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第82話 『二重職』と『合算』

 

 【目利き】を送り届けた俺たちは、軽く食事を取ってから転職の神殿に向かっていた。


 【目利き】は「とても稼げるので次回も指名して下さい」とマークⅢに伝えていたらしい。


 ということは、俺たちがゴースト種を倒せば倒すほど、彼女が儲かる仕組みになっているんだろうな。


 まぁ、次回があるとすれば、それはメローズン王国に向かうために通過するときになるだろうから、【目利き】は指名できない。ここに戻って来る理由がないからな。


 ほどなくして転職の神殿に到着した俺たちは、キャニルが受付を済ませると仲間たちが指定された部屋へと歩いていく。


 「マークⅢ、俺もステータスを確認したいから別の部屋を借りてくれ」


 一応、口頭でマークⅢから俺のステータスのことは聞いているが、自分の目で確認したいし、皆と一緒では人数が多いから時間がかかるからな。それにもしワンちゃんが新しい職業に就けるのなら詳しい精査に時間が必要だし、それができるのはマークⅢだけだからな。


 「分かりましたの」


 皆とは別の部屋に、俺とマークⅠたち、マークⅡ、マークⅢとワンちゃんが入る。


 「では試してみますの」


 「わふぅ!!」


 マークⅢに連れられたワンちゃんが水晶玉に触れる。 


 ワンちゃんの職業は上級職の【ワンワン】だ。系統的には無手で戦う【格闘家】に近いと思うので、最上級職の適性があるとすれば【魔闘士】だろうな。


 だが、その場合、【ワンワン】の固有特殊能力であると思われる『肉球パンチ』や『くんくん』などの有用な特殊能力が失われる可能性があるので、転職の判断は極めて難しくなる。


 「今のところワンちゃんに最上級職の適性はありませんの」


 「わふぅ……」


 ワンちゃんはしょんぼりしている。


 「気にするな。今のままでもワンちゃんは十分に強いからな」


 俺がワンちゃんの頭を撫でると、ワンちゃんは尻尾を激しく振って嬉しそうにしている。


 「じゃあ、俺のステータスを見てみるか」


 俺が水晶玉に触れると、下級職一覧のウィンドウが表示されたが、そこには何の職業も表示されていなかった。


 まぁ、職業適性はないと思ってはいたが、いざ突き付けられると結構ショックだな。


 俺は無造作に上級職一覧のタブに触れると、そこには一つだけ職業が表示されていて、その職業は【生命付与師】だった。


 おおっ!? マジかよ……転職できるとすれば、俺が最初から所持している生命付与系か毒に関する職業だと思っていたが、俺は自力で【カスタードプリン使い】に目覚めた。だから、他の職業には適性がないと思っていたので嬉しいな。


 俺はウィンドウに表示されている生命付与師の下にある情報に指で触れると、【生命付与師】のステータスが表示される。



職業: 【生命付与師】レベル: 1

HP: 200

MP: 600

SP: 600

攻撃力: 60

守備力: 60

素早さ: 60

魔法: エクスプロージョン, リインフォース

特殊能力: 生命付与, 生命付与者解析, 生命付与者意識移動



 上級職の割にはMPとSPが高いと思うが、他が低すぎる……だが、エクスプロージョンの魔法は有用だ。


 あとは、リインフォースの魔法って何なんだ?


 俺がリインフォースと表示されている部分に指で触れると、説明が表示された。


 なるほどな……物質を強化できる魔法か。効果時間は永久だが一つの物質に一回しか使用できないという制限がある。


 となると、様々な物質で試してからでないと、マークⅡたちには使えないな。


 しかし、この職業は弱すぎる……エクスプロージョンの魔法とリインフォースの魔法は欲しいが諦めるしかないか。


 俺は最上級職一覧を表示するが何の職業も表示されておらず、タブを切り替えて自分のステータスを確認する。


 

名前: ロスト

職業: 【カスタードプリン使い】レベル: 2

HP: 2200

MP: 1000

SP: 3100

攻撃力: 1700

守備力: 1600

素早さ: 1660

魔法: ポイズン, レビテーション

特殊能力: 生命付与, 生命付与者解析, 生命付与者意識移動, 無限プリン, フルフル, 二重職, 合算, 甘い息, プリン壁, プリンシェイク, プリン操作, プリン砲

譲渡された特殊能力: 守護



 ……ん? 『二重職』に『合算』だと? どうやら俺はマークⅢの説明を適当に聞き流していたようだ。まさか別の職業に適性があるとは思いもしなかったので、ステータスの値しか聞いていなかったからな。


 で、『二重職』と『合算』の効果を確認してみると、『二重職』は二つの職業に就けるようだ。なので『二重職』しか所持していない場合は、ステータスの値は高い方が反映される仕組みらしい。


 『合算』は二つ以上の職業に就いている場合、それぞれの職業のステータスが加算されるようだ。


 くくっ、要するに俺は【生命付与師】にも就けるということになる。


 俺は即座にタブを上級職一覧に切り替えて、生命付与師に指で触れると「転職しますか?」に続いて「はい いいえ」の二択が表示されたので、「はい」を選択すると、呆気なく転職は完了した。


 おそらく、【生命付与師】のステータスの値が低すぎるので、強くなった実感がないんだろうな。


 だが、【生命付与師】にも就いたおかげで、欲しかった攻撃魔法が手に入ったのは素直に嬉しいぜ。


 「マークⅢ、俺は上級職の【生命付与師】にも就くことができたぜ」


 「私が説明した『二重職』の存在を覚えていてくれて嬉しいですの」


 そう話したマークⅢがじーっと俺を見つめている。


 ぐっ、耳が痛い。次からはちゃんと聞いておかないといけないな。


 「マスター、リインフォースという魔法が面白そうですの」


 「だろうな。俺もそう思っていたからな」


 〈リインフォースという魔法はどういう魔法なのですか?〉


 「マークⅡ、お前が質問してくるとは珍しいな」


 〈あなたはそんな声をしていたのですねマークⅡ〉


 マークⅢの思念の声にマークⅡがビクッと反応する。


 〈どういうことでしょうか? 今マークⅢの声が直接聴こえたような気がしました〉


 〈ボクもなんかちがうかんじにこえがきこえたよ〉


 「おそらく、マスターが【生命付与師】に就いたことによって、思念の声が聴こえるようになったのだと思いますの」


 マジか? マークⅡは俺としか会話が成立しないから、早くなんとかしたいと思っていたのに、何も対策できていなかったから良かったぜ。


 まぁ、マークⅠはどんな方法なのか分からないが、ダークと会話しているのが謎だが。


 「で、リインフォースの魔法は物質を強化できる魔法だ。要するに、実験の結果によっては、お前らの体に使って強化できるかもしれん」


 〈それはすごい魔法ですね。実験が楽しみです〉


 「くくっ、そうだな」


 部屋から出た俺たちは仲間たちが借りた部屋へと移動して中に入ると、人数が多いのでまだまだ時間がかかりそうだった。


 壁際に移動した俺が仲間たちの様子を眺めていると、レシアとルルルが歩いてくる。


 彼女らは転職しないので暇なんだろうな。

 

 「ロストさんたちはどこに行っていたんですか?」


 「俺たちは別部屋で転職を試していたんだ。ここだと時間がかかりすぎるからな」


 「……私も転職を試みたほうがいいんでしょうか?」


 そう話すレシアの表情は暗い。


 はぁ? 意味が分からん。


 「……何でそう思うんだ?」


 「アンデッドとの戦いでルルルさんは大活躍でしたが、私はあまり活躍できなかったので……」


 確かにルルルは『デロデロフェスティバル』を連発して無双していたが、【聖女】のレシアはヒーラーなんだから、そもそも役割が違う。


 「お前がアンデッドを倒そうと思えば簡単だったことは知っている。【聖女】にはターンアンデッドの魔法があるからな。だが、ターンアンデッドの魔法はアンデッドを消し去るから首を回収できなくなる。だからラードがお前には回復に専念しろと指示したことも、俺は知っているからお前が力不足だと思う必要は全くない」


 「は、はい。ありがとうございます……」


 そう答えたレシアはどこか不安げだった。


 ――っ!? 不安だと? なぜ俺はそう感じたんだ?


 逡巡してみたが答えに辿り着けずに俺は考えを棚上げした。


 「……ルルル、お前は転職を試さないのか?」


 「うん。今のままでも強いから」


 出会った頃とは違ってルルルは自信に満ち溢れている。


 「だが、もしかしたら【無職使い】って職業があるかもしれないぞ? 俺の【カスタードプリン使い】のように」


 「でもそれはロストが戦いの中で自力で目覚めた職業でしょ」


 「その通りなんだが、俺もお前と同じで【カスタードプリン使い】に目覚めるまで、転職を試していなかった。今思えば【カスタードプリン使い】に転職できていたかもしれないんだ」


 「じゃあ、試してくる」


 「あっ、私も行きます」


 ルルルとレシアは水晶玉に向かって歩いて行った。


 俺は壁を背もたれにして、棚上げした問題に再び思考を巡らす。


 レシアは活躍できなかったことに対して落ち込んでいたようだが、それは建前で本音は違うということなんだろうな……でなければあんな顔にはならないはずだ。じゃあ、彼女の本音とはいったい何なんだ?


 「珍しい光景だな。私には君が額に手を当てて悩んでいるように見える」


 その言葉に、俺が瞼を開くと、そこにはマミとマロンが立っていた。


 「くくっ、酷い言われようだ。それではまるで俺に悩みがないように聞こえるぞ」


 「ほう、君も悩むのか? 私の見立てでは君は即断速攻、悩みなどないと思っていたが」


 はぁ? そんな訳ないだろ。


 「……マロンもそう思うか?」


 「えっ? は、はい……概ね私もそんな風に感じていました」


 マジかよ? 俺はそんな阿呆みたいな奴と思われていたのか……


 俺は愕然とした。


 「それで君は何を悩んでいるんだ?」


 マミは興味深げに俺を見つめている。


 「実は……」 


 俺は事の経緯をマミたちに説明する。


 「なるほどな……私が思うにレシアは、見捨てられるかもしれないと思っているんだろうな」


 「そんなこと、あるわけないだろ」


 「でも、分かるような気がします。私はマークⅢさんが討伐金の交渉をラードさんたちと行った際に、ドキリとしましたから。私たちは足手まといでしかないのだと」


 「確かにそれは私も感じたな」


 マミが相槌を打つ。


 「あれはマークⅢが駆け引きのために言っただけなんだがな」


 「ですが、おそらくレシアさんだけでなく、皆さんもそう思っていると思いますよ」


 「何でなんだ?」


 「ロストさんが強すぎるからですよ」


 はぁ? 何で俺が強かったら見捨てられると思うんだよ。


 「君はよく単独で行動してるらしいじゃないか。それに加えて日本人最強になったから、余計にそう思っても仕方ないだろう」


 その発想はなかった……確かに今の俺とマークⅡたちの強さなら、俺たちだけでやっていくことも可能だろうな。


 一度、皆に説明したほうが良さそうだな。俺はそう思わずにいられなかったのだった。

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