第86話 魔物の村➄
「話が一段落ついたようなので、私が質問してもよろしいですか?」
「いいデシよ」
「私たちの次の体のベースにHQのミスリルの粒を使いたいのですが、HQのミスリルの粒を売ってくれませんですの?」
なっ!? こいつらそんなことを考えてやがったのか……確かにミスリルアーマーを着るよりも、体をミスリルにした方が手っ取り早く強くなれる。
「ミスリルならたくさんあるデシけど、HQのミスリルの在庫はどのくらいあるデシか?」
プニが隣で話を聞いていたフローに尋ねる。
「マークⅢ殿のご希望はHQのミスリルの粒ですので、大量にあるHQのミスリルの端材を粒にすればいいだけです。ですので、マークⅢ殿とマークⅡ殿の体分の量なら無料でいいですよ」
「感謝しますの」
うぅ、こいつ全く遠慮がないな……ちょっと恥ずかしいぜ。
「どうせならマークⅠ殿の体も作り変えてみてはいかがでしょうか? 今の体は鉄素材なのでHQのミスリルの体に変えれば防御力や魔法耐性が上昇すると思うのですが」
「いや、さすがにそこまで甘えるわけにはいかないんで遠慮するよ」
「マークⅠ殿の体の大きさは30センチメートルほどなので、先ほども申し上げたように端材から作れますのでお気になさらずに。というか、むしろ作らせて頂きたいですね。そもそも『生命付与』は稀有な特殊能力ですから是非見てみたいんですよ」
生粋の研究者ってやつなのか……
「そこまで言うのなら甘えさせてもらうが、結局はマークⅠ次第だ。マークⅠ、お前は新しい体が欲しいか?」
〈ほしいけど、このからだみたいじゃなきゃヤダ〉
「マークⅠは今の体のデザインじゃないと嫌らしいが可能なのか?」
「何の問題もありませんね」
「だったらよろしく頼む」
「分かりました。しばらくお待ちください」
フローが部屋の奥へと消えていくのと入れ替わりに、多数のモフモフの蜂の魔物が飛んでくる。
体色はパステルブルーと黒、パステルグリーンと黒の二種類がいて、綺麗な蜂だが前脚に白銀のガントレットをつけている。モフモフたちはマークⅠに群がり、ガントレットを器用に動かしてマークⅠの体を調べている。
〈えっ? なんなの? なんなの?〉
マークⅠはされるがままになっている。
そんなことが、俺の肩の上で行われているので騒がしかったが、すぐにモフモフたちは部屋の奥へと飛んでいった。
しばらく待っていると、部屋の奥からフローが戻ってきて、俺の前に大きな袋を置いた。
「HQのミスリルの粒です」
「ありがたく使わせてもらうぜ。まずはマークⅡからだ」
〈分かりました〉
「マークⅢ、型とボウルを出してくれ」
「分かりましたの」
マークⅢは歪んだ空間から俺が作った人型の型を地面に置き、俺にボウルを手渡した。
マークⅡが装備を外して地面に寝転がり、ミスリル魔導合金を腹の上に露出させると、マークⅢが大きな袋を抱えてHQのミスリルの粒を型に流し込み、手でならした。
俺は『プリンシェイク』を発動し、掌から液体を放出してボウル満杯まで注ぎ入れる。
『プリンシェイク』はコップ一杯程度の量でSPが1000ほど回復する特殊能力だ。この特殊能力のおかげでファテーグポーションを買う頻度が減ったからありがたいぜ。
「マークⅠ、俺がプリンシェイクを飲み始めたらSPを回復してくれ」
〈うん〉
俺が『生命付与者意識移動』でマークⅡから意識を抜き出すと、人型を保っていた砂鉄が地面に広がり、マークⅢがミスリル魔導合金を手に取って、型に馴染ませたHQミスリルの粒の上に置く。
俺はミスリル魔導合金が最重要パーツだと断定し、ミスリル魔導合金とHQミスリルの粒が一体化した人型の姿を思い浮かべながら、マークⅡの意識をゆっくりとミスリル魔導合金の中へと押し込んでいく。
「ぐっ……」
少し意識を押し込んだだけで一瞬でSPを大幅にもっていかれたぜ。【カスタードプリン使い】に目覚めたから、もしかするとSPの回復なしでもいけるんじゃないかと思ったが甘かった。
俺はマークⅡの意識をミスリル魔導合金に押し込むのを止めて、プリンシェイクを飲むと俺の体が金色に何度も輝く。
マークⅠか、助かるぜ……正直、ボウルいっぱい程度の量じゃSPがもたないからな。
俺はSPが全快するとマークⅡの意識をミスリル魔導合金に押し込むことを何度も繰り返し、ようやく、マークⅡの意識がミスリル魔導合金の中に収まった。
「どんな感じだ?」
〈これまでと同じ感覚です〉
「どうやら成功したようだな」
俺は安堵の溜息をつく。
「……すごいですね。プニ殿の協力なしで意識の移動に成功するとは思いもしませんでしたよ」
フローが感嘆の声を漏らす。
「まぁ、【カスタードプリン使い】に目覚めていなかったら無理だったと思うぜ」
俺は『生命付与者解析』でマークⅡを視てみる。
名前: マークⅡ ミスリル魔導合金とHQミスリルの粒
全長: 約1.6メートル
職業: 【無し】レベル: 45
HP: 3300
MP: 17600
SP: 6600
攻撃力: 900+戦斧
守備力: 950+ガダン商会の黒い鋼の全身鎧+ガダン商会の黒い鋼の大盾
素早さ: 700
魔法: アイアンランス, アイアンバレット, マジカルライズ, パワーブースト
特殊能力: スタミナ回復, 鉄壁, 強力, 鋼壁, 鉄閃, 大鉄球
はぁ? マジかよ……ステータスの値というか攻撃力とかが下がってねぇ……確か体を砂鉄にしたときは攻撃力とかは200ぐらいだったはずだ。さすがHQミスリルといったところか。いや、レベルも関係しているのか? 俺たちのレベルは職業のレベルだが、こいつらのレベルは生命体自体のレベルっぽいから体の素材を変えても変化しないからな。ていうか、こいつのステータスをしばらく見ていなかったが、レベルが45になってるじゃねぇか……やばすぎるだろ。
そこに、部屋の奥から一匹のモフモフが飛んできて、俺の前に人形を置いて飛び去って行った。
「も、もうできたのか……」
こいつらの技術力は半端ねぇな。
俺は驚きを隠せずにはいられなかった。
「黒く見えるがこれってミスリルなのか?」
「もちろんです。HQブラックミスリルを使用しています。他にも白や青、赤や黄などの色がありますが、単に希少というだけで素材自体の能力に差異はありません」
ダークの背中から跳び下りたマークⅠは人形を見つめている。
〈すごい!! ヨロイとタテもついてる!!〉
黒銀に輝く人形は、見た感じ今のマークⅠの三等身の体とほとんど違いはなく、スケルトンナイトみたいに鎧を着ているのでカッコよく見えるな。
「よし。次はマークⅠ、お前だ。人形から鎧は外しておけよ」
〈うん!!〉
俺は『生命付与者意識移動』で鉄でできた古い体からマークⅠの意識を抜き出し、難なく黒銀のスケルトン人形にマークⅠの意識を移した。
ほとんどSPの消費を感じなかった。やはり、ミスリル魔導合金が異常過ぎる魔導具なんだろうな。
マークⅠが鎧と盾を装備してダークに騎乗すると、俺は『生命付与者解析』でマークⅠを視る。
名前: マークⅠ HQブラックミスリルのスケルトン人形
全長: 約30cm
職業: 【無し】レベル: 20
HP: 1600
MP: 3000
SP: 2000
攻撃力: 300+ミスリルナイフ
守備力: 400+HQブラックミスリルアーマー+HQブラックミスリルシールド+レッサー・ラット皮のベルト風の服
素早さ: 300+HQブラックミスリルブーツ
魔法: アース, ウォーター, ファテーグ
特殊能力: 浄化, 治癒, 気配探知, 鉄弾, 流体金属化
こいつ、滅茶苦茶強くなってるじゃねぇか。やっぱり、HQミスリルってのはとんでもないな……それに『流体金属化』が増えてるし……説明を読んでみると、流体金属に変化できるとしか書かれていない。なんとなくだが、流体金属化したらこいつに物理は効かないんじゃないのか? あとでマークⅢに聞いておく必要があるな。
「あとはお前だな、マークⅢ」
「はい。よろしくお願いしますの」
マークⅢは、水晶玉とHQミスリルの粒の二つの素材を使うので、マークⅠの時よりも多くのSPを消費したが、SPを回復する必要がない程度だったので楽勝だった。
俺は『生命付与者解析』でマークⅢを視る。
名前: マークⅢ 水晶玉とHQミスリルの粒
全長: 約1.6メートル
職業: 【無し】レベル: 40
HP: 2000
MP: 2600
SP: 2700
攻撃力: 750+ガダン商会の白い鋼の大剣
守備力: 800+ガダン商会の白い鋼の全身鎧
素早さ: 720
魔法: ファイヤ, アプレーザル, ディスタントビジョン, アナリシス, アース
特殊能力: 火弾, 火柱, アイテム収納, 看破, 石壁, 泥沼, 石閃, 砂竜巻, 隕石
やはり、こいつも強いな。てか、『隕石』ってやばいだろ……『火柱』もそうだがこいつは大火力の特殊能力に目覚めやすいのかもな。
「マスター、体の造形をなんとかしてほしいですの」
マークⅢは自身の体を手鏡に映して不満げだ。
まぁ、型は人型になるように俺が木を適当に掘っただけの代物だからなぁ。
「仮に精巧な型を作ったとしても、鎧を着るんだからあんまり意味はないんじゃないのか?」
「私はもっと人のようになりたいですの」
……そういうものなのか?
「マークⅠ、マークⅡ、お前たちはどうなんだ?」
〈ボクはこのままでいい〉
〈私は選択肢の中にあれば、選んでもいいという感じです〉
なるほどな。マークⅢだけが人の姿に執着があるわけか。
「だが人のような姿になりたいと言っても、人に似せた人形を作ってもらうしかないぞ?」
「……いえ、人の死体を使えばなれますの」
はぁ? それは人道に反するだろ。それにその点を無視したとしても問題はあるからな。
「死体は腐って腐臭を放つ。俺がお前たちの体の素材に魔物の死体を使わなかった理由がそれだからな」
「アンチディティリオレーションの魔法を使えば問題ないですわ。この魔法はポーションを劣化させないために使う魔法ですから」
「なっ!?」
こいつ、いつから人のようになりたいと思っていたんだ。
「死体の候補はマリンウィッチがいいですの。本心を言えば人族がいいですが……」
マリンウィッチか……絶妙なところを突いてきやがる。だが、黒なら魔物と分類されているから問題ないが、白なら人扱いになっているから微妙なところだ。
俺が逡巡していると、プニが口を開いた。
「これを使えば人族の姿になれるデシよ」
プニが口の中から腕輪を取り出して俺たちに見せる。
「――っ!?」
そんな魔導具も存在するのか!? こいつら本当に何でもありだな……
俺は動揺を抑えきれなかった。
魔導具をじーっと見つめていたマークⅢが、慌てた様子で魔導具を手に取って腕にはめる。
「貸すだけデシよ」
「問題ありませんわ。感謝しますの」
マークⅢはしばらく動く気配がなかったが、唐突に白銀の体が肌色――というか、人の姿に変わる。
マ、マジかよ……変身できる魔導具もあるんだな。
マークⅢは手鏡で顔を映しながら、顔や髪色や髪の長さを変化させて調整しているようだ。
しばらくすると、素っ裸のマークⅢが空間の裂け目から下着や服を取り出し、体に身に着けてから俺のほうに振り返った。
「マスター、人族になれましたの」
花が咲いたような笑みを浮かべたマークⅢは、腕輪をプニに返した。
表情まで変わるのか……こうなると、もう見た目では判断できないな。
「その魔導具はいったいどんな効果があるんだ?」
「見たことある全ての生き物や物に変化できる『変態』が付加されてる腕輪デシ」
「じゃあ、例えばマークⅢの腕を斬り落とせば血は出るのか?」
「出るデシ。でもマークⅢの場合、血が出ても出血多量で死ぬことはないデシ。元の体がミスリルの粒だからデシ。ただ術者が見たことあるものにしか姿を変えられないデシ」
「もっと分かりやすく言えば、マスターが地面に落ちている石に姿を変えたとして、剣で体を両断されても血は出ませんの。石ですから。もちろん、体の強度はマスターのままなので、マスターの守備力を超える攻撃力がなければマスターを傷つけることはできませんわ」
要するに、『変態』で何かに姿を変えれば、体の構造は姿を変えたそのものになり、見たことがあるものにしか姿を変えられないということか。
「なるほどな……」
最初にマークⅢが姿を変えた時の後姿がマミにそっくりだったからな。だが顔が一緒だったら問題があるから、顔や髪をいろいろ変えていたということか。
今のマークⅢの体はマミに近い爆乳で、髪色は銀髪で髪型はロングの縦ロールだ。ていうか、縦ロールの奴なんかいたか? 俺は記憶を辿っていると、はっとなる。あいつだ、女魔法戦士だと。顔はマミではなく、仲間の女たちとは似ておらず、なんとなく女魔法戦士の面影があるが、どこかで見たような気もするな。
俺が逡巡していると『痩せ分身』を使った時のミコだと気づく。つまり、マークⅢの顔は女魔法戦士と痩せた時のミコが混ざった感じで凛としている顔立ちだ。
「何から何まですまないな」
「『養分吸収』はプニも持ってなかったデシ。それが二つも手に入ったからこっちがお礼を言いたいデシよ。また珍しい魔法や特殊能力を持ってる魔物を倒したら死体を持ってきてほしいデシ」
ということは、『人型特効』は持っていたということか。ていうか、どんだけ魔法や特殊能力を持っているんだこいつは?
「くくっ、そう言ってくれて助かるぜ。また何かあれば寄らせてもらうぜ」
こうして、俺たちは魔物の村を後にしたのだった。
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