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第83話 リーダー交代

 

 ようやく仲間たちが転職を終えて、ラードたちが俺の元に集合した。


 「待たせたな。ビックリするほどの結果になったぜ」


 へぇ、意外だな。うちには下級職はいない。要するに、最上級職に転職できた奴が何人か出たということだからな。


 「それを聞く前に、俺から皆に言っておくことがある」


 「……なんだよ、あらたまって」


 ラードが怪訝な表情を浮かべる。そして、皆の視線が俺に釘付けになる。


 「仮に俺がどれだけ強くなったとしてもお前たちと一緒に、日本を取り戻すとここに断言する。それに、転職が成功しなかったとしても気に病むこともない。お前たちは日本を取り戻そうと立ち上がった俺の仲間だからな」


 「へっ、今更の話だろ。なぁ、皆!!」


 当たり前だと言いたげなラードが皆の方に振り返ったが、仲間たちは戸惑いを隠せない様子だった。


 どうやらマミたちが言っていたことは本当だったようだが、これで仲間たちの不安が少しは和らいだと信じたい。


 「じゃあ、転職結果を聞こうか」


 「俺たちの方は四人が転職できたぜ」


 はぁ!? マジかよ!? あまりに出来過ぎだろ……いったいどうなっているんだ?


 俺はあまりの出来事に一瞬放心状態に陥ったが、我に返ってラードに尋ねた。


 「で、誰が転職できなかったんだ?」


 「……俺とミルアたちだ」


 ラードが沈痛な面持ちで答える。


 「……まぁ、気を落とすな。むしろ、この状況の方が異常なことだからな」

 

 「ああ、それは理解しているつもりだが、こうなってみるとデインが焦ってた気持ちが痛いほど分かる……リーダーなのに転職できないんだからな」 


 「でもそれは現状の話であって、あなたが転職できないと決まった訳じゃないわ」


 キャニルがラードに寄り添って慰める。


 「それはそうだが最上級職がいるのに格好がつかないだろ。だから俺はリーダーをネヤに頼みたい」


 ラードがネヤに対して頭を下げた。


 「隊員が私たちだけならそうかもしれないけど、そもそも私たちのリーダーはあなたじゃなくて、ロストなんだから気にしすぎでしょ」


 ネヤは眉間にかすかなしわを寄せて、わずかに首を傾げている。


 確かにその通りなんだが、デインの件もあるし、やりたくないのを無理にやらせるのもストレスの元だ。それに、そもそもの原因は俺にある。


 俺があちこちに行って隊にいないからだ。


 「まぁ、ラードがそう思っているのならそれでもいい。逆に聞くがネヤはリーダーをやれるのか?」


 「やれと言うならやるわよ」


 「じゃあ、リーダーはネヤに交代ということで頼む」


 「……分かったわ」


 ネヤが複雑げな表情で頷く。


 「で、お前らは何の最上級職に就いたんだ?」


 「私は【重騎士】ね。ミコは【大剣豪】、ラゼは【魔闘士】、キャニルは【大魔導師】よ」


 「くくっ、お前らだけでも日本人屈指のパーティになったみたいだな」


 【風使い】のヒュリルがいなければ、ルガー隊よりも強いからな。


 「でも事がトントン拍子に進み過ぎてる気がするのよ……こうなったのは、ロストがいるからこうなってるような気がするのよね」


 「私もそれは感じていた。私たちが強くなったのもロストたちと合流してからだからな」


 ネヤの意見にマミが同調し、彼女らはジト目で俺を見ている。


 「俺は転職し易くなるような特殊能力や魔法は持っていないから気のせいだろう。そもそもな話、ここに来るまでの敷居が高すぎるのが問題で、実は比較的簡単に転職できるんじゃないかと俺は思い始めている」


 「それは違うんじゃないかしら? 簡単に転職できるんなら、ルガー隊の隊員たちが最上級職になっていないことの説明がつかないから」


 即座にキャニルが反論する。


 言われてみればその通りだ。ルガー隊は俺たちよりも半年も前にここに来ていたのにもかかわらず、未だルガーですら上級職だ。だとすると、ネヤたちが何か原因があるはずだと勘ぐるのも頷ける。


 「確かにキャニルの言う通りだが、俺やお前らに転職し易くなるような特殊能力や魔法があれば、アナリシスの魔法を持っているマークⅢが俺に報告するはずだ」


 「マスターの言う通りですし、アナリシスの魔法で人を視てみても、転職に関する項目は見当たりませんわ。ですが、アナリシスの魔法で視れる詳細項目の中に資質という項目があって、その資質は1から10の値で記されていますが、この資質は何を示す値なのかは分かりませんの」


 「興味深い話ね……ちなみに私の数値はいくつなのかしら?」


 少し考える素振りを見せたキャニルが、探るような眼差しをマークⅢに向ける。


 「あなたの数値は3ですの」


 「さ、3? 何だか低い数値ね……」


 キャニルは驚きを隠せない様子だ。


 確かに上が10なら3だと低すぎる……俺の数値はいったいいくつなのか気になるな。後でマークⅢに聞いてみるか。


 「そんなことはありませんの。日本人の大半が3ですから」


 「えっ? そ、そうなんだ……この中で3を超えてる人はいるのかしら?」


 「レシアとマミが4で、ルルルが6ですわ。でもこれはとても珍しいケースですの」


 レシアとマミは意外そうな顔をしていて、ルルルはとても嬉しそうに微笑んでいる。


 「【聖女】のレシアが4なのは頷けるけど、マミは【剣豪】よね?」


 「いや、私は今回転職できて【大剣豪】に就いた。ちなみにマロンは【聖騎士】だ」


 「――えっ!?」 


 キャニルが驚きの声を上げる。


 とうとう俺たちの仲間に【聖騎士】が出たか。【聖騎士】のソフィと違ってマロンは美人で、スタイルもいいから俺の聖騎士像に合っている。


 「ルルルに確認したいのですが、転職の結果はどうでしたの?」


 「何も表示されてなかったわ」


 ルルルが不満そうに返す。


 「私は最初、資質は強さのバロメーターだと思っていましたの。ですが4のレシアも6のルルルも接近戦は弱いですの。ですので、強さは資質の中の一つであり、資質の値が高いということは特殊な職業や魔法、特殊能力に目覚める可能性があるということだと思いますわ」


 なるほどな。必ずしも、強さ=レアな職業ではないからな。だが資質の値が高くてもどのような手段で、特殊な力に目覚めることができるのかが問題でもある。


 「で、肝心のお前の資質はいくつなんだ? まさか3じゃないんだろ?」


 ラードの言葉に、皆の視線がマークⅢに集中する。


 「マスターの資質の値は7ですの」


 それを耳にした仲間たちがざわついた。


 ルルルも俺と同じ不遇職だから、資質の値は同じだと思っていたが意外だな……


 「ロストで7なのか……だったら10の奴はどんだけ強いんだよ」


 「……おそらく、採取隊が戦士の村やエルザフィールの街を作るときに、協力したという連中は俺より上だろうな」


 「私もそう思いますわ。まず大前提として最初の集落は戦士の村ではなく、魔物の村だということを知っておいてほしいですの。ですので、採取隊が戦士の村を作ろうとしたときには魔物の村があり、それを知った上で採取隊は戦士の村を作ったことになりますの。つまり、採取隊の上層部は魔物の村の長を知っているから、魔物の村を攻撃しなかったのですわ」


 「なるほどな……小屋から旅立つときに、戦士の村か魔物の村のどっちに行くかと聞かれて、何で魔物の村なんかがあって、放置されてるんだって思ったからな」


 ラードは合点がいったような表情を浮かべている。


 「これは私の推測ですが、魔物の村の長は人族だと思いますの。なぜならば、魔物の村にいた白い蜂であるフローの主人が、シルルンという人物だからですの」


 「要するに、シルルンとその仲間たちが魔物の村を作り、シルルンたちとガタン商会も繋がっているから、シルルンたちが戦士の村作りに協力したってことか」


 手を顎に当てるラードが一つ一つの情報を繋げるように言った。


 「そのシルルンという人物はいったい何者なの?」


 キャニルが不可解そうにマークⅢに尋ねる。


 「冒険者ギルドで聞いた話では、メローズン王国の英雄の一人ですの。その強さは勇者さえも超えているという話ですわ」


 「その話の内容だと基本的には英雄より、勇者のほうが強さは上ってことなのよね?」


 「そうですの。勇者はこの大陸に三人しかおらず、どの国にも属さずに対魔物に人生を捧げている存在らしいですの。それがあるからこそ、人族がこの大陸で存続できているらしいですわ」


 その勇者より強いのがシルルンか……フローの主人であり、もしかしたらプニがいうマスターっていうのが、シルルンである可能性も高い……となると、俺はシルルンに『威風』の腕輪を貰ったことになるな。まぁ、感謝しかないが。


 「……で、資質の話はこれくらいにして、マロンに確認したいことがある。もう俺たちの力がなくてもお前たちだけでやっていけるだろう。今後、どうするつもりだ?」


 「もちろん、私たちはロストさんについていきます」


 マロンが即答する。


 「愚問だろ」


 マミも当然だと言いたげな顔だ。


 「そうか、ならよろしく頼む。で、俺たちの今後の方針の話なんだが、まず第一に俺たちが日本に戻るなら、最低でも前衛の最上級職が三人は欲しいと考えていた。だが、現時点ですでにその数を上回っているから、何時でも帰還できる状況になった。次に帰還するタイミングだが、俺は【暗黒剣士】のガーラ隊やルガー隊が先に日本に帰還して、その戦況を知ってから動こうと考えていたが、この案はおそらく破綻している可能性があるから決めかねている」


 「ガーラ隊やルガー隊が日本に帰還した後の戦況を知っている日本人が、こっちに転移してこないかもしれないという問題じゃないかしら」


 さすがキャニルだ。やはり、彼女は頭がいいな。


 「その通りだ」


 「……なんで戦況を知ってる日本人がこっちに来ないんだよ?」


 ラードが訝しげに俺に尋ねた。


 「ルガーたちと俺たちの転移時期が、半年ほどずれていることは知ってるよな?」


 「ああ」


 「じゃあ、何でずれているんだ?」


 「それは【天の声】が半年ずらして、俺たちを転移させたからだろ?」


 「お前は【天の声】を聞いてから、日本で半年ほど過ごしたのか?」


 「……えっ!? い、いや俺は【天の声】を聞いてすぐに【天の声】から、転移に関する説明を受けて意識を失ったんだ」


 「俺もそうだ。おそらく皆もそうだろう。そうでなければ俺たちが一緒にいるわけがないからな」


 「じゃあ、何で半年ずれてるんだよ?」


 ラードは困惑の極みにあるようで、見かねたキャニルが持論を展開する。


 「【天の声】から転移に関する説明を受けた日本人の全員が、一度に転移させられたからだと思うのよ。だとすれば、その人数は膨大で小屋を設置する場所がなくて、順番待ちが発生しているといったところかしら」


 俺はキャニルとこの話をしていないのに、即答するってことはキャニルも独自で考えていたんだな。


 「俺もそう思う。最初はルガーたちが半年も先に来ていることから、日本から次々に日本人がこっちに転移しているんだと思っていたからな。しかし、この考えが正しいのか、そうではないのか現状では分からないし、もしかしたら全く違うかもしれない。ちなみに、強い魔物が日本に転移しても、そのステータスの値はどれだけ強くても1000程度に落ちるらしい。おそらく、そこから徐々にステータスの値は元に戻っていくと思うが、その暇を与えずに短期決戦で挑むのが望ましいと俺は思う。しかし、ここまでの話を聞いて皆はどう思う? 意見を聞かせてくれ」


 「私は私たちが最終兵器だと思ってるから、少なくともルガー隊より後に帰還したほうがいいと思う。けど、問題はルガー隊がいつ日本に帰還するかで、私たちの残り時間も変わってくることよ。それまでに私たちの装備やこっちでしか入手できないアイテムを、大量に買い込んでおきたいわね。どれだけ買い込んでもマークⅢがいるから問題なさそうだし」


 ネヤの意見にミコとラゼが頷いている。


 残り時間か……言われてみればその通りだな。ルガーたちが今どのくらい強くなっているかで、変わってくるからな。


 「俺は先に俺たちだけで日本に帰還して、魔物のボスに短期決戦を仕掛けるのはありだと思うぜ」


 「……私もそう思うけど、地球に来る魔物のステータスが1000ぐらいまで下がるのなら、私たちも1000を超えていたら1000まで下がるということよね?」


 ラードの意見に同調したキャニルが俺に問いかける。


 「えっ? そ、そうなのか?」


 驚きの声を上げたラードが俺に聞き返す。


 「おそらく、そうだろうな」


 確実ではないからプニに確認しておく必要があるな。


 「だったらルガー隊と一緒に日本に帰還して、ロストさんとヒュリルで魔物のボスを狙ったほうが勝算が高いと思うのよ。だけどボスの側近たちが何匹いるのか分からないし、その側近たちも強かったら、ステータスの値が1000である可能性もあるから、ロストさんとヒュリル次第だと思うけど」


 「俺はともかく、その作戦を決行するならヒュリル次第だな」 


 俺は他に意見はないかと視線をレシアとルルルに向けると、目が合った彼女らは急に落ち着きがなくなり、慌てふためいている。


 「マロンはどう思う?」


 「私たちはロストさんたちについていくだけです」


 「そうか。何か意見があれば、俺でもネヤでもいいからいつでも話してくれ」


 そう話した俺はここで話を切り上げて、俺たちは転職の神殿を後にしたのだった。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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