「そうか。じゃあ、俺のHQのミスリルランスを強化してみるか」


 虎の子のミスリルは硬度強化一択しかない。頼むぜマジで。


 「それはダメですの。まだ検証が終わっていませんわ。マークⅡたちが戻ってくるまで待ってほしいですの」


 「はぁ? 木も石も革も鉄も試したろ? あとあるとしたら今から試そうとしているミスリルだけのはずだ」


 「まだ素材に関しては骨素材が残っていますし、何よりもマークⅡが使用できるマジカルライズの魔法との併用効果の検証が最重要ですの」


 「なっ!? 確かにその通りだ……」


 こいつ、俺の魔法なのに俺よりも有用な使用方法を考えていやがる。


 俺は思わず舌を巻いた。


 俺たちはしばらくマークⅡたちの帰りを待っていたが、一向に帰って来なかった。


 「いくらなんでも遅すぎないか?」


 リインフォースの魔法の検証をして、さらに待っている状況だからな。そもそも、マークⅠが魔物の所在を特定し、マークⅡが魔物を連れて来るってだけの単純な狩りのはずだ。


 ……ん? じゃあ、何でマークⅠと猫ちゃんがいないんだ?


 「マークⅠが魔物の所在を探知して、ワンちゃんが猫ちゃんを抱えて魔物の傍まで連れて行くやり方に変えましたの。ですから、台車が魔物の首や素材で満杯になるまでマークⅡたちは戻ってきませんわ」


 「そ、そうか……」


 こいつらに任せているんだから、俺がとやかく言うことではないな。


 さらにしばらく待っていると、やっとマークⅡたちが帰還した。


 「わふぅ!!」


 俺の顔を目にしたワンちゃんが嬉しそうに俺の元に駆けてくる。


 「お疲れさん」


 俺がワンちゃんの頭を撫でると、ワンちゃんは嬉しそうに尻尾を振っている。


 「猫ちゃんも疲れただろ?」


 「よゆうにゃん」


 ほう、ワンちゃんはすぐ疲れていたのに、たいしたものだ。


 「か、可愛い……着ぐるみみたい……こんな子たちもいるんだ」


 いつの間にか復活したカミーラがうっとりした表情でワンちゃんたちを見つめている。


 「突然変異らしいが獣人社会は実力主義だから、弱い奴は切り捨てられてあまり見かけないんだろうな」


 「……最悪」


 カミーラは怒りの形相で打ち震えている。


 「ワンちゃんと猫ちゃんは休んでいいぞ」


 頷いたワンちゃんと猫ちゃんはテントの中に入っていった。


 「マークⅠ、マークⅡ、彼らはギルとカミーラだ。レッサー・コボルトかレッサー・ゴブリン、レッサー・ノームしか倒せないから、他が出たら倒してやってくれ」


 〈イヌとチビとハナのよわいほうだね〉


 〈分かりました〉


 「よろしくお願いしまっす!!」


 ギルがマークⅡに向かって深々と頭を下げる。


 「マークⅡ、マスターにマジカルライズの魔法をかけてほしいのですわ」


 マークⅡが頷くと俺の体が淡い光に包まれる。


 「ギル、マークⅡについていけ。マークⅡは言葉を話せないが日本語は理解しているから、何かあれば話しかけろ」


 「ういっす」


 「私も行く」


 ギルとカミーラは焚火から適当な木を松明の代わりに手に持ち、マークⅡたちの背中を追いかける。


 「ではマスター、まずはこれを試してほしいですの」


 マークⅢは剣を俺に手渡した。


 高品質のガダン商会の鋼の剣か。


 「リインフォース」


 俺は言われるままにリインフォースの魔法を唱え、剣を強化した。


 「どうだ?」


 「硬度が二倍になりましたの。この魔法はマスターの魔法力が上がれば強化率も上昇するようですわ」


 威力が二倍になったってことだよな……マジかよ。


 「ですから、もう一度検証する必要がありますの」


 「はぁ? いくらなんでももうないだろ?」


 「マークⅡがマジカルライズの魔法を使用した状態で、マスターにマジカルライズの魔法を使用する検証ですの」


 こいつ、すげぇな……この段階でそれに気づくか普通? おそらく、この魔法を使い続けていればいつかは気づいたことだと思うが、俺はミスリルを強化できたら満足して、この魔法を使い続けることはなかったはずだ。要するに、マークⅢがいなければこのことに気づくことはなかっただろう。


 「分かった。マークⅡの帰りを待つか」


 俺は薪がはぜる音を聞きながら焚火をぼーっと眺めていると、ふいに思い出す。


 「マークⅢ、エゼロスに困っている奴らをまとめて助けてくれないかと頼まれたんだ。まぁ、サードパーティというか、エゼロスが言うにはロスト軍として、困っている奴らを募集することになったんだがどう思う?」


 「ロスト軍……いい響きですわ!! 拠点はどうするおつもりですの!?」


 マークⅢが乗り気で助かるぜ。


 「エゼロスが【無銘の刀】の近くで探してくれる手筈になっている」


 「では、どう線引きされるおつもりですの?」


 そこなんだよな……【無銘の刀】はシズナたちがいるから金の支援だけでいけると思う。


 「考えたんだが軍のほうは日を追うごとに人数が増えていくだろうから、これまでのように二足のわらじでは効率が悪すぎる。だから俺が軍、お前には隊のサポートを頼みたい」


 「えぇええぇ!? 私はマスターの懐刀ですわ!!」


 素っ頓狂な声を上げたマークⅢが隠すことなく不満を露わにする。


 ……そんなに嫌なのか? だがマークⅡは話せないし、マークⅠは論外だからな。


 「お前しか任せられる奴がいないんだ。無論、軍が軌道に乗るまでの話だからずっとではない」


 「……私しか任せられないとマスターが言うのでしたら仕方ありませんの」


 マークⅢはしぶしぶと言った感じで了承してくれた。


 「頼む。基本的に隊の指揮はネヤとマロンに任せて、お前には俺がやっていたように全体指揮を頼む。こっちは下位種相手の狩りになるからマークⅡもそっちに行かせるつもりだ」


 「分かりましたの」


 「……ていうか、マークⅡを待つこの検証は効率が悪すぎるから俺は寝ることにする。マークⅡたちには悪いが朝までギルたちを鍛えてもらうが、お前はそれをマークⅡに伝えたらお前も休め」


 「分かりましたの」


 俺がテントの中に入ると、ワンちゃんと猫ちゃんがすやすやと寝息を立てていた。俺もその隣で横になると一瞬で眠りに落ちたのだった。

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