第79話 ハイ・ヒューマンキラー
「あ、あれはハイ・ヒューマンキラーですの!!」
黒一色のハイ・ヒューマンキラーの全長は四メートルを超えている。ハイ・ヒューマンキラーはゆっくりと移動しながら辺りを見渡し、俺たちを視認すると腕の枝を放ち、俺の腹に枝が突き刺さる。
速い……マジか? 『全耐性』の腕輪がなかったら腹に風穴があいていたところだぜ。
「マークⅢ、皆を連れて撤退しろ!!」
俺は肩にのっているダークとマークⅠを、俺の後ろに控えているワンちゃんに預ける。
「……分かりましたの」
マークⅢが不満げに返し、マークⅢたちは後退する。
奴の腕の先端は竹箒のように無数に分かれていて、ハイ・ヒューマンキラーはその腕の枝を俺に目掛けて一気に放つ。
マジかよ? 腕の枝の数が通常種とは比較にならない。
即座に『威風』を発動した俺の体から、深紅の輝きが爆炎となって迸る。
俺はハイ・ヒューマンキラーに向かって一直線に突き進み、『フルフル』を発動して無限に展開する画像の中から、腕の枝の攻撃を全て躱しきった画像を選び出す。
結果、無数の枝を掻いくぐった俺がハイ・ヒューマンキラーに肉薄し、ミスリルランスを大きく振りかぶって渾身の薙ぎ払いを繰り出したが、手応えはない。
躱されたのか!? マジか!? やべぇ!!
「ちぃ!!」
一気に片を付けるつもりだったが、慌てて振り返ると、俺に目掛けて奴の腕の枝が雨のように降り注ぐ。
俺は右に跳躍して枝を回避したが、枝は生き物のように軌道を変えて迫る。
厄介過ぎるだろ……
『フルフル』を発動した俺が無数の回避結果の画像の中から一つを選択し、おびただしい数の枝の攻撃を回避して、その側面に回り込んだが、ハイ・ヒューマンキラーは俺に目掛けて凍てつく冷気を放った。
ぐっ、ブリザーの魔法か!? こいつが魔法を使えることを失念してたぜ。しかも、俺の体の動きが鈍い。やはり、『威風』発動時に『フルフル』の併用はSPの消費が激しすぎる。
しかし、このままではいたちごっこが繰り返されるだけだ。
意を決した俺は『フルフル』を発動して凍てつく冷気を躱し、奴の側面に回り込む。
ハイ・ヒューマンキラーは数え切れないほどの腕の枝で迎撃しようとするが、その刹那、俺は再び『フルフル』を発動して奴の背後に回った。
「がはっ!?」
俺の口から大量の血が激しく噴き出した。
ぐっ、『フルフル』の連続使用は体に負担が掛かりすぎる。
だが、そんなことはどうでもいい。こいつをのさばらせておくことに比べたら些細なことだからな。
「終わりだっ!!」
最初の攻撃はこいつを上下に両断するために、薙ぎ払いを選択したから俺の攻撃は躱されてしまった。
だが、次は外さない。
こいつの体をぶち抜くからな。
俺が全力の突きを繰り出そうとしたその刹那、地中から無数の脚の枝が俺に襲いかかる。
馬鹿なっ!? 一手先んじているはずなのに、まだ対応できるのか!?
ここで回避に『フルフル』を使うと俺に勝機はない。だが、俺は死んでもこいつを倒すために『フルフル』を攻撃に使うことを選択し、攻撃に『フルフル』を発動すると、無情にも俺の意識はプツンと途切れたのだった。
***
俺は目覚めると暗闇の中に立っていた。
どこだここは!?
俺は辺りを見渡すと俺の後ろには数知れない画像が浮いていた。その画像を見てみると俺の攻撃がハイ・ヒューマンキラーに直撃している画像で、しかも、画像は鮮明ではなくモノクロだった。
このことから導き出される答えは、俺は『フルフル』を発動してハイ・ヒューマンキラーを攻撃しようとしたが、SPが切れて意識を失ったということか。
じゃあ、どうしろというんだ? SP切れで『フルフル』は使えないんだぞ? これでは意識が回復しても殺されるだけだ。
「……いや、違う」
そもそも、ここは何なんだ?
俺の心象世界なのか……? あるいは『フルフル』が創り出した特殊な空間なのか?
……たぶん、後者だろうな。
俺の心象世界なら『フルフル』に関連した世界になるのはおかしい。そうであるなら『フルフル』という特殊能力は攻撃命中率と回避率の上昇だけではなく、なにか特殊な力を秘めているということになる。
確か『フルフル』の説明は、量子のもつれがどうとか意味が分からなかったが、要するに、特殊な力によって確率が上がるって話だろう。
そう結論づけた俺は、辺りを見渡して宙に浮かぶ無数の画像を確認する。
どこかにあるはずだ。この状況を打開する画像が。
走り出した俺は画像を確認していくが、それらしい画像は見つからない。
俺の考えは間違ってないはずだ。しかし、『フルフル』の超常的な力をもってしても、現状を変化させることは容易ではないということだろう。
だが俺は自分の推測を信じて、ひたすらに画像を探し続けていると、一枚の画像を目にして確信する。
「これだ!!」
俺は一枚だけ鮮明な画像に手を伸ばして掴むと、画像は強烈な光を発して、俺の中に吸い込まれる。
「こ、この力は……」
俺は急激に力が増したことを実感し、俺の体に何が起こったのかを直感で理解した。
くくっ、これなら奴に勝てる。あとはここからどうやって出るかが問題だ。
俺が辺りを見回すと、その答えは簡単だった。
宙に浮かぶ全ての画像が鮮明な画像に変わっていたからだ。
その画像の中から俺が直感で一枚を選び取る。次の瞬間、場面は現実世界へと切り替わり、俺はハイ・ヒューマンキラーの背後から槍で胴体をぶち破って突き抜けていた。
俺が振り返ると、奴の腹には巨大な風穴があいていた。
ハイ・ヒューマンキラーは腹の大穴を見つめて怪訝そうな顔をしていたが、腹の大穴は徐々に塞がりつつあり、一斉に腕の枝を放った。
「くくっ……」
あらたな職業に目覚めた俺からすれば、『威風』を使っていなくても少し遅く感じるぜ。
つまり、今の俺の素早さの値は、前の俺が『威風』を使っていた時よりも上ってことだ。
俺はミスリルランスで奴の腕の枝を全て斬り落とそうとしたが、数が多すぎて三分の一ほど残したところで断念し、『フルフル』を使って回避する。
さすがに全ての枝を斬れるほどに素早さは上がっていないか。
だが、これでけりだ。
俺が『プリン砲』を発動すると、俺の左手の掌から黄色い液体が放出し、その液体が渦を巻くように集まって球体の形になっていく。
その球体の直径が、一メートルほどの大きさになったところで、俺は球体を放つ。
放たれた球体は超高速で飛んでいき、ハイ・ヒューマンキラーの胴体を吹っ飛ばし、頭と僅かに残った上半身が地面に落ちた。
くくっ、とんでもない威力だ。球体をもっとでかくすれば威力は上がるんだろうな。
俺がゆっくりと歩きながら奴に近づくと、ハイ・ヒューマンキラーは地中から脚の枝を伸ばして俺を攻撃してくる。
「無駄な足掻きだ」
その程度の抵抗は想定内の俺は脚の枝をミスリルランスで容易く切断した。だが、それと並行してハイ・ヒューマンキラーは地中から脚の枝を伸ばして、干からびた上半身を掴んで下半身にくっつけようとしていた。
呆れた俺は下半身を手で掴んで一気に引き抜いた。
こいつは地中から引き抜かないと、この状態からでも再生するからな。
地中から引き抜かれたハイ・ヒューマンキラーの下半身は、瞬く間に萎れて息絶えた。
こいつは珍しい個体だから持って帰るとするか。あいつなら死体からでも魔法や特殊能力を奪えそうな気がするからな。
俺が砦に帰還しようと踵を返すと、唐突に声をかけられて振り向いた。
そこには右翼のリーダーである女大剣豪と20人ほどの隊員たちの姿があったのだった。
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