第88話 無銘の刀➄ ☆ギル カミーラ
「話がまとまったようでなによりだ。で、シズナたち以外にも仲間は増えているのか?」
「ああ、【戦士】が二人増えて、今はシズナたちに鍛えてもらっているところだ。まぁ、うちに入りたい前衛職は他にもいるんだが、今は控えている」
「何で控えている? どんどん入れたらいいじゃねぇか?」
「今シズナたちはあらたに加わった【戦士】二人を鍛えながら、金を稼ぎたい奴らと一緒に狩りに出ている状況だ。つまり、指揮する人数が10名を超えるときもある。だから、これ以上うちの前衛職を増やしたら、金を稼ぎたい奴らを狩りに連れて行けなくなるんだよ。無論、【魔法使い】や【僧侶】などの後衛職は入れるつもりだがな」
ぐっ、全くその通りで反論の余地はない。何で俺はこうも考えなしなんだ。
「まぁ、【戦士】二人がある程度育ったらシズナとソローミを分隊させて、またうちに入りたい奴を募集するつもりだ」
「そうか。それで転職したい奴らはいるのか?」
「6人ほどのパーティ二部隊が希望しているな。他にも転職したい連中は結構いるが金が問題だ。そもそも、うちを頼ってきている連中が500万もの転職費用を持っているはずはないからな」
「その二隊にはすぐ連絡がつくのか?」
「彼らはいつでも声をかけてくれと言っていたから問題ないと思う」
「だったら明日の昼にここで待ち合わせだと伝えておいてくれ」
「夜には防壁沿いの野営地にいるはずだから伝えておくよ」
ハゴンが硬い表情で答える。
「あとはエクスとポム、あんたらも連れて行く」
「「えっ!?」」
エクスとポムが二人揃って驚きの声を上げる。
「くくっ、ロストはこういう人間なんだ。まぁ、慣れるしかない」
エゼロスの言葉に、エクスとポムは戸惑いを隠せない様子だ。
「問題は金がない連中だが、金を貸すという案はどうだ?」
「それは良い案だと思うが、金を踏み倒される可能性がある」
「だからエゼロス、あんたがこいつならと思う奴だけにすればいいだろ。まぁ、ぶっちゃけ、強い日本人が一人でも増えるなら金なんか踏み倒されても一向に構わないがな」
「くくくっ、あんたならそう言うと思ってたぜ。分かった。引き受けさせてもらう」
エゼロスは満足げに笑った。
「それで聞いておきたいことがある。【無銘の刀】が日本に帰還する時期についてだ。具体的には俺たちが日本に戻る時、【無銘の刀】は一緒についてくるのか、あるいは残るのかを聞いておきたいんだ。答えは今じゃなくてもいいが考えておいてくれ」
「それは分かったが、まだまだ先の話なんじゃないのか?」
「まぁ、そうかもしれないが、状況はいつ変わるか分からないからな」
「分かった。皆で話し合っておくよ」
「頼む。で、うちは盗賊職を探しているんだが誰かいないか?」
「えっ? あんたの隊には盗賊職がいないのか?」
「ああ」
「そういえば、あんたの仲間は何人ぐらいいるんだ?」
「俺の隊が13人で、セカンドパーティが10人だな」
「そんなにいるのか!? 現状でセカンドパーティが存在するのは、ルガー隊以外に聞いたことがない」
「セカンドパーティはたぶん、あんたも知っているパーティだと思う。ヒントは女性だけの隊だ」
「もしかして、マロン隊か?」
「その通りだ」
「マジか!? マロンとマミはうちの理念に共感してくれていたから、うちに入ってくれと誘ってたんだよ。だが、そうか……あんたのセカンドパーティなら頷ける。しかし、それほど人数が揃っているなら上級職の【怪盗】がいいんじゃないのか?」
「いや、あんたの推薦なら【盗賊】でも構わない」
「だったらギルだろうな。彼はいい奴だからな」
「おっ、噂をしてたらギルが来たが、また怪我人を連れてきたようだ」
ハゴンの言葉に、俺が出入り口に視線を向けると、細身の男が女に肩を貸して食堂に入って来た。
「ギル!! こっちだ」
エゼロスが大声でギルを呼び寄せると、ギルたちが俺たちに向かって歩いてくる。
「カミーラじゃない!? どうしたのよ?」
「何だ知り合いなのか?」
慌てた様子のポムにエゼロスが尋ねた。
「元々、私たちはエクスも含めて別のパーティなんですよ。だけど、一人ぼっちになって、どこのパーティも【盗賊】は入れてくれないから、三人で組んでいたんです。でも【無銘の刀】に入るかどうかで揉めて、私たちはパーティを解散したんです」
「なるほどな。で、何でギルがカミーラと一緒なんだ?」
ていうか、エゼロスはあっさりしすぎだろ……まぁ、エゼロスの立場からしたらよくある話なのかもしれないが。
「採取素材を探していたら弱ってるレッサー・ラットを見つけたのよ。なんとか倒すことはできたけど、爪で脚を攻撃されて動けなくなってたところを、この人に助けてもらったのよ」
へぇ、確かにいい奴そうだな。
ギルは茶髪のロンゲで優男って感じだ。装備は革の鎧に革のブーツ、それに短剣だ。
カミーラは目力が強く妖艶な雰囲気を醸し出している美女だ。髪はショートの銀髪で、服は大きな胸を強調するベアトップにタイトスカート、ブーツといった感じだ。
「それで脚の怪我は大丈夫なの?」
「毒はくらってないから二、三日安静にしてれば大丈夫よ」
「もう、いつも無茶するんだから……」
ポムは安堵したのか胸をなで下ろした。
話に区切りがついたところで、エゼロスが話を切り出した。
「ギル。お前はパーティに入るつもりはないか?」
「えっ? マジっすか? 俺【盗賊】っすよ?」
「それは伝えてあるからあとはお前次第なんだ」
「マジっすか? じゃあ、入るっす!! どんなパーティなんすか?」
「どんなパーティなのか教えてやれよロスト。あんたのパーティなんだからな」
「えっ!? この人がリーダーなんすか!? 無茶苦茶強そうじゃないっすか!?」
ギルは驚き戸惑っている。
「うちは大雑把に言うと、前衛七人、後衛六人といった感じだな」
「13人もいるんすね」
「男は二人しかいないから、ギル、あんたを歓迎するぜ」
「よろしくお願いしまっす!!」
ギルは深々と頭を下げた。
「いいなぁ……私も入れてほしい」
「俺はあんたのことを何も知らないから即断できないな」
「その人のことも知らないんじゃないの?」
「ギルはエゼロスの推薦だからな。どんな奴が来たとしても受け入れる」
「じゃあ、私をテストしてよ」
「分かった。二人はいつから動けるんだ?」
「いつでもいいっすよ」
「わ、私もいつでもいいわよ」
カミーラは脚の傷を気にしながら言った。
「なら出撃準備を整えておけ」
頷いた二人は隣のテーブルに腰掛けて、荷物のチェックに取りかかった。