第85話 魔物の村④
俺たちは小屋がまだ出現しているのか確認するために、戦士の村の南門から外に出て南下した。
しばらく進んでいくと、三人組の冒険者とすれ違う。
おそらく、装備からして転移したての日本人だろうな。
「私はあの三人に話を聞いてきますの」
「ああ」
話を聞くのは小屋を発見してからでもいいと思ったが、マークⅢはアナリシスの魔法を持っているから、彼らが日本人だと分かったんだろうな。
マークⅢは三人組の後を追い、俺たちが先へと進んでいくと三軒並んだ小屋が見えてくる。
「……小屋はまだ出現しているんだな」
俺たちは小屋の前まで移動する。
ざっと見た感じ小屋に人がいる気配はなく、俺は辺りを見回すと三軒並びの小屋が散見された。
小屋の出現はあとどのくらい続くんだろうか……早ければ次にルガー隊と出くわした時点で、日本に帰還することが決まるかもしれない。そうなると問題は【無銘の刀】だな……俺たちと一緒に日本に帰還するのか、残るつもりなのか確認しておく必要がある。
「マスター、あの日本人たちはこちらに来ることを決断して、すぐに転移させられたようですの」
いつの間にか戻って来ていたマークⅢの声で俺は我に返る。
「……ならやっぱりキャニルの説が合っている可能性が高いな」
だとすると、日本に二番手、三番手で帰還する意味はない。
「やはり、ルガー隊の【風使い】ヒュリルが鍵になりますの」
全くその通りだ。だが、彼女の答えがNOだった場合のことも、今から想定しておいたほうが良さそうだな。
俺たちは戦士の村に戻り、南門から東に進んだ場所にある日本人たちの野営地に足を運ぶ。
前に訪れたときは防壁沿いにテントが長蛇の列をなしていたが、現在は半数ほどまで減っている。だが、小屋は出現し続けている……となると、停滞していた連中がエルザフィールの街に旅立ったと考えるのが妥当か。
俺はテントの最後尾まで歩いて日本人たちの状況を確認したが、困窮していそうな者たちはおらず、一人でいる者も見当たらなかった。
良い傾向だが、目的の盗賊職探しは困難な状況で、【無銘の刀】で盗賊職を募集してもらうしかなさそうだ。
日本人たちの野営地を後にした俺たちは魔物の村に向かうが、猫ちゃんの素早さが30しかなく、移動速度のネックになっているので、俺はワンちゃんに猫ちゃんを背負うように指示を出す。
これにより、移動速度が劇的に上昇した俺たちは数時間で魔物の村に到着し、プニたちが暮らす洞窟の中に入った。
「『貧弱』を持ってる個体は珍しいのに、また連れてきたデシか!? 」
プニは心底驚いているようだ。
「いや、ワンちゃんと猫ちゃんは元々一緒にいたんだ。で、あんたは死体からでも魔法や特殊能力を奪うことはできるのか?」
「できるデシよ」
プニは即答する。
そうなんじゃないかと思っていたが、やっぱりできるのか……ていうか、マジでこいつは化物だな。
「マークⅢ、あれを出してくれ」
「分かりましたの」
マークⅢが開けた空間から、ヒューマンキラーとハイ・ヒューマンキラーの死体をプニの前に置く。
「猫ちゃんの『貧弱』を奪ってもらう代わりに取っておいたんだ。こいつらが持っている『人型特効』は珍しいと思うんだがどうだろう?」
「確かに『人型特効』は激レアデシが、『養分吸収』のほうが珍しいデシ」
プニが体から触手を伸ばして死体に触れると、死体は一瞬で消失した。
死体が消えただと? いったい、どんな特殊能力なんだ?
「それで、その獣人はどんな戦い方をするデシか?」
「いや、猫ちゃんには解体作業を任せているんだ。弱すぎるからな。だから普段の戦いでは、解体作業をやりながらレシアという後衛を守っているといったところだな」
だが、それを聞いたとして何の意味があるんだ?
「そうデシか」
プニは触手を長く伸ばして猫ちゃんに触れた。
「『貧弱』が消えて『鉄壁』が増えましたの」
「後衛を守りやすいように『鉄壁』をつけたデシ」
マジかよ!? 『鉄壁』は守備力が二倍になる激レア特殊能力のはずだ……こいつ、やっぱりいい奴だよな。なのに何の意味があるんだなんて思った自分が恥ずかしいぜ。
「でもその獣人はレベル1だからこれ以上、魔法や特殊能力を譲渡すると爆発する可能性があるからやめたデシ」
爆発するのかよ……だが強力すぎる特殊能力だけに制限があるのも頷ける。
「いや、『貧弱』を奪ってくれるだけでもありがたいのに、『鉄壁』までつけてくれて感謝しかない」
「でも不思議デシ。弱いと思ってた犬の獣人が強くなってるデシ」
「ああ、俺も驚いている」
「もしかしたら猫の獣人も強くなるかもデシ」
「そうなったらいいと思うが期待はしていない。で、確認したいことがあるんだが、俺たちが日本に戻ったとして、ステータスの値が1000を超えていたとすると、俺たちも1000まで下がるんだよな?」
「そうデシよ。この世界から別の世界に行くには専用通路を創るしかないデシ。でも今の専用通路はステータスの値が1000以下ぐらいの個体しか通れないから、ステータスの値を1000ぐらいまで落として通るしかないデシよ」
なるほどな……だが今の専用通路って言葉から察するに、時間が経てば1000以上の魔物も通れるようになるかもしれないってことか。
「助かったぜ。やはり、俺一人では魔物のボスを倒すのは難しそうなのが分かったからな」
「……前にも言ったデシけど、ロストぐらいの力があればプルがいるから、帰還したほうがいいと思うデシよ。帰還して初めにやることはプルと合流することデシ」
「だがそのプルも、ステータスの値が1000まで下がっているから俺と変わらないんじゃないのか?」
「仮にロストが帰還して、プルと戦ったら間違いなくロストが負けるデシよ」
「はぁ? なんでだよ?」
「持ってる魔法と特殊能力の数、そして何よりも質が違いすぎるからデシ」
「……」
その言葉に、俺は返す言葉がなかった。
そりゃそうか……俺は【カスタードプリン使い】に目覚めて強くなった気がしていたが、言われてみるとその通りだよな。
「忠告してくれて助かるぜ。逆に言えばそんな強い奴が味方なんだから、帰還すればあんたの言う通りにプルを真っ先に捜すことにするぜ」
「デシデシ」
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