第80話 【カスタードプリン使い】
「き、君は単独でここで戦っていたのか!?」
スケルトンナイトたちの亡骸を見つめる女大剣豪は、まばたきも忘れて立ち尽くしている。
「いや、そいつらを倒したときは仲間たちがいたんだ」
「そ、そうなのか……ん!? こ、これは瘴気の魔法陣の残骸ではないかっ!?」
「奴らの中にシャドー・ミストがいて、そいつがここに瘴気の魔法陣を作りやがったんだ。放置すると面倒なことになりそうだったから潰した」
「感謝する。こんなところに回復拠点を作られると厄介この上ないからな」
「で、引き上げようとしたところで、こいつが現れたから仲間たちを砦に撤退させたんだ」
俺は手に持つ骸を女大剣豪に見せる。
「ヒュ、ヒューマンキラーがこのタイミングでまた出たのか……君が倒してくれなければ我々はゴースト種の殲滅すらできなかったかもしれない」
へぇ、殲滅したってことはハイ・ゴーストも倒したのか……しかし、その代償が隊員30人というのは割に合わなすぎるだろう。
「まぁ、こいつは上位種だけどな」
「なっ!? き、君はいったいどれほど強いんだ……」
女大剣豪は驚きと羨望が入り混じったような表情で俺を見つめている。
「俺は砦に戻るがあんたらはどうするつもりだ?」
「無論、左翼の応援に行くつもりだ」
その言葉に、俺は左翼を見る。
ゾンビ種の数がほとんど変わっていないのに対して、左翼の数は30人ほどまで減らされている――いや、それでは地面に倒れている隊員たちと数が合わなすぎる。
俺は思わず視線を防壁の出入口前に転じると、そこに守備隊の姿はなかった。
マジか? 防壁の出入口を守っていた二部隊が駆けつけて、残っているのが30名なのか……しかも、戦っているのは10匹ほどのゾンビ種だけで、レブナントは後方に控えている状況だ。
要するに、ゾンビ種の群れはグールの群れである可能性が極めて高い。
まぁ、俺がレブナントを倒せば手っ取り早いんだが、救援要請なしに勝手に動くなと言った手前、勝手に動くわけにはいかないからな。
「群れのボスはレブナントだと知っているんだよな?」
「何!? レブナントなのか……レブナントは一度だけこの砦に現れたことがある」
「だったらこの拠点にレブナントを倒せる人材がいるんだよな?」
「ああ、夜の部隊に【暗黒剣士】が二人いる。その二人ならおそらく勝てるだろう。加えて言うなら夜の部隊には最上級職があと八人いる」
最上級職が10人もいるのなら俺の出番はなさそうだな。
「安心したぜ。では俺は行く」
「ああ、君がいてくれて本当に助かった。感謝しかない」
女大剣豪たちは俺に一礼してから左翼に向かって進み出し、俺は砦へと歩を進める。
俺が防壁の出入口を抜けて、砦の東側の門に向かって歩いていくと、門の前にはラードたちの姿があった。
「ロ、ロスト!? 無事だったのか!?」
ラードが驚愕の声を上げる。それを皮切りに仲間たちが俺の傍に駆け寄ってくる。
「まぁ、なんとかな」
「こいつら、さっきまでしょぼくれてたんだぜ。マスターは私たちを逃がすために囮になったってなぁ」
ラードは愉快そうに微笑んだ。
「……かなり際どい戦いだったから、マークⅢたちがそう思うのも無理はない。マークⅢ、こいつをしまっておいてくれ」
俺は引きずってきたハイ・ヒューマンキラーの死体をマークⅢに手渡した。
「分かりましたの」
マークⅢは裂けた空間に奴の亡骸を収納した。
「……ですが勝算は無いに等しかったはずですの」
マークⅢは俺をじーっと見つめている。
「な、なぁ? そんなにハイ・ヒューマンキラーってのは強かったのか?」
「『人型特効』を加味するとその攻撃力は2000超えで、素早さが2倍になる『疾走』を持っていますから素早さは1300ほど、守備力は700ほどですわ。あと『養分吸収』を所持していますから、脚の枝から地中の養分を吸収しているのでハイ・ヒューマンキラーを地中から引き抜かないと、体力を無限に回復されますの」
「む、無茶苦茶強ぇじゃねぇか……そんな化け物にどうやって勝ったんだよ?」
ラードの言葉に、皆の視線が俺に集中する。
「……マスターの今のステータスを視て答えが分かりましたの」
「ステータスなんかを視て何が分かるんだよ?」
ラードが訝しげな声を上げる。
まぁ、ステータスはそうそう変わるものではないから、ラードがそう感じるのも無理はない。
「おそらく、マスターは極限状態の戦いの中で、自力で新たな職業に目覚めましたの」
「えっ?」
ラードは面食らったような顔を晒している。
「け、けどよう、職業ってのは転職の神殿でしか変えられないんじゃないのか?」
「水晶玉の職業の補足項目には、資質ある者は自力で職業や特殊能力や魔法に目覚めることが可能って載ってたわ。実際、ミコも自力で『痩せ分身』に目覚めてるし」
「マ、マジかよ……」
キャニルの言葉に、ラードは絶句している。
言われて気づいたが、確かにその通りだよな。【剣豪】に『痩せ分身』なんかないからな。
「さすがキャニル、その通りですの。マスターがあらたに目覚めた職業は、最上級職の【カスタードプリン使い】ですわ」
「ハイ・ヒューマンキラーを倒せるほど強いってことは、最強と言われている自然使いの亜種ってことかしら?」
「そうだと思いますの。マスターの攻撃力、守備力、素早さの値が1600ですから。ですので、異世界人最強の【風使い】ヒュリルと職業的には並びましたの。後はヒュリルがこれまでにどれだけ強くなっているかが問題ですが、マスターなら現段階でもヒュリルに勝てると思いますわ」
「つまり、ロストが異世界人最強ってことだな」
マミが誇らしげに言った。
「ロストさんはやっぱり、すごいです!!」
レシアが嬉しそうに微笑んだ。ルルルも嬉しさを隠せずにいるが、ミコだけは動揺しているのか、心ここにあらずといった感じだ。
「どうやら最悪の事態だけは免れたようですわね」
どこからともなく現れた女魔法戦士が、マークⅢにそう言い残して去って行った。
あいつが言った嫌な予感とはこのことだったのか? いったい何者なんだあいつは?
俺は不可解さを拭えなかった。
砦の門をくぐった俺たちは、迷わず宿に向かった。
仲間たちを休ませた俺は、採取隊からの緊急召集に備えていた。しかし、彼らが俺の天幕に来ることはなかった。
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