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第89話 無銘の刀⑥


 あとは困窮している盗賊たちをなんとかしたいんだよな。【無銘の刀】で情報係として雇うというぐらいしか思いつかないが、エクスたちが【無銘の刀】に入ったことで、その枠は埋まってしまった。


 そもそも2人程度で埋まる枠だから案としても出来が悪すぎる。困っている盗賊たちの人数は10や20ではきかないはずだ。


 「なぁ、ロスト、あんたサードパーティをもつ気はないか?」


 「……いきなりどうしたんだ?」


 「まぁ、聞いてくれよ。この村の南では今もまだ小屋が出現している状況だ。その三人パーティで理想的な組み合わせはなんだと思う? 外れ限定でだ」


 「【剣士】【魔法使い】【僧侶】だ。前衛は【武闘家】【戦士】でも構わないが」


 「だよなぁ。俺もそう思う」


 「あの、外れ限定ってどういう意味ですか?」


 ポムが興味深げにエゼロスに尋ねる。


 「ガチャでの例えだ。こっちに来た時点で最上級職だったら大当たりで、上級職なら当たり、下級職なら外れってことだ」


 「な、なるほど」


 ポムは合点がいったような顔をした。


 「まぁ、ロストの言葉なんだけどな。俺が「最上級職や上級職の奴らは俺たちに何もしてくれない」って愚痴ると、ロストに「大当たりや当たりを引いた連中が俺たちのことを気にもしないのは当たり前だ。日本を奪還する責任を背負っているんだからな」と返されたんだ。正直、俺にはそんな発想はなかったから衝撃を受けたよ。さらにロストが「だが、外れを引いた者たちが残っているという問題が生じている」と言葉を続けたことで、俺たち三人で【無銘の刀】を立ち上げることになったんだ」


 「ロストさんも立ち上げメンバーだったことが驚きです」


 ポムとエクスは感心したような表情を浮かべている。


 「えっ!? そこっすか? リーダーも外れを引いてたのに、今は当たり以上になってるとこのほうがすごいでしょ?」


 突然のギルの発言に、ポムとエクスはポカンとしていたが、カミーラは訝しげな眼差しをギルに向けていた。


 「……いや、ちょっと待て。何でロストが外れだったと言えるんだ?」


 エゼロスが探るような眼差しをギルに向ける。


 「だってリーダーが「大当たりや当たりを引いた連中が俺たちのことを気にもしないのは当たり前だ」って言ったんでしょ?」


 その言葉に、エゼロスははっとしたような顔をした。


 「そうか!! 俺たちって言葉か……俺はロストが仲間の下級職たちを上級職に導いたと聞いて、ロストは当たりを引いたと思い込んでいたのか。当たり以上を引かなければ、魔物の通常種を倒して回るのは不可能だからな」


 「ね? ね? だからすごいでしょ? 下級職の前衛なんてここには腐るほどいるのに、誰もリーダーみたいに強くなってないんすから」


 「た、確かにその通りよね……」


 ポムはただならぬ表情を浮かべている。


 「下級職の前衛がいくらレベルを上げてもたかがしれている。だから強くなるには上級職に転職する必要があるが、下級職だけのパーティではエルザフィールの街に辿り着くのは不可能に近い。それゆえに、ロストがシズナたちを上級職に導いたように、ロストも誰かに転職の神殿に連れて行ってもらったはずだ」


 「まぁ、下級職がエルザフィールの街に辿り着くにはそれしかないだろう」


 俺は下級職ですらなかったけどな。


 「気になるのはロストが誰に連れて行ってもら――」


 「……えっ? 違うんじゃないっすか?」


 エゼロスの言葉を途中でギルが遮る。


 「――はぁ? 何がだよ?」


 反射的にギルを見たエゼロスが声を荒げて問いかける。


 「なんか他人事みたいに聞こえたからっすよ」


 「他人事? 確かにそう取れなくもないか……」


 真偽を確かめたいのか、エゼロスが俺に顔を向けると、皆の視線も俺に集中した。


 「まぁ、俺のケースは参考にならないからな」


 「なっ!? ギルの言う通りなのか!? マジかよ!?」


 エゼロスは雷に打たれたように顔色を変える。

 

 「……参考にならないか……あんたがそう言うんならそうなんだろうな」


 「でも、気になるっすよ」


 再び俺に皆の注目が集まる。


 「俺のケースが参考にならないと言ったのは、そもそも前提が違うからだ。ギルとエゼロスは俺が言った俺たちという言葉から、俺が下級職だと思い込んだだけの話なんだ」


 「……いや、しかし、それ以外にないだろう?」


 「ガチャの例えは俺が言い出したことだ。だから、おそらく皆はガチャの階級が大当たり、当たり、外れの三階級しかないと思い込んでいるんだろうが、実は四階級目が存在するんだ」


 「てことは、あんたの強さから推測するに、最上級職の上があるってことか?」


 「違うっすよ。逆っすよ。上だったらリーダーが言った俺たちって言葉に含まれないっすよ」


 「ぐっ……ギルの言う通りだな。だが、そうなるとあんたは下級職より弱かったってことになる」


 「その通りだ。俺はその階級を不遇職と呼んでいる。要するに俺は大外れを引いたということだ」


 場がシーンと静まり返り、皆一様に沈痛な表情を浮かべている。


 「……不遇職が下級職より弱いなら、どうやってエルザフィールの街に辿り着けたのかという疑問が残る。それにあんたの言う不遇職の定義はなんなんだ?」


 「まず水晶玉のどの階級の職業一覧にも俺の職業は載っていなかった。さらに俺の攻撃力、守備力、素早さの値はいずれも10だった」


 「10だと!? それでは話にならん」


 「だろうな。俺もそう思ったからな。実際、俺の前に来ていた日本人はレッサー・コボルトごときに殺されたらしいからな。おそらく、そいつも不遇職だった可能性が高い。素手でレッサー・コボルトと戦っていたらしいからな」


 「えっ? 装備もないんすか?」


 「おそらくな。俺の場合はTシャツにグレーのズボンにスニーカー、あとは腕時計という近所のコンビニにでも行くような格好だったからな。それに俺はもう一人不遇職の奴を知っているが、そいつもギャルっぽい服を着ていて、攻撃力、守備力、素早さの値はいずれも俺より低い1だった」


 「む、無茶苦茶じゃないっすか!?」


 「だから俺は不遇職と名付けたんだ。だが、不遇職は困難すぎる序盤を切り抜けるとレベルが上がるたびに爆発的に強くなる。それがどうやってエルザフィールの街に辿り着けたのかという疑問の答えだ。参考にならないだろ?」


 「確かに参考にならないな。だが、あんたがなぜ自分のパーティを放置してまで、西に出現する小屋を気にかけている理由が俺には謎だったが、やっと分かったよ。あんたと同じ不遇職を助けたかったんだな」


 「まぁな。だが探し続けているが、俺を含めて二人しか発見できていない」


 「もう一人の不遇職の人は生きてるんっすよね?」


 「ああ。とんでもない火力の後衛になっている。それで俺たちは何の話をしていたんだ?」


 「ご、ごめんなさい。私が質問したせいで話が逸れてしまったみたい……」


 ポムが申し訳なさそうに頭を下げた。


 「下級職のパーティの組み合わせの話をしてたんだ。で、【剣士】【魔法使い】【僧侶】の理想的なパーティは上手くいくと思うか?」


 「難しいだろうな……」


 このパーティに近いデインたちですら、金策に困っていたぐらいだからな。


 「さすがだなロスト。つまり、下級職は上級職以上の助けがなければ上級職以上になれないってことなんだ。だから、ロスト、盗賊たちだけでなく、他の職業の奴らもまとめて助けてやってほしいんだ。あんたは俺に「戦闘に自信のない者も無理に戦うべきではない」って言ったんだからな」


 「ああ、確かに俺はそう言った」


 「だったら、あんたのサードパーティ、いや、ロスト軍として募集しておくぜ。それと拠点はここでは手狭だからここから近いところに拠点を探しておくがどうする?」


 「任せる」


 「マ、マジっすか!? リーダーカッケー!!」


 ギルが感嘆の声を上げる。


 「こ、これって本当の話なのよね……?」


 カミーラの言葉に、エクスとポムもただならぬ表情を浮かべている。


 見捨てられていると言っても過言でもない彼らからすれば、動揺するのも無理はないことだ。

 

 しかし、引けなくなって引き受けたものの、また金がかかるがやるしかない。


 「じゃあ、行くとするか。カミーラ、お前はこれで脚の傷を回復しろ」


 俺は腰の小物入れからポーションを取り出し、カミーラに手渡した。


 「あ、ありがとう」


 嬉しそうに微笑んだカミーラが、脚の傷にポーションを少しずつ流し込んで治療している。


 「では、行くぞ」


 「ういっす。けど、どこに行くんっすか?」


 「ここから西だ。俺の仲間の猫の女獣人がそこでレベルを上げているからな」


 「えっ!? 女獣人が仲間にいるんだ!?」


 よほど嬉しいのかカミーラの声色が上がる。


 俺はギルとカミーラを伴って拠点を後にしたのだった。

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