第81話 暗黒剣士のプライド
翌日、旅立つことをアーロンに告げた俺たちは、エルザフィールの街に向かうために旅支度を整えていた。
結局、アーロンによると、レブナントには逃げられたらしい。
だが、採取隊の夜の部隊がレブナントたちを追い込んだからではなく、むしろ、互角な戦いを繰り広げていたのにもかかわらず、唐突に撤退したらしい。
なぜ、レブナントたちが突然引いたのか、採取隊のリーダーたちの中で議論が交わされれた。その中で、唯一、戦場全体の状況を知っていた右翼の女大剣豪が「砦を落とすには戦力が足りないとレブナントが判断したから引いたのではないか?」と主張したことで、リーダーたちは合点がいったとのことだ。
まぁ、確かに女大剣豪の分析は妥当だと俺も思う。
右翼のゴースト種の群れを女大剣豪の部隊が殲滅し、正面のスケルトンナイトの群れを俺たちが倒した時点で、レブナントは己の部隊だけで砦を落とさないといけないからな。
で、女大剣豪のこの発言のおかげで、シャドー・ミストが作った瘴気の魔法陣を俺たちが破壊したことが採取隊に伝わり、瘴気の魔法陣の破壊報酬が1000万円だということが分かった。
これに対してマークⅢがこれまでにも11個の魔法陣を破壊していると訴える。マークⅢは魔法陣を破壊した場所を全て記憶していて、それを伝えることによって俺たちは、1億1000万円の報酬を受け取ることができた。
さすがマークⅢだぜ。しかもマークⅢは瘴気の魔法陣を破壊したのはマークⅡだから、報酬は私たちのものだと譲らず、キャニルは仕方ないといった感じで折れたのだった。
出発準備を終えた俺たちは南門から外に出ると、そこには大剣を背にした黒ずくめの男が立っていた。
「ロストという男はどいつだ?」
「何て言ったんだ?」
ラードはマークⅢに説明を求めた。他の仲間たちも同様に言葉が分からずに顔を顰めている。
男が話している言葉は十中八九、人族語だと思うが、俺には相手が何語で話しているのかは分からない。
『言語』はどんな言葉でも俺が理解できる言葉に変換されて聞こえるからだ。
俺は仲間たちを制止させて前に出る。
〈マスター、あの男の職業は【暗黒剣士】ですの〉
ということは、夜の部隊のリーダーだろうな。いったい、何の用なんだ?
俺が不審がっていると、男の体が漆黒のオーラに包まれる。
〈あれは身体能力とそれに伴う行動精度が急激に上昇する『決死』ですわ〉
男は背にしていた大剣を抜き放って突きの構えを取り、距離を瞬時に詰めて俺の顔面に目掛けて突きを繰り出す。
動かなければ大剣は紙一重で俺の顔の横を通り過ぎるだろうが、俺はあえて背中の長剣を抜き放って大剣を弾き返した。
「馬鹿なっ!? 俺の全力の突きがこうも容易くあしらわれるのか……」
男は愕然としている。
「気は済んだか?」
「……」
項垂れたままの男は何も返さない。
「……行くぞ」
視線で仲間たちを促した俺が歩を進めると、仲間たちも戸惑いながら俺に続くが、ラードは苛立たしげに俺の横に並ぶ。
「な、何なんだよあいつは!? いきなり斬り掛かってきやがって……」
「おそらく、ハイ・ヒューマンキラーを倒した俺の実力を知りたかったといったところだろうな」
「ただの戦闘狂じゃねぇか!! そんなんでいきなり攻撃されたらたまったもんじゃないぜ」
「まぁ、初撃の突きを俺に当てるつもりはなかったみたいだがな」
「そ、そうなのか?」
ラードは複雑げな表情を浮かべるのだった。
***
俺たちは一度の野営を経てからエルザフィールの街に辿り着いた。
野営した場所が行きのときと同じく、ブラックゾルが出現した場所だった。なので、仲間たちはブラックゾルとの遭遇に激しく怯えていたが、出現したブラックゾルの群れはマークⅡとマークⅢが難なく駆逐し、彼女らは仲間たちに褒め称えられたのだった。
俺たちは同行している【目利き】を送り届けるために、東門から近い冒険者ギルドの換金所に赴く。
中に入った俺たちがテーブル席につくと、マークⅢが【目利き】を伴って受付に向かう。
「結局、ゴースト種を何匹ぐらい倒したんだ?」
「200匹は軽く倒してると思うけど、半数以上が下位種だからいくら討伐報酬が3倍でも、たかが知れてるんじゃないかしら。まぁ、単純計算で3000万円ぐらいでしょうね」
ラードの問いに、キャニルが答える。
くくっ、3000万は大金だと思うが、採取隊の砦で上位種を1匹倒せば750万という額が、金銭感覚を狂わせているんだろうな。
「ロ、ロスト!? あなたたち生きていたの!?」
驚愕の声の方に俺が顔を向けると、そこにはアフネアたちの姿があった。
「……逆に聞くが、なんで俺たちが死んでいることになっているんだ?」
「一週間以上姿を見なかったからよ」
「なるほどな。だが、俺たちは採取隊の砦で戦っていたんだ」
「い、いきなり砦まで行ったの!?」
アフネアは面食らってポカンとしている。
「途中でアーロンたちに会って、流れでそうなったんだ」
「私たちも一度だけアーロンたちに連れられて第一砦に行ったことがあるのよ。もちろん、見学だけど。けど、あそこはグールやマミーといった強敵が出現するから採取隊も大変そうだったわ」
「そのグールやマミーもあなたの協力者として私たちが倒してたから、あなたの評価も上がってるはずだと思うわよ」
したり顔のネヤが話に割り込んでくる。
「それはありがたいわね。けどグールやマミーは一般的な最上級職でも苦戦する相手よ。それなのに【聖女】しか最上級職がいないあなたたちがどうやってグールやマミーを倒したのよ?」
そこに、受付から戻って来たマークⅢが言い放つ。
「今のマスターなら余裕で倒せますわ」
「……今のってことは、ロストは強い最上級職に就いたってことよね?」
一瞬、考える素振りを見せたアフネアは探るような眼差しをマークⅢに向ける。
「その通りですわ。【風使い】のヒュリルより上がいなければ、日本人最強はマスターですの」
マークⅢは自分のことのように誇らしげに語る。
こいつ、俺が強くなったことがよっぽど嬉しいんだろうな。
「か、【風使い】より強い……ロストがどんな職業に就いたのかすごく気になるわ」
アフネアは興味深げにマークⅢを見ている。
「仲間ではないあなたにマスターの職業を教えることはできませんの。それで、これはゴースト種を倒した討伐金ですが3000万円ほどにしかなりませんでしたわ」
マークⅢが金袋をキャニルに手渡した。
「予想通りの金額ね」
「えっ? 3000万円ほどしかないって3000万円は大金じゃない!?」
「採取隊の砦で戦っていた私たちにとって、3000万円はたいした金額ではありませんの」
その言葉に、アフネアは放心状態に陥ったのだった。
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