第8話 ペットがペットを飼い始めた
〈は~やくいこうよ。きょうはモリにいくんでしょ〉
「まぁ、待て焦るな。しばらくその辺で遊んでろ」
俺は水晶玉が表示しているウィンドウを見ながら返答する。
〈じゃあ、そとにでてもいい?〉
「構わんが結界の外には出るなよ」
〈わかった〉
マークⅠはコップから這い出て、うにうにと動きながら小屋から出て行った。
「……」
とにかく、森に出現する可能性がある魔物の情報は押さえておきたい。まぁ、狙いはレッサー・ラットだが、他の魔物が出現する可能性が高いからな。
おそらく、天の声は俺たち転移者が、いきなり殺されるような場所には配置していないだろう……俺の初戦の相手がレッサー・コボルトだったからな。
要するに、天の声は最低でも同じぐらいのステータスの魔物と戦わせることで、俺たちを強くしようと考えているんじゃないだろうか?
そうだとすると、この辺りは黒亜人の縄張りで、黒亜人しかいない可能性もあり得るな。
俺が逡巡していると、小屋の扉が開いて俺は我に返る。
「マスター!! おおきいムシをつかまえたよ!!」
マークⅠは体の上に巨大な幼虫を抱えて、小屋の中に入ってきた。
「な、なんだそのでかい幼虫は!!」
さすが異世界だな……30センチ以上あるんじゃないか?
〈かっていい?〉
「はぁ!? か、飼うってお前がその幼虫をか!?」
〈うん〉
「……」
そもそもマークⅠは俺の何なんだ? 仲間? ペット? 道具?
……まぁ、俺が創り出したんだからペットだとして、そのペットがさらに虫をペットにするとかややこしいな。
それにあの幼虫は本当に虫の幼虫なのか? 魔物の幼虫だったらどうする? いや、そうか!! マークⅠは結界の中にいたはずだから、敵意のある魔物は入れないはずか。
「まぁ、いいだろう」
ペットを育てることで、マークⅠの精神的な成長に繋がるだろうからな。
〈やったぁ!! エサあげてもいい?〉
「餌? その幼虫は何を食うんだ?」
〈そとではクサをたべてたから、クダモノをあげる〉
幼虫を抱えたマークⅠは樽の傍まで移動し、幼虫を抱えたまま樽の上に跳躍して樽の上にのった。
へぇ、意外に動けるようになってきたな。
樽は全部で30ほどある。その内訳は水、干し肉、果物が入った樽が10樽ずつあるといった感じだが、果物にはほとんど手をつけていないのでどうでもいい。
マークⅠは果物が入っている樽の蓋を器用に開けると、樽の中に幼虫を入れた。
〈いっぱいたべてる!! どんなムシになるかなぁ?〉
「芋虫みたいに見えるから蝶かもしれんな」
〈えっ? チョウチョになるんだ〉
「あくまで可能性の話だ。地球だったらそうなる可能性が高いと思うが、ここは異世界だから最悪、魔物になるかもしれん」
〈え~~~~っ!? まものになるかもしれないんだ……〉
マークⅠは幼虫を見つめて動く気配がない。
「まぁ、魔物だったとしても、おそらく俺たちに敵意はない魔物だと思うけどな」
〈えっ? そうなんだ。だったらいいや〉
水晶玉でステータスを視れればいいんだが、幼虫のステータスを視ようとしたが視れなかった。
つまり、水晶玉では自分以外のステータスは視れないということだ。
「よし、そろそろ行くぞ」
俺はマークⅠの前にコップを差し出した。
〈もうコップはねるときしかいらない〉
マークⅠは樽から跳躍して俺の左肩にのった。
「その体にだいぶ慣れたようだな」
〈うん〉
俺は小屋から外に出る。
〈なんかあっちのコヤが、なくなっちゃったんだよ〉
「はぁ!?」
マジかよ!?
俺は慌てて左右にあるはずの小屋を確認すると、右の小屋が跡形もなく消えていた。
「消えるのは結界だけじゃないのかよ……」
近くに転移者がいないってことは一人で旅立ったのか? 相当強い職業だったんだろうな……
しかし、そうだとすると天の声は俺たちをランダムに配置していることになるから、俺の推測が外れていることになる。
逡巡した俺は踵を返して歩き出す。
〈あれ? まえじゃなくて、うしろにいくんだ〉
「ああ、おそらく正面の森のほうは黒亜人たちの縄張りだろうからな。今回はレッサー・ラット狙いだ」
〈えぇ~~っ!? イヌをたおしてヤリをもらおうよ〉
「ははっ、鉄の槍は六本もあるだろ」
〈もっとほしい〉
「くくっ、何に使うんだよ」
森の前に到着した俺は周辺を観察する。
魔物の気配はない。結局、どの方角に進んでも黒亜人の縄張りなのかもしれないが、一般的に最弱とされているレッサー・ラットは倒しておきたい。
俺は意を決して森の中へと踏み入った。
森の中はそれほど木が密集しておらず、これなら問題なく戦えそうだ。
俺は槍での戦いを想定し、なるべく障害物が少ないルートを選んで森を進んでいくと、巨大な鼠二匹が、黒い肌の死体を食い散らかしていた。
「……黒亜人と魔物は敵対関係らしいな」
巨大な鼠の大きさは一メートルもない。大きさ的に二匹ともレッサー・ラットだろう。まさか狙い通りに遭遇できるとは運がいい。
俺は槍を構えてレッサー・ラットたちの動向を探る。
〈ウォーター!!〉
突然、マークⅠがウォーターの魔法を唱え、水の刃がレッサー・ラットを切り裂いた。血飛沫を上げたレッサー・ラットが茂みの中に逃げ込んだ。
〈まてまて~っ!!〉
マークⅠは俺の肩から跳躍し、茂みの中に逃げ込んだレッサー・ラットを追いかける。
「なっ!? おいっ!!」
こいつ、こんなに好戦的だったのか。
俺はマークⅠを追いかけようとしたが、残ったレッサー・ラットが俺に目掛けて突進してくる。
「――っ!?」
想定以上に速い!! 高レベル個体なのかっ!?
レッサー・ラットは凄まじい速さで飛び掛かってきたが、俺は狙いすました槍の一撃を繰り出し、レッサー・ラットの胴体を貫いた。
それでも、レッサー・ラットは血を撒き散らしながら俺に食いつこうとするが、俺はその度に槍の突きを放って迎撃する。
動きは速いが所詮は獣だな。直線的で読み易い。やはり、武器を持たない相手に槍という武器は最強だな……
レッサー・ラットは何度も俺に食いつこうとしたが、俺は危なげなしにレッサー・ラットを倒しきった。
で、マークⅠはどこに行った? 早く探さないとやばいだろ。
俺は辺りを見渡したがマークⅠの姿が見えないので、マークⅠが消えた茂みに向かって歩き出すと、茂みの中からマークⅠがレッサー・ラットを引きずって姿を現した。
「マ、マジかよ!?」
俺は愕然とした。
〈ネズミはなんにももってない〉
マークⅠの声はなんとなく不満げだ。
「どうやって勝ったんだ?」
〈まほうでこうげきしたんだよ〉
「はぁ? 攻撃されなかったのかよ」
〈うん〉
「……」
何で攻撃されないんだ? どう考えてもおかしいだろ?
俺はマークⅠを注視しながら逡巡する。
そ、そうか!! レッサー・ラットは何に攻撃されているのか、分からなかったんじゃないか? マークⅠは水の塊だからな。しかもサイズが10センチしかないから小さいし、水の塊が敵なんだと気づいたときには、すでに手遅れだったって可能性が高い。
「マークⅠよくやった。だが、次からは敵を攻撃するのはいいが追いかけていくな」
〈わかった〉
「よし、この辺でレッサー・ラットを集中的に狩るぞ」
〈えぇ~~っ!! ネズミはなにももってないから、イヌをたおそうよ〉
「レッサー・ラットからは皮が取れる」
俺はレッサー・ラットの死体を槍で切り裂いて皮を採取し、マークⅠに見せる。
〈えっ!? なにそれ!?〉
マークⅠは慌てた感じで俺の傍に寄ってくる。
「これは皮だ。これをいっぱい集めて服とか防具、鞄や靴なんかを作れるんだ」
俺は採取した皮を小さく切り、ベルトのような服をマークⅠに着せた。
〈うわぁ、カワはこんなのがつくれるんだ〉
どうやらマークⅠは皮を気に入ったようだな。ていうか、こいつは槍が欲しいんじゃなくて、魔物から取れる物ならなんでもいいんじゃないか?
「とにかく、レッサー・ラットを狩るぞ」
〈うん〉
俺たちは日が暮れるまでレッサー・ラットを倒し続けて、小屋に帰還したのだった。
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