第84話 見栄
転職の神殿を後にした俺たちは武具屋に足を運ぶ。
資金がネヤたちとは別なので、店に入ってすぐに別れた俺たちは、ミスリル製品が置かれている区画に移動した。
「今はミスリルを買う気はないですの」
マークⅢの言葉に、マークⅡも頷いている。
はぁ? なんでだよ? あんなに欲しがっていただろ?
俺は呆気に取られたが、こいつらなりに何か考えがあるんだろうと何も聞かなかった。
「マークⅠ、お前は武器が欲しいか?」
〈うん!! もっといいのがほしい〉
マークⅠは魔法タイプな上に、体も30センチしかないので武器などいらないと思っていた。だが、人形の体になったからか武器が欲しいと駄々をこねたので、現在は10センチほどの小型のナイフを持たせている。この小型ナイフはレッサー・ゴブリンやレッサー・ノームが極稀に持っている投擲用のナイフだ。
しかし、欲しがったくせに、この小型ナイフで戦ったことが一度もないのが俺の疑問だが、マークⅠは俺たちに欠かせない存在なので、ここは良い武器を持たせてみるか。
「じゃあ、これを買ってやる」
俺は30センチほどの短剣をマークⅠに手渡した。この長さでもマークⅠからしたら大剣になる。
〈これはいいやつそうだね〉
「ああ、ミスリルダガーだからな。金貨150枚の価値がある」
〈えぇ!? そんなにいいやつなんだ。やったね!!〉
マークⅠは嬉しそうにミスリルダガーを振り回している。
次はワンちゃんの装備だが武器は肉球だから持てないし、鉄を嫌がるからミスリルの武具もダメで悩みどころだ。今のワンちゃんの装備はハイ・ラット革の服とスカートだが、防御力は通常種の魔物の防具とさほど変わらないので、防御力の高い防具を選びたい。
俺は試しにミスリルローブをワンちゃんに手渡したが、やっぱりワンちゃんは嫌そうな顔をしている。
ミスリルローブの生地の部分は、特殊な糸と魔法金属であるミスリルの糸で編まれていて、魔法や特殊能力の被害も軽減できる。さらに、心臓などの急所や体の重要な部分を、ミスリルプレートで保護しているので防御力は高いので、後衛職なら喉から手が出るほど欲しい防具と言えるだろう。
ただし、値段は3000万円と安くはない。
俺は他に何かないかと物色していると、マークⅢが何かの殻で作られた防具一式と毛皮を持ってきた。
「こちらはハイ・クラブの殻で作られた防具で、毛皮のほうはハイ・ベアーの毛皮ですの。どちらも高い防御力がありますわ」
ワンちゃんはハイ・クラブの殻で作られた防具の匂いを嗅いでから首を傾げ、ハイ・ベアーの毛皮に袖を通す。
マークⅢは武具を戻しに行ったのか再び姿を消した。
「わふぅ!!」
どうやらワンちゃんはハイ・ベアーの毛皮が気に入ったようで、満面の笑みを浮かべている。だが、毛皮が黒一色だからか、なんか悪役の着ぐるみみたいに見えるな。
で、最後は俺の装備だが、俺はミスリルファイタースーツを手に取ってみる。
ミスリルファイタースーツは前衛職用の服で、ボトムスは男用がズボンになる。女用はスカートで商品名はミスリルファイタードレスになるようだ。
まぁ、値段が3000万と高額だから鎧を嫌う【大剣豪】や【魔闘士】なんかが購入するんだろうと思うが、俺がミスリルファイタースーツを手に取ったわけは俺の守備力の高さにある。
要するに、ミスリルの防御力よりも俺の守備力の方が上という、わけの分からない逆転現象が起きているからだ。
それならば8000万円もするミスリルアーマーよりも、3000万円のミスリルファイタースーツでいいと思ったんだよな。
「マスターにはこれですの」
再び姿を現したマークⅢが持って来たのは、青白く輝く鎧一式だった。
「ミスリルアーマーか?」
「そうですが、HQ品ですの。値段は鎧とブーツで倍の二億円ですわ」
「はぁ? 高すぎるだろ……」
「マスターは強いのにガダン商会の安物を着ていることで、弱く思われていることが私には気に入らないのですわ」
その発言に対して、マークⅡも強く頷いている。
なっ? マークⅡもそんなことを気にしていたのか……
俺は絶句する以外になかった。
「では、このHQ品とミスリルファイタースーツを購入してきますわ」
「っておい、金は大丈夫なのか?」
「私たちはかなり稼いでいますし、オークたちの財宝も少しずつ売却しているので、このぐらいの金額は余裕ですわ」
そういえばそんな財宝もあったな……とんでもない量だったから、売ればかなりの金額にはなると思っていたが忘れていたぜ。
「分かった。好きにしろ」
買い物を済ませた俺たちが店の外で待っていると、ようやくネヤたちが姿を見せる。
「……装備がほとんど変わっていないように見えるがどうしたんだ?」
「ミスリル製の武具は高いから悩んだのよね……でも強い魔物に遭遇した時のためにミコにミスリルソード、ラゼにミスリルナックルを買ったのよ。まだ資金はあるけど次の転職資金も残しておかないといけないから」
「なるほどな」
ネヤたちやマロンたちの転職費用と、ミスリルソードとミスリルナックルで1億2000万円、後は消耗した装備を買い直したといったところか。
「それでこれからどうするの?」
「飯だな」
「肉がいいわね」
「ならそうするか」
俺たちが飯屋へと歩き出すと、ルルルとレシアが俺の横に並び、ルルルが俺の肩にのっているダークを抱き寄せる。
「マークⅠちゃんの武器が変わってる」
「それはミスリルダガーですわ」
「ワンちゃんは毛皮を買ってもらったんですね。カッコいいです」
レシアは物珍しそうにワンちゃんの毛皮を触っている。
「その毛皮はハイ・ベアーの毛皮で4000万円ですの」
「えっ!? そ、そんなにするんですか!?」
あまりの値段の高さにレシアは慌てて毛皮に触れていた手を放す。
はぁ? ミスリルファイタースーツより高いじゃねぇか。
「物理防御に関してはミスリルよりも上ですから値段相応の性能だと思いますの」
マジかよ……けど、ヒグマの毛って鉄みたいに硬いらしいからな。そんなのが魔物になっているんだからミスリルよりも物理が上ってのも頷ける。
「良い物を買ってもらって良かったですねワンちゃん」
「わふぅ?」
ハイ・ベアーの毛皮の価値を分かっていないワンちゃんは、不思議そうな表情を浮かべるのだった。
***
翌日の朝、俺たちは戦士の村に向かう。
本来なら昨日の時点で俺とマークⅠたちだけで戦士の村に行くつもりだったが、飯屋を出た頃には日が暮れていた。
それでも、俺たちだけなら夜の移動など何の問題にもならない。だが、女性陣が殺人鬼がいるかもしれないエルザフィールの街の宿に泊まるのは、俺がいないと不安だと訴えたので、一泊して皆で戦士の村に行くことになった。
俺たちは一直線に戦士の村に向かって進んでいく。
あらたにリーダーになったネヤの指示により、隊の前衛は最上級職の五人だけで組まれていて、かなり離れた位置に残りのメンバーである俺たちが続くといった感じで進軍していた。
その五人の最上級職は、ネヤ、ミコ、ラゼ、マロン、マミだ。彼女らは競うように魔物の群れを倒して進んでいて、俺たちはただ歩きながら魔物の死体の首や素材を回収し、マークⅢに手渡しているだけだ。
まぁ、この辺りの魔物の群れは多くても30匹を超えることはなく、通常種が主体なので彼女らからすれば雑魚にすぎない。彼女らの進軍を阻めるとすれば上位種以上の存在だが、そんな魔物がそうそう出現するはずもなく、俺たちは難なく戦士の村に到着した。
俺たちは戦士の村の東門から近い宿を探して、そこを一時的な拠点とし、後はネヤに任せて俺は宿を後にする。
今回のメンバーはマークⅠたちとワンちゃんに加えて、猫ちゃんも連れて行くことにした。
最上級職が一気に六人も増えたので、棚上げしていた猫ちゃんを鍛える余力ができたからだ。
だが、猫ちゃんはレシアにべったりなので、最悪、レシアも一緒に連れて行こうかと考えていた。
しかし、マークⅢが猫ちゃんに「今のままの強さでは、レシアと一緒に日本には連れては行けないですの」と不安を煽り、猫ちゃんは俺たちについていくことをしぶしぶ了承したのだった。
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